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幼馴染のプリーストがやってくる

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「ジル様」

「ん?」

 不死城での事だった。自室にいた俺にエリザが声をかけてくる。

「どうかしたか?」

 暇つぶしに読んでいた本をテーブルに置いた。

「ジル様にお客様だそうです」

「誰だ?」

「なんでもジル様の昔からのお知り合いの方のようです」

「昔からの知り合い?」

 あいつか。何となく見当がついた。

「いかがされましょうか?」

「通せ。多分、あいつだ」

「やはりお知り合いの方ですね。わかりました。お通しします」

 こうして俺はあいつと再会する事になる。

「ジルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 俺に抱き着いてきたのは金髪の少女だった。昔、近所に住んでいた女の子だ。久しぶりだったが、それなりに成長してきたようだ。柔らかい二つの膨らみは以前にはなかったものだ。成長の証だった。
 彼女はプリーステスのような恰好をしていた。神官服だ。彼女はプリーストになったのだろう。

「会いたかった! 会いたかったよ! もう! すっごい会いたかった!」

「久しぶりだな。ミトラ」

「うん。久しぶりだねジル」

「……けどどうやってここに来たんだ?」

「それはもう愛の力よ」

「愛の力って……曖昧だな」

「強いて言うなら匂いかな……こっちの方角に気配を感じたの。神のご加護を感じたのよ。そう! 神に導かれて私はここまできたの! でも、なんでなんで。王国をやめちゃったの?」

「ああ。それはだな」

 俺は説明した。ミトラなら俺の言葉をうのみにする。例え嘘でもだ。やりやすかった。無論教えるのは嘘でもなんでもない真実だ。国王暗殺の濡れ衣を聖女に着せられ、そしてエリザを助けこの不死城に来た事。

「ふーん。そうだったんだ。そんな事があったんだ。あの聖女さん、そんな事をジルにしてたんだ」

「知ってるのか? 聖女アリシアを」

「うん。ジルと同じ職場で働きたいと思って面接を受けてたの。向こうはすごく私に働いて欲しかったみたいだけど、ジルがいないからお断りしてきたの。なんか向こうは凄く困ってたみたい。なんでも事故が起きて怪我人がいっぱい出たんだって」

「そうか」

 最近ここら辺でも大きな地震を感じた。大方王国がその地震で被害を受けたのだろう。その関係で怪我人が出たのだ。
 人間を使うのだから無理もなかった。

「それでミトラ、何をしに来たんだ?」

「それはもうジルに会いにきたのよ」

「会って、どうするんだ?」

「決まってるじゃない。会って、愛を育んで、それで二人で幸せになるのよ。私と番になれば神様もきっと祝福してくれるわよ」

「悪いがそれはできない」

「どうして!? 私達こんなに愛し合っているのに! 私達の愛を阻むことは神様だってできないわ!」

 何を言っているんだこのプリーストは。俺が好きな事が前提になっている。別に嫌いではないが。

「俺はこの不死城で不死者を導かなければならない」

「どうして?」

「エリザとの約束なんだ」

「エリザ? ああ。この娘ね」

 エリザは先ほどから珍しく不機嫌そうに表情を曇らせていた。なぜかはわからないが。

「吸血鬼の娘。ジルにとって、この娘は何なの?」

「俺にとっては本当の娘みたいな存在だ。無論本物の娘を持ったことはないが」

「へー。そうなんだ。じゃあ別にいい。私も何か手伝わせてよ」

「手伝う?」

「うん。私は別にジルと一緒にいられればいいの。だって好きな人と一緒にいられる事は女にとって何よりも幸せじゃない」

「しかし、お前の職業で何ができる?」
 
 ここは不死者の国である。プリーストはヒールやリザレクションを主として使う職業である。それは生者にとっては役立ってることができても不死者にとっては逆効果になる事も多い。

「きっと何かできるわよ。私だって役に立てる。どんな環境でだってきっと花が咲けるわよ!」

「そうか……まあ確かに俺達の国は人材不足だ。お前でも必要になるかもしれない」

「よろしく。吸血鬼の娘」

「エリザと申します。よろしくお願いします。ミトラ様」

 なぜだろうか。二人の目から火花がバチバチと散っているような気がした。

 こうして不死者の国にプリーストの幼馴染がやってきたのである。
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