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初夜(ミトラ的に)の出来事
しおりを挟む入浴を終えた俺は寝室へと向かう。
寝室に入った時、嫌な予感がした。何となく気配を感じたのだ。見た所布団が盛り上がっていた。
間違いない。あいつだ。
俺は布団をめくる。
「きゃっ!」
「やっぱり、お前か。ミトラ」
布団の下には全裸のミトラがいた。
「何のつもりだ?」
「何って、夫婦の初夜なのよ! やる事はひとつに決まっているじゃない!」
ミトラはそう主張する。俺は溜息を吐いた。
「神に祝福されし夫婦は、夜にひとつになるの。愛の結晶を育むために!」
「何を言ってるんだ、こいつは」
「そういうわけで、しましょう。ジル」
色っぽい上目遣いをミトラはしてきた。
「悪いがミトラ、俺はそんな気分ではない」
「なんで!? どうして? ……もしかして最初から裸なのが嫌だった? 服は自分で脱がせたいタイプ!? エッチな下着を着けてた方がよかった?」
「そういうわけではないが」
「じゃあ、もしかして。ジル。私の事嫌い?」
「勿論、嫌いではない」
「だったらいいじゃない。抱いてくれるくらい。別に私の事一番好きになれなんて言っていない。二番目でも三番目でもいいの。ただそれでも私に僅かにでも愛を注いでくれるならそれでいい」
「しかし……ミトラ」
「ジルは不能なの? こんなに女の子が慕ってきているのに」
ミトラは俺の頬を撫でる。
「不能なわけあるか」
「だったら簡単じゃない。意気地がないの?」
「そうではない。ただ、俺とお前は幼馴染で」
ミトラは俺の唇に指を添える。
「ジル。それは違うわ。幼馴染の前に男と女よ」
その瞬間、何となく時が止まったような感覚に陥った。俺の心臓の鼓動が高まる。
そんな時だった。寝室のドアが開かれる。
「あー。やっぱりです! どうもご自身の寝室にいないと思ったら、やっぱりジル様の寝室にいらっしゃいました!」
エリザが怒鳴っていた。
「何をしようとしてたんですか!?」
「決まってるじゃない! 夫婦の情事! 子作りよ!」
「な、何の躊躇いもなく言ってのける人ですね。普通少しは言葉を濁しませんか」
「セックスは夫婦の愛を育み、次の代に命をつなぐ神聖な行いなの。別に恥ずべく事じゃないわ」
「セックスって……普通に言った! 少しは恥じらいを持ってください! この痴女神官(プリースト)!」
「誰が痴女神官(プリースト)ですか!? 誰が!?」
「はぁ……」
俺は胸を撫でおろす。エリザの横やりがなければどうなっていた事かわからない。
やはり幼馴染として超えてはならない一線があるだろう。既に色々と超えてしまっている気はするが。
ともかくそれでも超えてはならない最後の一線がある。
そんな気がした。
いつまでも曖昧な幼馴染としての関係が続ければいいとどこかで思ってしまうのは。
俺の甘い考えなのだろうか。いつまでも続くわけもないのに。
ともかくこうしてその日の夜は過ぎていくのであった。
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