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宮廷ネクロマンサー、聖女に国王暗殺の濡れ衣を着せられ、国外追放される
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「あなたはクビよ。ジル・ロードニクス」
「え?」
俺はジル・ロードニクス。王国ハルギニアに勤めている宮廷死霊師(ネクロマンサー)だ。主な仕事はアンデッドの召喚及び使役。
アンデッドは見た目は確かに不気味だが、熟練したネクロマンサーが使役すれば言うことは必ず守る。そして人間のように食事も睡眠も必要としない。怪我もしないし、寿命もこない。その上無給で働いてくれるというこれ以上ないというくらい便利な存在であった。
俺とその使役するアンデッドは王国ハルギニアの貴重な労働力として役に立ってきたという自負があった。しかしその自負は無情にも裏切られる事になる。目の前にいる女性によって。
美しい女性である。煌びやかなドレスに身を包んだ神々しい輝きを放つ女性。作り物めいた美しい相貌は『絶世の美女』という言葉はこの人の為にある言葉なのだと素直に納得する事ができた。彼女は王国で聖女として崇められているアリシア・ハーモニクスという女性だった。年齢はつい最近20になったばかりらしい。まだ少女と言っても通用しそうではあった。国民から絶大な信頼を受けている彼女ではあるが、その慈愛に満ちた笑顔が作り物であり、その内面がもっと陰湿で醜いものである事を宮廷の内部にいた俺は知っていた。
彼女は自分が絶対なる存在だと思っている独善者であり、これ以上ない程のサディストだ。 実は性格がもの凄い悪い事を俺は知っていた。粗相を起こした使用人に激昂して暴行をしたり、そして簡単にクビにしたり、そういった『聖女』という肩書きとは正反対の素行をしょっちゅう繰り返していた。
「なぜですか? なぜ俺がクビなんですか!?」
「簡単よ。私がアンデッドが大嫌いなの。アンデッドなんて不気味でいつ人間に危害を加えるかもわかったものじゃないじゃない。考えても見なさい。街を歩けばアンデッドが闊歩しているのよ。そんなのこの聖女アリシアがいる王国ハルギニアとして相応しくないわ!」
「何を言っているんですか! アンデッドほど便利な存在はしない! 連中は食事も必要としない! 寝る事も必要ない! だから賃金も必要ないんです! その上連中は死霊術師(ネクロマンサー)が命令すれば絶対に人に危害を加える事もない!」
「うるさいわね! 見苦しい言い訳はいいのよ! 私はアンデッドが嫌いなのよ! あんな恐ろしい存在、見ているだけで吐き気がするわ! 聖女が率いるこの王国に相応しい存在ではないのよ!」
ヒステリックを起こした女に何を言っても無駄だ。こちらの主張に一切耳を傾けようとはしない。
「大体、聖女様。あなたに何の権限があって俺をクビに出来るんですか。俺は国王からの命令を受けて死霊術師(ネクロマンサー)として宮廷で働いているんですよ」
「そうね。確かに私にはそんな権限ないかもしれないわねっ。くすす、くすっ」
聖女アリシアは聖女とは思えない程悪辣な笑みを浮かべてきた。こいつは本当は聖女なんかではない。悪女だ。
「国王に会ってきます。この事を報告しにいきます。国王は俺とアンデッドの価値をわかってくれているはず。国王ならあなたの勧告を取り下げる事ができるはずです」
「あらー。そう。じゃあ行ってらっしゃい」
聖女アリシアは笑みを浮かべた。その時はまだ俺はアリシアの笑みの意味を理解していなかった。
俺は国王の部屋へと行く。
「国王陛下! お話があります! ……な、なんだと!」
そこにあったのは倒れていた国王の姿であった。血の水たまりを作って国王が倒れている。
「国王陛下! しっかりしてください! 気を確かに!」
俺は国王を抱き起こす。だめだ。呼吸も心臓も止まっている。蘇生も不可能だろう。国王は完全に死んでいた。
「ど、どうしてだ! どうしてこんな事になった!」
「まあ! 大変! なんて事でしょう! 国王陛下が不気味な死霊術師(ネクロマンサー)に殺されてしまったわ!」
その時だった。聖女アリシアが姿を現す。彼女の悪辣な笑みで全てを悟った。アリシアが国王を殺したのだ。殺したのはアリシアではないかもしれない。アリシアの息がかかったもの。だが国王暗殺の張本人は間違いなくアリシアだった。
「聖女アリシア! お前が国王陛下を殺したのか!」
「そうだとしても、この状況。果たして周囲はどちらの言うことを信じるの? 不気味な死霊術師(ネクロマンサー)と聖女様。果たして国王陛下を殺したのはどちらの方だと衆目は思う?」
聖女アリシアは悪辣な笑みを浮かべた。くそ! ハメられた。これが聖女アリシアの狙いだったのだ。聖女アリシアは国王を暗殺する事でこの国の実質的な最高権力者となる。そして濡れ衣を嫌っている死霊術師(ネクロマンサー)である俺に被せれば、邪魔者を追放する事ができる。
一石二鳥というわけだった。俺はまんまと罠にハメられたというわけだ。
「きゃああああああああああああああああ! 誰か来てーーーーー! 国王陛下が血塗れよ! 不気味な死霊術師(ネクロマンサー)もいるわ! こいつが殺したに違いないわ!」
聖女アリシアは叫ぶ。
「くそっ!」
国王暗殺の濡れ衣を着せられた俺は恐らくは裁判にかけられる。恐らくはその裁判は聖女アリシアの独断で決まるような裁判だ。俺は間違いなく死刑になる。
このまま王国にいたらまず、俺は脱兎の如くその場から逃げ出していった。
