アーク=ライト・フォン・レギンレイヴ 傭兵剣士と古の巨人

ホークウッド

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最新のかき氷を作る機械だ

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「次弾装填。護衛は任せた」

「ああ」

 攻撃のタイミングはこちらに任されていたが、どうやら親父たちも始めたらしい。

 東の見張り台が吹っ飛んでるし、上に固定されていた跳ね橋も落とされていて、馬に乗ったホルストがそこへ猛然と突っ込んでいた。

 北にいたっては親父に力づくで吹っ飛ばされたらしく、柵が吹き飛んでいる。

「あれ、千年杉を使った柵だろう。よくやるな」

「控えめに言って、化けもんだぜ、ありゃ。流石団長」

 千年杉は最低でも千年は生きると言われる生命力の塊のような杉だ。

 下手すると万年とか、それ以上生きていることも多々あり、その防御力と生命力は筋金入りである。

 地形が変わるほどの大地震や土砂崩れ、津波が起ころうが、隕石が落ちようが、平気で生えているし、燃えたり、削れたりしてもすぐに再生する。

 その性質上、城壁などに用いられることも多く、切り取るのに優秀な戦士が10人はいると言われるが、その苦労に見合う素晴らしい堅牢さと再生能力を持つという。

 それを馬上で振り回した槍一つで薙ぎ倒し、村へと侵攻する様は圧巻の一言。

 門のない北側からは敵が来るはずはないと油断していた山賊は大慌てのようだ。

「装填完了、どこを撃てば良い?」

「西の見張り台だ。ホルストたちを援護したい」

「了解」

 再び銃を構えたクリフが、呪文の書かれた魔導書の切れ端をくしゃりと捻って紐にして薬室に差し込み、指先に集めた微かな魔力で火を付ける。

 使い捨てのクズ魔石の欠片に、熱と魔力が供給され……

「ファイア!」

 ドズンッ! 

 大砲を撃ったような重低音と、キューンという甲高い音がして、また一つ見張りごと物見台を潰した。

「見張り台は千年杉で作ってないんだな」

「たぶん山賊か村人が、慌てて継ぎ足したんだろ。作りも雑だし」

 口に乾燥したニンジンを咥えて、ポーチから新しい縁銅豆えんどうまめの鞘を取り出しては銃の横から装填していく彼の表情は渋いままだ。

「あれじゃ直接攻撃しなくても、いつか巻き込まれて壊れてたな」

「そうなのか。まあ、お前の銃は強いしな」

「そ、そうかな……いや、そうだよな!」

 喜んでいるクリフだが、彼の魔法鍛冶屋としての腕と、彼の改造した火縄銃は本物だ。

 銅床に生え、銅の鞘と豆をつける植物『縁銅豆えんどうまめ』を弾に用いた、文字通りの豆鉄砲。

 だが、その威力と速さは折り紙付き。

 砕けたクリスタルの欠片に込められたソフィの強烈な雷によって、銃身と銅の弾丸が帯電。

 強力な電磁力に挟まれて、猛烈な勢いに加速した弾丸が、半ば熱で溶けながら狭い銃身内を爆走。

 千年杉で作られた銃身は、刻まれた「森」の秘文字によって、入り口と出口が繋がった迷いの森と化し、そこで弾丸は加速し続ける。

 あとはクリフが引き金を引けば、森の字が遮られて、その瞬間だけ無限ループが解除され、超加速したスーパー豆鉄砲が発射される。

 千年杉の再生力により、メンテナンスもフリー、という具合だ。

「準備さえすれば、ごく少ない魔力で遠距離物理攻撃を行える。整備も補給も簡単で、使い手を選ばない。良い兵器だと親父たちも褒めてたぞ」

「むへへっ。あたぼうよ! こいつを改造するのに、三年以上費やしたんだからな!」

 流星のように尾を引きながら、山賊のいる見張り台を吹っ飛ばす豆鉄砲は、実に頼もしい。

「ちっ、さすがに建物に籠られたか」

「まあ、仕方ないさ。他の奴を狙ってくれ」

 だが、それでも千年杉は壊せない。傷をつけ抉ることは出来るが、その程度だ。

 クリフも一応駄目もとで打ち込んでみたものの、屋根の表面をいくらか吹っ飛ばした時点で弾丸は止まってしまった。

 苛立たしげに片足をストンピングするクリフを宥めながら、次弾を込めさせる。

「……あの家が千年杉で作られてなきゃ出来たんだ」

 唇を尖らせてそう言うクリフに苦笑する。

「たしかに今回は相手が悪かったな」

「本当だよ。なんなんだここは要塞か? ただの民家が千年杉使ってんじゃねえよ!」

「俺たちの後ろは千年杉の森なんだ。仕方ないだろ」

 まあまあと荒ぶるクリフを宥めて、敵の様子を伺う。

「敵さん、こっちに気づいてないな。いや、それどころじゃないって感じか」

「そりゃあ団長やおやじたちが北と東から攻めてんだ。見張り台どころじゃねえだろ」

「違いない。このまま南門を固めるぞ。村から出ようとする奴は片っ端から撃て」

「りょーかい」

 ようやくいつもの調子に戻ったクリフは傍目にもいきいきと狙撃を始めた。淀みなく手を動かして装填し、放つ。

 雷が落ちた時独特の匂いと、金属が溶けた匂いが辺りを漂い始めたが、特に敵軍がここを目指して来る様子はない。

「うーん、まだまだ師匠の腕には及ばねーなぁ」

 遠距離から確実に敵を始末していくアシッドの戦果に及ばないことを気にしているのか、クリフはぷうぷうと呟いている。

 たしかに、隠れられたり手斧で弾かれたりで、最初の数発以降、なかなか戦果が上がらない。

 これでも弾速は雷の半分くらいはあるんだが、どうやら敵の方が一枚上手のようだ。

 だが、親父たちが来るまでの足止めにはなっているので、俺たち新人の戦果としては十分だろう。

「ん?」

 俺は一瞬目を疑った。

 椅子だ。窓から椅子が飛んできた。

 結構な勢いで飛んでおり、当たると危ないので早々に切り捨てる。二つになった椅子が後ろの千年杉に当たって、粉々に砕けた。

「!」

 今度は斧だ。回転する手斧が弧を描いて飛んでくる。
 何があったのか、と恐る恐る頭を上げようとしていたクリフの頭を引っ掴んで、雪の中に突っ伏す。

 その上を掠めるように飛んで行った手斧が、千年杉に突き刺さり、そのまま両断した。

「は?」

 クリフの目が点になった。

 そりゃそうだ。自慢の火縄銃でも破れなかった千年杉、しかもより硬いだろう生気あふれる生木をその辺の木こりが使うような斧で切り株にしちまったんだから。

「すまん、アーク。俺は目がおかしくなったみてぇだ。千年杉が切れちまったように見えるぞ」

「そうだな。クリフは隠れてろ、俺の仕事が来たらしい」

「は? は? お、おい、アーク。危ないからやめた方が、ぐえ」

 ごちゃごちゃ言っているクリフを雪の中に叩き込んで隠し、さも自分が持っていたかのように火縄銃を持つ。

「よう、随分と舐めたことしてくれたじゃねえか」

 強敵はすぐそこまで来ていた。
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