生贄令嬢、なぜか冷酷な吸血公爵閣下に溺愛される~義妹が代わって欲しいとせがんでくるがもう遅い~

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吸血公爵様の屋敷で生活する

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 こうして生贄として吸血公爵様こと、吸血鬼のヴラド公爵の屋敷でなぜか、私は生活する事になったのである。

 しかし、この屋敷での生活は私が思っていた生活ではなかったのでのです。私の知っている生活とはスペンサー家での虐げられた生活なのです。そう、召使いとして日々過酷な仕打ちを受けるのが私の日常でした。

「……生活って、どうやって生活すればいいのですか?」

「別に……普通に生活すればよい」

 ヴラド公爵はそう告げてきます。

「普通の生活とは、いかがなものですか? ヴラド様」

 私は尋ねます。『普通』とは人や環境によって解釈が随分と分かれる言葉です。私にとっての普通の生活とはスペンサー家での虐げられ、召使いのように過ごす日常だったのです。

 ましてやヴラド様は普通の人間ではありません。吸血鬼です。とても私達人間とは同じ価値観をしているとは思えませんでした。

 人間の中でも価値観というものには差異があるのです。ましてや相手が人間以外の存在でしたら、なおの事その差異は大きくなる事でしょう。

「お前の普通とは、どのような生活を指すのだ? 申してみろ」

 私はヴラド様にそう聞き返させられてしまいます。私は説明します。私の起床は早く、朝から晩まで働かされ、満足に食事を与えられる事もない事。夜遅くまで働かされ、そして屋根裏部屋で眠る事。両親と妹とは血縁がなく、それが原因で虐げられている事。

私はスペンサー家で過ごしていた生活を包み隠さず話す事にしました。

「……なんだ、その生活はまるで家畜のような生活ではないか」

 するとヴラド様は驚かれたようです。

「はい。その通りです。私が令嬢というのは表向きの事でしかありません。実際のところ私はスペンサー家で召使いとして生活していました。その生活は召使い以下だったかもしれません。ヴラド様のおっしゃるように家畜のような扱いを受けて参りました」

「そうか……なんと不憫な事か。カレンよ」

「ですので私の認識している『普通の生活』とはそのような生活を指すのです。ヴラド様は私にそのような生活をしろと申すのですか? 召使いのように生活をしろと?」

「そんな事をする必要性はない。カレンよ。お前は少し休め。お前は前いた環境により疲れ果てているのだ。無理もない」

「では、家事などは誰がやるのですか? これだけ大きなお屋敷です。掃除や洗濯、食事などの手間だけでもそれなりの負担になる事でしょう」

「それだったなら問題はない。出てこい」

「はっ……」

 どこかから声がしました。この空間には私とヴラド様しかいなかったはずなのにです。
 美しい青年でした。ヴラド様のように人形めいた美しさを持った青年。彼は執事のような恰好をしています。
 彼は忽然と現れたのですが、どうやら私の影から姿を現したようでした。

「こやつの名はヴァンという。俺と同じ吸血鬼だ。まあ、俺の眷属だ。主な雑用はこいつがやってくれる」

「初めまして、カレン様。ヴァンと申します」

「……そうですか。ヴァン様」

「いえ、カレン様。私はヴラド様の眷属です。どうかヴァンと呼び捨てにしてください」

「呼び捨てって……」

 初対面の人にそのような態度を取るのはいかがなものでしょうか。私は首を傾げざるを得ませんでした。

「せめて、ヴァンさんと呼ばせてください」

「わかりました。カレン様がそうお望みでしたらそのように呼んで頂いて構いません」

「このように俺は幾多もの眷属を使役できる。眷属が雑務を行う故に、カレン、貴様は何もする必要がない」

「何もする必要がない? では私は何をするのですか?」

「カレン。これは命令だ。貴様はしばらく休め。雑務はそこにいる俺の眷属ヴァンが行う。貴様は疲れているのだ」

 そう、私はヴラド様に命じられます。『休む』今までの私には考えられない言葉でした。今までの私の生活では確かに夜眠る事は許されましたが、丸一日何もしないなどという事は考えられませんでした。
 丸一日仕事をしなくていい日など考えられませんでした。ですがそれが世間一般でいう『休む』という事なのでしょう。

「とりあえずは疲れを取ってから、その後の事はゆっくりと考えればいい」

 ヴラド様は薄い笑みを浮かべます。鋭い犬歯を輝かせました。

 私はヴラド様の厚意に甘え、人生で初めてともいえる休暇を頂く事にしたのです。

 こうして私の新たな生活がスタートしたのでした。
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