上 下
6 / 6

第6話 不毛の地に家を作る

しおりを挟む
 夜になった。

 ひゅー。ひゅー。ひゅー。ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 風が吹く。

「ううっ……さ、寒いです。グレン様」

 食料の問題は小麦畑を作る事で一応の解決をする事はできたが、やはりこの不毛の地で野宿するのは危険だった。夜は相当に冷え込むのだ。こんなところで野宿したら風邪をひいてしまう。

「生活において必要なのは言うまでもなく『衣食住』だ」

「『衣食住』ですか!? 『衣食住』とは一体……」

「『衣食住』っていうのは着るもの、食べる物、住む所。この三つが人間が生活していく上で絶対必要な三条件って事だ……。この三つが整っていないと安定した生活を営む事は出来ない。勿論、人間だけの事じゃない。エルフやドワーフだってそうだ」

 どんなものを着るか、どんなものを食べるか、どんな住居に住むのかの違いはあれど、どんな種族だって大抵の場合、生きていくのにその三要素は必須であった。

「そうなのですね……着るもの、食べる物、住む所。私達が生きていく上で必要なのはこの三つなのですね……」

 ティファリアが感心したようにして言う。

「そうだ……小麦畑とマジックオーブンを作った事で、とりあえずはそのうち、食べるものに関しては解決された……着るものはとりあえずは最初から持っている」

 同じものをずっと着ていると臭くなるから、洗濯する必要はあるだろうが……。それは後々考えていけばいい事だった。今、早急に対応しなければならない事でもない。

「だから俺達には次には住む所が必要というわけだ」

「住む所、と言ってもどうするのですか? どうやって作ればいいのでしょうか? つまりはこの不毛の地に家を建てるという事でしょう?」

「ああ……家というのは食糧を作るよりも大変な事だ。まず人手がいる。この北の辺境に家の材料となる木材を運ぶだけでも大変だろう。何十人という人手、それから積み荷を運べるような、馬車なんかも必要になってくる」

「ま、まあ……そんなに必要なのですか? それで木材を運んできて、どれくらいで家が建つのですか?」

「そうだな……休みなく人手を働かせても、何カ月はかかるだろうな。基礎的な工事もしなければならないだろうし……。この北の辺境はろくに雨は降らないが、猛烈な風は吹くからな。地盤を工事して、補強する必要もあるだろう」

「何か月も……そんなにかかるのですか。そんなにかかったら、そのうちに私は凍え死んでしまいそうです」

 ティファリアは嘆いた。

「……当然のように俺達にそんな悠長に事を進めている余裕はない。人材がそんなにいるわけでもないしな……」

「だ、だったらどうすればいいと言うのです?」

「……仕方ない。今回もチート(ずる)を使う」

「また、グレン様の魔法でどうにかするという事ですか?」

「まあ……そうだな。その通りだ。悠長な事をしている暇もないしな……」

 俺は今回も魔法を使って、何とかする事にした。

「ゴーレム生成」

『『『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』』』

 土に還っていったゴーレム達が、俺の魔力を受けて、再び具現化する。

「近くの森から、木材を持ってきてくれ」

 コクッ。土で出来たゴーレム達は、俺の命令に対して、そう頷いた。

 ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ!
 ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ!
 ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ!

