肉月〜ニクツキ

白井智之

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肉月~ニクツキ06

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2年生の教室。
英語の授業が行われている。
教室にいる生徒の中でもとくに
小さく、太っているのが
桜井音哉。(さくらい おとや)
彼が相撲部と聞くと多くの人は

「確かに太っているけど、こんな可愛い子が?」

と、疑問に感じる。
とても相撲なんていう格闘技ができる
タイプには見えない。
そして実際に桜井は弱かった。
相撲部といっても現在は桜井のほかに
2~3名の幽霊部員がいるだけだ。
活動内容は部員の勧誘とストレッチ程度。
そしてかつて、部員が多くいた頃も、
桜井はマネージャーのような存在だった。
そんな相撲部の現状を思って桜井は
溜息をついた。

【昔は部員も結構いて楽しかったな…】

桜井は過去の相撲部を思い出すとつい、
卒業してしまった去年の3年で
相撲部主将である柴田の事を
思い出してしまう。
桜井と柴田は1年ほど恋人だった。


1年ほど前…


桜井は瞳に涙を潤ませながら柴田に言う。

「うっ…あぁぁ…痛い‥痛い…ちょっと待って下さい、痛いです、主将!!」

そう言われた身体の大きな主将、柴田は
ゆっくりとチカラを抜いていく。
すると柴田の逞しい両腕に背中を押され、
前のめりになっていた桜井の上体が
ゆっくりと起き上がっていく。

「もう‥股割りは、僕には一生出来ませんよぉ…」

非難するように桜井が言うと柴田は
太い眉毛と細い目で桜井を静かに見る。
そして注意してよく見ていないと
見逃してしまう程、ほんの僅かに
ニコリと笑って応える。
その逞しくも不器用な男の笑顔に、
桜井はドキッとしたが、再びゆっくりと
背中を押され、悲鳴をあげる事になる。

相撲部主将3年生、柴田剛(つよし)。
身長183センチ、体重150キロで
圧倒的なパワー。大会でも素晴らしい
戦績を残してきた。プロの相撲部屋からも
注目されているが本人は大学への進学を
希望している。部員からの信望も厚い。
その主将が自ら指導しているのが、
今年たった一人だった1年の進入部員、
桜井音哉。160センチほどの身長は
相撲部、歴代最小…。
それでも主将である柴田はたった一人の
進入部員を大切に指導したのだ。
もともと甘えん坊な性格の桜井は
そんな主将にたっぷりと甘えながら
指導を受け日々を過ごしていた。
2人の関係は他の部員や顧問からは少し
主将が桜井を甘やかし過ぎる場面も
あったが多くの場合、微笑ましい光景に
映っていた。しかし実際には、
この2人がお互いの身体を求め合い、
愛し合っているとは誰も気がつかなかった。
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