ヒーラーの方が安上がりだと追放されたが私じゃないと患者さん死にますよ?~治せないから戻ってこい?『ドクター』スキルでもあなたたちは手遅れです

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王国で大暴れをするキングベヒーモス

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「うわあああああああああああああ! なんだこの地震は!」

 ブラック・リベリオンの役員達は大慌てをしていた。

「ま、まさか! アルバートの奴めっ! キングベヒーモスを起動させたのかっ!」

「あれはまだ制御装置を取り付けていない未完成の生物兵器! 起動した場合、制御不可能で大暴れをしだすぞっ!」

「うっ、ううっ!」

「どうしたのだ?」

「く、苦しい! 苦しい! の、喉がっ! 目がぁ! 目がぁ!」

「地下の研究室には様々ウィルスを培養していたからそれが流出したかもしれん」

「どうするのだ? どうするのだ?」

「とにかく逃げるぞ! 我々はこんなところで死ぬわけにはいかないっ!」

 こうして役員達+獣人貴族レイドールは脱兎の如く逃げ始めた。

 ◇

「な、なんだあれはっ!」

「ば、化け物だっ!」

「に、逃げろぉ! 逃げろぉ!」

 王国はパニックになっていた。何せ、突如巨大なモンスターが出現したのである。そうなるのも必然であるといえた。

「どうするんですか? シオン先生」

「何とかするしかないでしょう」

 私は溜息をついた。

「やれやれ。今回も大変な手術(オペ)になりそうです」

 だがバハムートさんとの時と同じく、不思議と気分は高揚していた。困難を前にするとやりがいを感じるのかもしれない。患者の治療もそうである。

 何かをやり遂げた際に得られる達成感と充実感というのは大きい。

「ぐっ! 苦しいっ!」

「目がぁ! 目がぁ!」

 道行く人々が苦しみ始めた。

「ど、どうしたんでしょうか!? 皆さん急に」

 ユエルが慌て始める。

「おそらくは研究室のウィルスが蔓延したのでしょう。キングベヒーモスが破壊して回りましたから」

「そんなっ!」

「今は助けている余裕がありません。皆さま、この薬を飲んでください」

 私は予防薬を渡す。【ドクター】スキルで作り出したものだ。

「ありがとうございます! シオン先生! ごくごくっ」

「国王陛下もどうぞ」

「ありがとう……すまぬなっ」

 今は大勢の人々を助けている余裕がない。命には優先順位がある。それは災害時などのセオリーである。今はこのキングベヒーモスを打倒することが最も多くの命を助ける事となる。最優先事項はキングベヒーモスを何とかする事である。

「さて、どうしますか。あんな巨大な生物。私の注射針(ニードル)でも簡単には効きそうにありませんよ」

「くそっ! 放せっ! 俺を放せっ!」

「暴れるなっ!」

「貴様があの生物を解き放ったという事は知っているのだぞっ!」

 拘束されたアルバートが暴れていた。何とか地上まで登ってきたところを兵士に取り押さえられたようだ。

「しぶといですね。アルバート殿は」

 私は溜息を吐いた。

「き、貴様! もしかしてシオンかっ!」

「わかりましたか。まあ、幻惑系の装備をしていたので気付かなかったとは思いますが」

「く、くそっ! 貴様が我がギルドを出て行ってからというもの、不運な出来事の連続だっ!」

「まるで私から出て行ったように聞こえますね。まあ出て行って正解でした。こんなあくどい集団、私のような純粋なドクターには合いませんもの」

「ちくしょう!」

「んっ? アルバート殿。懐に何か隠し持ってはいませんか?」

「ぎくっ! なぜそれをっ!」

 私はアルバートの懐をまさぐる。

「あっ! 返せ! それはっ!」

「これは猛毒ですねぇ。この猛毒覚えがあります」

 私は診察(スキャン)で分析をした。

「これはエミリア様に盛られた毒ですねぇ」

「くっ! 返せ!」

「ひらめきましたよ! この猛毒を解析して特大の注射針(ニードル)で注射すれば、あのキングベヒーモスといえども一たまりもありません。極力殺生などしたくはありませんが、あれは仕方ないでしょう。存在自体が害悪の塊になっていますから」

「流石はシオン先生です! あんな大きなモンスターをどうにかできるんですか!」

「シオン先生、流石です。わたしにお手伝いできる事があったら何でも言ってください」

「ではユエルさん、ヴァイスさん。あのキングベヒーモスの注意をできるだけ引き付けて、時間を稼いでください。皆さまの活躍で尊い人命の喪失と建物の物損を減らせるのです!」

「「「はい!」」」

「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい! みんな!」

 フレイムの声が聞こえてきた。

 天空から四体の飛竜が飛んでくる。

「あれは……竜人の四姉妹」

 私は呟いた。

「私達のところに連絡がきたんです! 人間の王国でモンスターが暴れていると!」

 水竜アクアがそういった。

「そうなのだ! だから助けにきたのだ!」

 風竜エアロが言う。

「んだ! んだ!」

  地竜ティータが言う。

「そうですか。だったら四人も時間稼ぎに協力してください。私は作業がありますので」

「「「「はい!」」」」

「ではヴァイスさんは私のそばにいてください。私一人ではあの化け物まで近づけませんので」

「わかりました」

 ヴァイスはうなずく。

「わたしもお力になりたいのですが、あの化け物相手にはできる事はなさそうです」

 エミリアは嘆いた。

「わたしだってそうです」

 ユエルも嘆く。

「剣の限界を感じます。剣にできる事は限られています。あんな巨大な化け物相手ではとても通用しそうにありません」

「無理をされなくていいです。それぞれの器量というものがあります。それぞれが己の実力の範囲で最善を尽くせばいいのです」

 私はそう伝え、作業に没頭する。天空では四体の竜が闘っていた。

「竜魔法フレイムノヴァ!」

 火竜フレイムが竜魔法を展開する。燃え盛る紅蓮の炎がキング・ベヒーモスを焼き払う。しかし、効いている様子はなかった。

「竜魔法フロストノヴァ!」

 水竜アクアも魔法を放つ。凍える吹雪もキングベヒーモスには効いている様子もない。

「竜魔法エアストラッシュ!」

 風竜エアロも風魔法を放つ。幾多ものかまいたちがキングベヒーモスを襲う。

「うそっ! 効いてないのぉ!」

「バハムート様と同じくらい耐久性がありそうです!」

「これは大変なのだっ!」

「みんなどくのだっ! ティータの出番なのだ! 食らうのだ! 竜魔法! クェイクノヴァ!」

 突如起こった地割れにより、キングベヒーモスは躓いた。

 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 キングベヒーモスは崩れ落ちる。

「やったんだ! ティータが役に立ったんだ!」

「すごいです! ティータ!」

「そうだ! バハムート様と違って、足で地面に立つしかないからティータの地属性の竜魔法も通用するんだっ!」

「よくやりましたティータ!」

「えっへん!」

 地竜ティータは胸を張った。

「皆さん! ありがとうございました! 完成しました!」

 私は叫ぶ。新薬の開発は完成した。何せモデルがあったのだからそう時間はかからなかった。開発というよりは模倣である。

「えっ!? もういいの!!」

「はい! 十分です! ではヴァイスさん! 私をあのキング・ベヒーモスのところまで運んでくださいっ!」

「はいっ! シオン先生! 変化(トランス)」

 ヴァイスは白竜の姿に変化(トランス)する。

 私はヴァイスの背に跨った。

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
 
 キングベヒーモスは立ち上がる。

 私はその巨大な体躯を見上げた。心臓が高鳴る。珍しく気分が高揚していた。なんだかんだで私にも男らしい部分は存在しているようだ。目の前の強敵に対して興奮するなんて。困難は大きければ大きいほど乗り越えた時の達成感も途方ではなくなるものだった。それがドクターとしての楽しみでもあった。

「さて、手術(オペ)を始めましょうか」

 こうして私のキングベヒーモスに対する手術(オペ)が始まった。






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完結しました。お読みいただいた方々ありがとうございました。
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