アーク=ライト・フォン・レギンレイヴ 傭兵剣士と古の巨人

ホークウッド

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かみなりの試練 3

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(64……128……256……512……)

 と、一回ごとに倍々に増えていく雷の数を数えながら俺は避け続ける。

 ほとんど真っ直ぐに進む光と違い、雷は枝分かれし、時にジグザグ移動や往復したりと気まぐれだ。

 だからこそ、良い訓練になる。

 魔術を使わなければ光の方が数倍速いのだが、真っ直ぐに進むだけの光など怖くもなんともない。

 魔法で光に追尾能力を付けても良いのだが、それより威力もランダム性も高い雷を無数に落とされる方が、良い訓練になる。

 動体視力や反射神経、空間把握能力や回避能力、耐久性などが鍛えられるのだ。

「やっほー。お兄ちゃん、やってるねー!」

「あ、ミディ」

「どうだ。アークの様子は」

「ガリア団長……はい、調子いいです。昨日より、ずっとよけています」

「そうか」

 窓の外で、おかっぱ頭の少女と黒髪の偉丈夫がソフィに話しかけている。

 身の丈以上の騎兵槍を持ち、腰に片刃の刀剣と太刀を佩いた黒鎧の大男、つまり俺の親父は、値踏みするような目で俺を見た。

 普段の血の通った暖かい言動が嘘のような、剣のように冷たい視線に、背筋に冷たいものが走る。

 傭兵となるべく磨いた勘が、一瞬後に殺されるはずの場所を察知して、無意識のうちに身体を動かそうとする。

(落ち着け……これは罠だ)

 勝手に動こうとする身体を制御する。

 訓練の結果身についた反射的な回避を、意識してやめさせる。

 前回は親父の殺気の篭った視線に気を取られて、雷に当たってしまった。

 今回はそのてつを踏むわけにはいかない。

『戦場では背後を狙われるのは当然だ。漁夫の利を狙っているのは一人ではないぞ。全員だ』

 なぜ修練の邪魔をしたのか。

 ミディの回復魔法の実験台になりながら尋ねた俺を、出来の悪い息子を見る目で言った親父の言葉が全てだった。

 親父は俺の知る限り最強の傭兵である。

 知識も、経験も、実力も、駆け出し未満見習いの俺とは比べ物にならない。

 その言葉には残念ながら説得力があった。

 俺は親父の当ててくる心臓麻痺を起こしそう殺気の遠当てを無視し、努めて冷静にソフィの雷を躱し続けた。

 激しく動き回るようなスペースはないので、出来る限り小さな動作で、ソフィの雷を避け続ける。

 今回はそういう趣旨の訓練だ。

 修行に付き合ってくれるソフィも慣れたもので、昔は一度に一つしか出せなかった雷も、今では百本でも千本でも思いのままに出せるようになってしまった。

 火力だけならもう立派な魔道士だ。

 そう思っていたのだが、親父や傭兵団の仲間たちに言わせるとまだまだらしい。

 たしかに精神面や肉体面では一般人と大差ないので、そのせいで戦場に出せないと言うのは納得なのだが、もしかしてまだ火力が足らないのだろうか。

 そんなことを考えながら、通算1万本目の雷をバク転でヒラリとバク宙で躱す。

(このままじゃまずいな……)

 もはや一度に放たれる雷の量が多過ぎて、最初のように剣術の歩法を活かして小さな動作で躱すことは出来なくなっていた。

 動作は小さければ小さいほど自分や周囲への負担が少なく、隙も生まない。

 だが、未熟者の俺には一歩も動かず、多数の雷を躱すことなど出来ない。どうしてもアクロバットな動作を入れざるを得なくなる。

(親父が俺くらいの頃には出来ていたことだ。負けてたまるか)

 だからといって諦めるのは論外だ。

 出来ないなら出来ないなりに足掻くしか、ない!

 
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