「くすすすすっ。あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」
その場には聖女アリシアの哄笑が響いていた。
「え?」
俺はジル・ロードニクス。王国ハルギニアに勤めている宮廷死霊師(ネクロマンサー)だ。主な仕事はアンデッドの召喚及び使役。
アンデッドは見た目は確かに不気味だが、熟練したネクロマンサーが使役すれば言うことは必ず守る。そして人間のように食事も睡眠も必要としない。怪我もしないし、寿命もこない。その上無給で働いてくれるというこれ以上ないというくらい便利な存在であった。
俺とその使役するアンデッドは王国ハルギニアの貴重な労働力として役に立ってきたという自負があった。しかしその自負は無情にも裏切られる事になる。目の前にいる女性によって。
美しい女性である。煌びやかなドレスに身を包んだ神々しい輝きを放つ女性。作り物めいた美しい相貌は『絶世の美女』という言葉はこの人の為にある言葉なのだと素直に納得する事ができた。彼女は王国で聖女として崇められているアリシア・ハーモニクスという女性だった。年齢はつい最近20になったばかりらしい。まだ少女と言っても通用しそうではあった。国民から絶大な信頼を受けている彼女ではあるが、その慈愛に満ちた笑顔が作り物であり、その内面がもっと陰湿で醜いものである事を宮廷の内部にいた俺は知っていた。
彼女は自分が絶対なる存在だと思っている独善者であり、これ以上ない程のサディストだ。 実は性格がもの凄い悪い事を俺は知っていた。粗相を起こした使用人に激昂して暴行をしたり、そして簡単にクビにしたり、そういった『聖女』という肩書きとは正反対の素行をしょっちゅう繰り返していた。
「なぜですか? なぜ俺がクビなんですか!?」
「簡単よ。私がアンデッドが大嫌いなの。アンデッドなんて不気味でいつ人間に危害を加えるかもわかったものじゃないじゃない。考えても見なさい。街を歩けばアンデッドが闊歩しているのよ。そんなのこの聖女アリシアがいる王国ハルギニアとして相応しくないわ!」
「何を言っているんですか! アンデッドほど便利な存在はしない! 連中は食事も必要としない! 寝る事も必要ない! だから賃金も必要ないんです! その上連中は死霊術師(ネクロマンサー)が命令すれば絶対に人に危害を加える事もない!」
「うるさいわね! 見苦しい言い訳はいいのよ! 私はアンデッドが嫌いなのよ! あんな恐ろしい存在、見ているだけで吐き気がするわ! 聖女が率いるこの王国に相応しい存在ではないのよ!」
ヒステリックを起こした女に何を言っても無駄だ。こちらの主張に一切耳を傾けようとはしない。
「大体、聖女様。あなたに何の権限があって俺をクビに出来るんですか。俺は国王からの命令を受けて死霊術師(ネクロマンサー)として宮廷で働いているんですよ」
「そうね。確かに私にはそんな権限ないかもしれないわねっ。くすす、くすっ」
聖女アリシアは聖女とは思えない程悪辣な笑みを浮かべてきた。こいつは本当は聖女なんかではない。悪女だ。
「国王に会ってきます。この事を報告しにいきます。国王は俺とアンデッドの価値をわかってくれているはず。国王ならあなたの勧告を取り下げる事ができるはずです」
「あらー。そう。じゃあ行ってらっしゃい」
聖女アリシアは笑みを浮かべた。その時はまだ俺はアリシアの笑みの意味を理解していなかった。
俺は国王の部屋へと行く。
「国王陛下! お話があります! ……な、なんだと!」
そこにあったのは倒れていた国王の姿であった。血の水たまりを作って国王が倒れている。
「国王陛下! しっかりしてください! 気を確かに!」
俺は国王を抱き起こす。だめだ。呼吸も心臓も止まっている。蘇生も不可能だろう。国王は完全に死んでいた。
「ど、どうしてだ! どうしてこんな事になった!」
「まあ! 大変! なんて事でしょう! 国王陛下が不気味な死霊術師(ネクロマンサー)に殺されてしまったわ!」
その時だった。聖女アリシアが姿を現す。彼女の悪辣な笑みで全てを悟った。アリシアが国王を殺したのだ。殺したのはアリシアではないかもしれない。アリシアの息がかかったもの。だが国王暗殺の張本人は間違いなくアリシアだった。
「聖女アリシア! お前が国王陛下を殺したのか!」
「そうだとしても、この状況。果たして周囲はどちらの言うことを信じるの? 不気味な死霊術師(ネクロマンサー)と聖女様。果たして国王陛下を殺したのはどちらの方だと衆目は思う?」
聖女アリシアは悪辣な笑みを浮かべた。くそ! ハメられた。これが聖女アリシアの狙いだったのだ。聖女アリシアは国王を暗殺する事でこの国の実質的な最高権力者となる。そして濡れ衣を嫌っている死霊術師(ネクロマンサー)である俺に被せれば、邪魔者を追放する事ができる。
一石二鳥というわけだった。俺はまんまと罠にハメられたというわけだ。
「きゃああああああああああああああああ! 誰か来てーーーーー! 国王陛下が血塗れよ! 不気味な死霊術師(ネクロマンサー)もいるわ! こいつが殺したに違いないわ!」
聖女アリシアは叫ぶ。
「くそっ!」
国王暗殺の濡れ衣を着せられた俺は恐らくは裁判にかけられる。恐らくはその裁判は聖女アリシアの独断で決まるような裁判だ。俺は間違いなく死刑になる。
このまま王国にいたらまず、俺は脱兎の如くその場から逃げ出していった。
「くすすすすっ。あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」
その場には聖女アリシアの哄笑が響いていた。
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