10 / 20
貧民区にて
しおりを挟む
「ちょ、ちょっとオーウィンさん、ここって……!」
「剣に手をかけておけ。そうすれば滅多に襲ってこないさ。コイツらが狙うのはより明確な弱者だ」
貧民区。文字通り貧しい者達が集まり暮らす区域。金と食に飢えた住人達が目をギラつかせて俺達を見ている。だが帯剣した二人組を襲うリスクは大きい。普通なら襲わない。
目的地は近い。狭い路地を進み右に曲がる。
「あの、もしかしてオーウィンさんって……」
「生まれも育ちもここだ、別に珍しくも無い。特に冒険者はここの出身のヤツがほとんどだ」
「そ、そうなんですか?」
「腕っぷしと覚悟さえあればなれるのが冒険者だからな。お前が良い例だ。――どいてくれ」
道の邪魔になっていた男にそう頼むと、少しの間を置いて男は道を空けた。
恨むような、妬むような鋭い視線を通り過ぎる際に感じた。フリューゲルが縮こまるようにして俺の服を手で掴んでくる。
堂々としていれば何も問題無いんだが、やっぱりこういう気質は中々変わらないか。
「ここだ」
「……ゴミ?がいっぱい?」
「住人が好き勝手に物を捨てる場所だ。あまり奥には行くなよ。臭うぞ」
大きな広場の半分が埋まる程のゴミ。久しぶり来たが相変わらず酷い場所だ。
「俺がガキの頃はここで良く遊んだんだ。……お、丁度良い」
広場の脇に何本か生えた木、その下に何本か転がっていた枝の内少し太めの二本を拾い、一本をフリューゲルへと投げた。
「ほら」
「わっ」
「斬り合いの真似事だ。俺ともう一人で、朝から晩までやってた」
懐かしい。朝から晩までやってたのはソイツに俺が中々勝てなかったからというのが理由ではあるが。
「やってみるか?」
「わ、私がですか?」
「お前、人と戦った事無いだろ。冒険者やってたら……そういう機会もたまにあるからな」
「あるんですか!?」
「まあお前は他のヤツらから変なやっかみを買いそうだし、少しは意識した方が良いな。ほら、斬ってみろ」
「む、無理です!」
「いや、たかが木の枝なんだが……。じゃ、俺から行くぞ。ほい。……目を逸らすな。自分の枝で防御するか避けろ。……後ろに下がりすぎだろ。ほら、斬り込んで来い」
酷かった。大げさに受け大げさに避け、俺には一切斬り込んでこない。しかもこれでもフリューゲルなりに本気でやってるのが分かってしまう。
「防御と避けはともかく、なんでお前から来ない」
「き、斬れないですよ!オーウィンさんは!」
「……まあお前が本気でマナを使えばそれでも斬れるとは思うがな」
駄目だ。対人はモンスター以上に問題有り。どこかで慣れさせておくべきか。
「まあ良い。で、俺が話したかったのは――おい」
「?」
「何の用だ」
俺と向かい合うフリューゲル、その背に人影。
見覚えがある。さっき道を塞いでいた男だ。
表情は険呑。手には薄汚れた小さな刃物。
「混ざりたい、って訳じゃなさそうだな」
「あっ、オ、オーウィンさん」
「どいてろ」
「……せ」
「あ?」
「寄越せええええっ!」
何を、なのかは分からない。物か金か、それとも女か。何にせよ、コイツが普通ではないという事は分かる。
「寄越さねえよ」
「あああああっ!」
男が走り出した。俺から少し離れた場所に居るフリューゲルではなく、俺の方へ。
手の枝を捨て、剣に手をかけ迎撃の為に足に力を込めた瞬間、右足の力が抜けた。
「……クソっ」
古傷の影響。迎撃は間に合わない。体勢が崩れた勢いをズラし横へと転がり込み、男の突進を避ける。
素早く一回転し再び男へと向き合った俺は、予想外の光景を見た。
「あがっ!?」
男の悲鳴と共にナイフが飛んだ。鞘に収まったままの剣でナイフの持ち手をぶっ叩かれたからだ。
叩いたのは、いつの間にか男に接近していたフリューゲル。
フリューゲルはそのまま鞘から剣を抜き、痛みに悶える男の喉元に突きつけた。
「あの、やめてください。本当に。オーウィンさんはやめてください。ダメなんです」
フリューゲルの声色は聞いた事の無い冷たいモノだった。その手際、躊躇の無さ、さっき枝で斬りかかるのに躊躇してたヤツとは思えない。
……何はともあれ。
「……流石は英雄の卵だ」
対人訓練、要らないか。
「剣に手をかけておけ。そうすれば滅多に襲ってこないさ。コイツらが狙うのはより明確な弱者だ」
貧民区。文字通り貧しい者達が集まり暮らす区域。金と食に飢えた住人達が目をギラつかせて俺達を見ている。だが帯剣した二人組を襲うリスクは大きい。普通なら襲わない。
目的地は近い。狭い路地を進み右に曲がる。
「あの、もしかしてオーウィンさんって……」
「生まれも育ちもここだ、別に珍しくも無い。特に冒険者はここの出身のヤツがほとんどだ」
「そ、そうなんですか?」
「腕っぷしと覚悟さえあればなれるのが冒険者だからな。お前が良い例だ。――どいてくれ」
道の邪魔になっていた男にそう頼むと、少しの間を置いて男は道を空けた。
恨むような、妬むような鋭い視線を通り過ぎる際に感じた。フリューゲルが縮こまるようにして俺の服を手で掴んでくる。
堂々としていれば何も問題無いんだが、やっぱりこういう気質は中々変わらないか。
「ここだ」
