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ちょっかいを出してきた冒険者を一瞬で蹴散らす
しおりを挟む俺達は必要なマジックアイテムを求めていた。
その為にまず道具屋に入った。魔晶石屋という専門店だ。
「へい。いらっしゃい。何をお求めだい?」
店主の中年男が出てくる。
「ステータスの幻惑効果を持った魔晶石が欲しい」
「へぇ。珍しいな。そんな効果を持った魔晶石が欲しいなんて。見栄を張りたいのかい?」
逆だが、どっちでもいい。
「どちらでもいい問題だ。店主。あるのか? ないのか? どっちだ?」
「あるぜ。こいつだ」
そう言って店主は俺に紫色の結晶石を渡してくる。不思議な魔力を秘めた石である事を感じる。
「いくらだ?」
「金貨3枚……値下げはビタ一文うちでは受け付けてねぇよ」
「最初からするつもりはない。受け取ってくれ」
俺は金貨を3枚を渡す。
「あいよ。まいど」
「使い方だけ教えてくれ」
「この魔晶石は持ってるだけで発動する。だが、その前に初期設定があるんだ。魔晶石を軌道して、表示したい架空のステータスを捏造する。そうすれば解析(アナライズ)をされてもそのステータスが表示されるんだ」
「わかった。ありがとう」
「言っとくけど、それで本当に強くなるわけじゃないから。気をつけておけよ」
何も理解していない店主はそう言ってくる。
「ああ。わかった。気をつけるよ」
俺達は魔晶石屋を出た。
◆◆◆
「魔晶石発動」
俺は魔晶石を発動する。偽装するステータスを改竄する。適当でいい。やはり弱くした方が目立たないか。
『シン・ヒョウガ。年齢18歳。男性。職業暗殺者。所持スキルなし。ステータスLV1。HP10。攻撃力1防御力1魔力1敏捷性1』
よし。こんなところか。
「終わった?」
「ああ。問題なく魔晶石が発動した」
こうして俺はステータスを偽造したのだ。
「じゃあ、行きましょう。冒険者ギルドへ」
「ああ」
俺とユフィは冒険者ギルドへと向かう。しかし俺はこの時、弱いステータスを装う事のひとつのデメリットに気づいていなかった。
◆◆◆
「いらっしゃいませ! 冒険者ギルドへようこそ」
俺達は冒険者ギルドへ入った。そこには受付嬢が一人。それから数人の冒険者達がいた。
「この人の冒険者登録をしたいんです」
「はい。必要事項を記入してください。その後にステータス測定をしますね」
受付嬢に言われ、俺は書類に記入をする。
「それでは次にステータス測定をします」
解析効果を持った魔晶石を使用に、受付嬢は俺のステータスを測定し始めた。今から思えばあの鑑定士が使用していた水晶も魔晶石だったのか。純粋にスキルによるものかもしれないが。
心臓が高まる。ここで俺の所持している幻惑の魔晶石が上手く起動していなければ誤魔化しができない。俺の手の内を見せてしまう事になる。後々それが大きな歪みとなり襲ってくる可能性は十分にあった。影は影だ。太陽の光を浴びれば影は消える。
「あー……初心者の方ですかね」
受付嬢は申し訳なさそうに言った。
よし。俺は内心ではガッツポーズをしていた。
「はい。彼は戦闘経験もあまりなく、一頭もモンスターを倒した事もないんです」
「そうですか。これから頑張りましょうね」
受付嬢は笑顔で言う。
「手続きはこちらの方で済ませておきます。これが冒険者プレートです」
そう言って、俺はブロンズのプレートを受け取る。冒険者のランクはプレートの色でわかるらしい。
銅。赤。青。白。銀。金。白金。全7段階だ。だから初心者の冒険者の事を銅の冒険者と呼ぶ。
ふう。安堵の溜息を吐いている俺をあざ笑うかのような声が聞こえてきた。
冒険者達だ。恐らくは銀程度の冒険者であろう。どうやら俺に対して、解析(アナライズ)の魔法を使ったようだ。
「へへっ。マジかよこいつ」
「レベル1だってよ。それに他のステータスも全部1だって。こんなステータス初めて見たぜ」
「けど、横にいる女、すげー美人だな」
「ああ。こんな弱い男にはもったいねぇなー」
なるほど。あまりに弱くステータスを偽造するのもこの手の問題を招くのか。勉強になったな。
しかし俺は今、銅の冒険者として登録されてしまっている。今更急にステータスを強く塗り替えると違和感を与える事になる。それもまた憚られた。
ちょうど良い案配というのは何でも難しいものだ。さじ加減を誤ってしまう。
「ユフィ、行こうか。冒険者登録も済んだし」
「うん」
ただならぬ雰囲気を察知した俺はそそくさとその場と立ち去った。
「行くか」
「ああ」
当然のように俺は背後から歩み寄ってくる気配を察知していた。
◆◆◆
冒険者ギルドを出て、裏路地に入ってきた時の事だった。
「待てよ!」
「なんだ?」
呼び止められ、俺達は仕方なく止まる。そこにいたのはやはり、あの時冒険者ギルドにいた連中だった。
「俺達は冒険者だ。銀の冒険者なんだよ」
「そうか。それがどうしたんだ?」
「HPは全員が500以上。LVは平均30。攻撃力や防御力だって、それ相応に高いんだ」
「そうか? それがどうしたんだ?」
何を言っているんだこいつ等は。LV30? それを自慢げに語ってきているのか。確かに俺の表向きのLVは1だ。自分より弱い存在にマウントを取りたがるのは人間のさもしい本能かもしれない。相対的に自分の立ち位置を確かめ、悦に入るのだ。
「だから、てめぇみてぇな弱い冒険者じゃ、横にいる良い女は似合わねぇって事を言ってるんだよ!」
「そこのお嬢さん。そんな弱っちい雑魚じゃなくて俺達とパーティーを組まない?」
「そうそう。そんな奴より頼りになるぜ。ぐへへっ」
「戦闘だけじゃねぇ。色々な事を手取り足取りレクチャーしてやるぜ」
男達は涎を流している。屑が。汚らしい性欲を全開にして隠せていない。本能で生きている動物のような連中だ。
「お、お断りします。私はこの人とパーティーを組むと決めてるんです」
「だからさぁ、そんなつれないこと言わないで。そんな弱い奴じゃなくて俺達とさぁ」
「そうそう。俺達と良い事しようぜ。ぐへへっ」
男達が歩み寄ってくる。
「彼女に触るな。それ以上近づいてくると戦闘の意思があると判断して対処させて貰う」
「偉そうに言ってるんじゃねぇ! このレベル1の雑魚がぁ!」
冒険者が殴りかかってくる。
「があっ!」
俺は顎を小突いた。脳震盪で一瞬で崩れる。
「てめぇ!」
剣士風の男が剣を抜く。
「遅い」
俺は一瞬のうちに距離を詰めた。
「ぐはぁっ!」
腹に拳を喰らい、男は崩れ落ちる。
「くそっ! なんなんだっ!」
魔法使い風の男が呪文を展開しようとする。
「だがら遅いと言っている」
俺はミスリルダガーを首に突きつける。
「な、なんなんだよお前は! レベル1じゃねぇのかよ! こんなの嘘だろう!」
嘘は嘘だ。だが見破れない方にも非はある。俺はそう考えている。
「仲間を連れて失せろ。そうすれば命だけは助けてやる」
「ひ、ひいっ! わ、わかりましたっ!」
ずるずるずる
男は伸びている二人の男を引きずって退散する。
「はぁ……」
「弱いステータスを装うのも問題があったな」
何事にもメリットがあればデメリットもある。それだけの事だ。何かを得る為に何かを失うのは世の摂理と言って良い。
「悪い意味で目立っちゃうんじゃない?」
ユフィは呆れた口調で言う。
「そうだな。だができるだけ目立ちたくはないものだ」
俺は溜息を吐く。
「どうする?」
「今日のところは宿屋で休みましょう。活動はまた明日からよ」
「ああ。そうしよう」
俺達は宿屋へと向かった。
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