 ゴーレム達はけたたましい足音を鳴り響かせながら、近くの森に木材を取りに行った。

 その間に、俺は地面操作の魔法を使い、地盤を整地しておいた。

 ◆

 しばらくの時間を経て、ゴーレム達は戻ってくる。当然のように、大量の木材を肩に担いで。

 こうして、俺達は家を建築するのに、必要な木材を入手したのであった。

「よし……これで準備は万端だ」

 俺は手に魔力を集中させる。発動させる魔法は風魔法だ。

「風魔法(エアロカッター)!」

「きゃっ!」

 物凄い風圧に、ティファリアが短く悲鳴を上げた。

 猛烈な風の刃が、木材を自在にカッティングする。そうする事で、適切なサイズの木材に加工できるのだ。

 とはいえ、木で家を作るにはもっと正確な加工が必要だ。

「……よし。これを後はもっと加工して組み立てれば家の完成だ」

「グレン様、ゴーレムさん達に組み立てて貰うんですか?」

「いや、ゴーレムにはできない。ゴーレムは力こそあるが、器用さや小回りは効かないんだ。誰にだって得意と不得意がある」

「……はぁ。ゴーレムさん達も何でもできるわけではないんですね」

「こいつは小人(ホビット)達に加工と組み立てをして貰う」

 俺は更なる魔法を発動させる。発動させるのは召喚魔法の一種だ。ゴーレムとは対極的な存在を俺は召喚する。

「小人(ホビット)召喚」

 無数の小人達が俺の魔力により生成される。その姿は掌よりも小さい程だ。

『『『ご主人様、どうされたのですか?』』』

 小人達が召喚者である俺に尋ねてくる。

「ここに木材があるから、加工して家を建ててくれ。とりあえずは二人で住めるだけのサイズでいい」

 増築はいずれやっていく事になるだろうが、とりあえずは二人が住めるだけの大きさの家があれば十分だ。

『『『はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!』』』』

 小人(ホビット)達が元気一杯に答えた。小人(ホビット)達は手早く木材を加工していき、家の組み立てに取り掛かる。器用にノコギリを使い、木材を加工し、釘とハンマーで家を作っていく。

 そして、小一時間程の時間をかけて、家が完成した。

「す、凄いですっ! こ、こんなにあっと言う間に家ができるなんてっ!」

 ティファリアはそう言って驚いていた。

 家は注文通り、二人が住むのにちょうどいい程の大きさだった。

「……よし。できたか。ありがとうな。小人(ホビット)達」

『『『はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい! どういたしましてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!』』』

 用を済ませた小人(ホビット)達は無に帰していく。

 こうして俺達の家ができたというわけだった。これで雨風を凌ぐのに困らなくなりそうだった。勿論、外敵に襲われる危険も少なくなるだろう。

 こうして家作りに没頭した俺達の一日は終わりを迎えるのであった。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

えいちだ
2022.08.31 えいちだ
ネタバレ含む
つくも
2022.08.31 つくも

ありがとうございます! 

解除

あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。

つくも
ファンタジー
主人公——臼井影人(うすいかげと)は勉強も運動もできない、影の薄いどこにでもいる普通の高校生である。 そんな彼は、裏庭の掃除をしていた時に、影人とは対照的で、勉強もスポーツもできる上に生徒会長もしている——日向勇人(ひなたはやと)の勇者召喚に巻き込まれてしまった。 勇人は異世界に旅立つより前に、女神からチートスキルを付与される。そして、異世界に召喚されるのであった。 始まりの国。エスティーゼ王国で目覚める二人。当然のように、勇者ではなくモブキャラでしかない影人は用無しという事で、王国を追い出された。 だが、ステータスを開いた時に影人は気づいてしまう。影人が勇者が貰うはずだったチートスキルを全て貰い受けている事に。 これは勇者が貰うはずだったチートスキルを手違いで貰い受けたモブキャラが、世界を救う英雄譚である。 ※他サイトでも公開

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

ドラゴンに転生したら少年にテイムされました 〜心優しいマスターの夢を叶えるため、仲間と共に戦います〜

白水廉
ファンタジー
末期癌によって、二十八歳の若さでその一生を終えた黒岩翔。 目を覚ました翔はドラゴンの雛の姿になっており、やがて異世界に転生してしまったことを悟る。 起きてしまったことは仕方がない。 そう考えた翔は第二の人生をのんびり暮らそうとした矢先、人間の少年カイルに捕獲されてしまった。 そうして、アイズと名付けられた彼はカイルの従魔に。 やがて、カイルから「テイマー決定トーナメントに優勝して両親を楽にさせてあげたい」という健気な夢を聞いたアイズは、トーナメントへの出場を決意。 アイズは心優しいマスターのため、途中出会った仲間と共に優勝を目指すのだった。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。