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第2話 熊をワンパンして、エルフの王女を助ける

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「……よし。これで俺は晴れて自由の身だ」

 堅苦しい実家を追放された俺は反って、晴れ晴れとした気持ちになっていた。やはり貴族という身分は息が詰まる、窮屈なものだった。

 解放された俺はこれでやっとゆっくりとした生活を送る事ができる。前世で過ごせなかった、優雅なセカンドライフ。土いじりをして、作物を育てるような。そんな幸せな日々を過ごす事が出来るんだ。

 北の辺境に行くまでには深い森を潜らなければならない。

 森なんて、飛行(フライ)の魔法で抜ければいいのだが、あまり俺が魔法を使えるという事を誰かに知られたくない。力を持っている事を知られたら、きっとまた前世の時のようにこき使われるに決まっている。

 魔王退治の時には勇者にこき使われ、それが終わったら楽できるかと思ったら、今度は宮廷で魔法の研究に勤しまなければならかったのだ。
 
 だから、絶対に俺が前世で魔法を極めた賢者である事は絶対に誰にも知られてはいけない事だったのだ。

「なんていうか……不気味な森だな。すぐにでもモンスターが出て来そうな……」

 俺は警戒して森を進む。薄暗い森だった。視界が悪い。照明(ライティング)の魔法を使えば楽に進めそうだが……俺が魔法が使える事は悟られてはいけない事だったのだ。

 俺が森に入ってしばらくした時の事だった。

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 突如、甲高い女性の叫び声が聞こえてきた。

「ん? なんだ?」

 どうやら何かあったようだ。

 このまま無視して前に進むわけにはいかない。俺は悲鳴がする方へ向かっていった。

 ◆

「なんだ? あ、あれは……」

 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
 
 けたたましい叫び声が森に響いた。でかい熊の叫び声だ。そこにはでかい熊に襲われそうになっている一人の少女がいた。

 流れるような金髪をした少女。耳がとんがっている。あれはエルフと言われる亜人種だ。

 でかい熊には今にも、そのエルフの少女に襲い掛からんとしている。

 まずい……。人前で魔法を使いたくないとか、もうそんな事を言っている場合ではない。

 しょうがなしに俺は魔法を使用する事にした。

 俺は魔力の矢(マジックアロー)を放つ。魔力の矢が一瞬にして、でかい熊に襲い掛かる。

 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 でかい熊は断末魔を上げて果てた。

「……い、今のは魔法……し、しかも失われたと言われている、無詠唱の魔法」

 エルフの少女は驚いていた。無詠唱? ……そうか。魔王がいなくなって平和になった現代では魔法が衰退した。魔法を使用するには詠唱が必要になっていたんだった。今では無詠唱で魔法を使用する者自体が稀有な存在になっている。

「いやー……気のせいだよ。偶然、あのでかい熊に寿命が来たんだよ。あー、良かった、良かった。俺達は運が良い」

「そ、そんなはずありませんっ! 私、しっかりとこの目で見ましたから。あなたが魔法を使用して、あの凶悪な魔獣と言われるワイルドベアーを倒すところを」

 凶悪な魔獣……あのでかい熊。この世界ではそんな大層なモンスターだったのか。俺はてっきり、ただのでかいだけの熊かと。

 だめだ。どうやらもはや彼女の目は誤魔化せないようだった。

「あ、あの……助けてくれてありがとうございます。私の名はティファリアと申します。エルフの国の王女です」

「ティファリアさん……どうしてあなたがこんなところに。エルフは森の奥に隠れて、あまり人前には姿を現さない種族のはずだ。ましてや、斥候ならともかく、王女様なら猶更の事だ」

「魔法が使えるだけではなくて、博識なんですね。その通りです。エルフの国は森の深くにあり、中々、そこから出てくる事はありません」

「何か、理由があるのか?」

「魔王軍です。魔王軍に我がエルフの国は攻められたのです」

「魔王軍!? 魔王軍は千年前に勇者パーティーが魔王を倒し、滅んだはずじゃ」

「そうです。勇者ルーネスとそのパーティーにより魔王は滅ぼされました。ですが、残党がいたのです。彼等は長い時間をかけ、力を蓄えてきました。そして、その脅威は再びこの世界を脅かそうとしているのです」

「……そうか、残党がいたのか。あの時、もっと徹底的に叩き潰しておけば良かった」

「不思議な人ですね。まるで当事者のような事を言うではありませんか」

「な、なんでもない! ……忘れてくれ」

 俺は誤魔化す。

「エルフの国を脅かされた私は命カラガラ、ここまで逃げてきたというわけなのです」

「そうか……それであのでかい熊に襲われていたんだな」

「それで、あなたのお名前は?」

「俺の名はグレンだ」

「グレン様はなぜこの危険な森にお越しになったのですか?」

 実家を追われたという事はわざわざ言う必要はないだろう。

「この森を抜けた先にある北の辺境があるんだ」

「北の辺境?」

「そこを耕して、生活するつもりなんだよ」

「あんな何もない、不毛な大地で生活を……」

「だからこそ良いんだ。何もない大地……そして誰に居ない。誰に干渉されない。その方が都合が良いんだ。それこそが俺が望んでいた第二の人生なんだ」

「第二の人生?」

「い、いや。何でもない。忘れてくれ」

「グレン様、あなたには命を救われた御恩があります。どうか、私をあなた様の理想の実現の為に、手伝わせてはくれませんか?」

 ティファリアは俺にそう言ってきた。

「……構わないが、別に報酬なんて出せないぞ」

「構いません」

「そうか……なら行こうか」

「はい! よろしくお願いします!」

 このままティファリアを放置しておく事は危険だ。身寄りもない彼女をこの森に放置しておくわけにはいかない。しばらく匿う必要があるだろう。
 流石に見捨てておく事なんてできなかった。

 こうして、俺とティファリアは北の辺境へと向かうのであった。


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