「……ゴミ?がいっぱい?」
「住人が好き勝手に物を捨てる場所だ。あまり奥には行くなよ。臭うぞ」
大きな広場の半分が埋まる程のゴミ。久しぶり来たが相変わらず酷い場所だ。
「俺がガキの頃はここで良く遊んだんだ。……お、丁度良い」
広場の脇に何本か生えた木、その下に何本か転がっていた枝の内少し太めの二本を拾い、一本をフリューゲルへと投げた。
「ほら」
「わっ」
「斬り合いの真似事だ。俺ともう一人で、朝から晩までやってた」
懐かしい。朝から晩までやってたのはソイツに俺が中々勝てなかったからというのが理由ではあるが。
「やってみるか?」
「わ、私がですか?」
「お前、人と戦った事無いだろ。冒険者やってたら……そういう機会もたまにあるからな」
「あるんですか!?」
「まあお前は他のヤツらから変なやっかみを買いそうだし、少しは意識した方が良いな。ほら、斬ってみろ」
「む、無理です!」
「いや、たかが木の枝なんだが……。じゃ、俺から行くぞ。ほい。……目を逸らすな。自分の枝で防御するか避けろ。……後ろに下がりすぎだろ。ほら、斬り込んで来い」
酷かった。大げさに受け大げさに避け、俺には一切斬り込んでこない。しかもこれでもフリューゲルなりに本気でやってるのが分かってしまう。
「防御と避けはともかく、なんでお前から来ない」
「き、斬れないですよ!オーウィンさんは!」
「……まあお前が本気でマナを使えばそれでも斬れるとは思うがな」
駄目だ。対人はモンスター以上に問題有り。どこかで慣れさせておくべきか。
「まあ良い。で、俺が話したかったのは――おい」
「?」
「何の用だ」
俺と向かい合うフリューゲル、その背に人影。
見覚えがある。さっき道を塞いでいた男だ。
表情は険呑。手には薄汚れた小さな刃物。
「混ざりたい、って訳じゃなさそうだな」
「あっ、オ、オーウィンさん」
「どいてろ」
「……せ」
「あ?」
「寄越せええええっ!」
何を、なのかは分からない。物か金か、それとも女か。何にせよ、コイツが普通ではないという事は分かる。
「寄越さねえよ」
「あああああっ!」
男が走り出した。俺から少し離れた場所に居るフリューゲルではなく、俺の方へ。
手の枝を捨て、剣に手をかけ迎撃の為に足に力を込めた瞬間、右足の力が抜けた。
「……クソっ」
古傷の影響。迎撃は間に合わない。体勢が崩れた勢いをズラし横へと転がり込み、男の突進を避ける。
素早く一回転し再び男へと向き合った俺は、予想外の光景を見た。
「あがっ!?」
男の悲鳴と共にナイフが飛んだ。鞘に収まったままの剣でナイフの持ち手をぶっ叩かれたからだ。
叩いたのは、いつの間にか男に接近していたフリューゲル。
フリューゲルはそのまま鞘から剣を抜き、痛みに悶える男の喉元に突きつけた。
「あの、やめてください。本当に。オーウィンさんはやめてください。ダメなんです」
フリューゲルの声色は聞いた事の無い冷たいモノだった。その手際、躊躇の無さ、さっき枝で斬りかかるのに躊躇してたヤツとは思えない。
……何はともあれ。
「……流石は英雄の卵だ」
対人訓練、要らないか。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
突然シーカーになったので冒険します〜駆け出し探索者の成長物語〜
平山和人
ファンタジー
スマートフォンやSNSが当たり前の現代社会に、ある日突然「ダンジョン」と呼ばれる異空間が出現してから30年が経過していた。
26歳のコンビニアルバイト、新城直人はある朝、目の前に「ステータス画面」が浮かび上がる。直人は、ダンジョンを攻略できる特殊能力者「探索者(シーカー)」に覚醒したのだ。
最寄り駅前に出現している小規模ダンジョンまで、愛用の自転車で向かう大地。初心者向けとは言え、実際の戦闘は命懸け。スマホアプリで探索者仲間とダンジョン情報を共有しながら、慎重に探索を進めていく。
レベルアップを重ね、新しいスキルを習得し、倒したモンスターから得た魔石を換金することで、少しずつではあるが確実に成長していく。やがて大地は、探索者として独り立ちしていくための第一歩を踏み出すのだった。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
俺、貞操逆転世界へイケメン転生
やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。
勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。
――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。
――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。
これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。
########
この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる