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毒を盛られるエミリア
しおりを挟むコンコンコン。ノックの音がする。
「はい。なんでしょうか?」
エミリアの部屋に一人のメイドが訪れてきた。エミリアには夜寝るより前にハーブティーを飲む習慣があった。そしてそのハーブティーを運んでくるメイドも決まっていた。
当然、王族である。毒を盛られる危険性は常に警戒していた。だが、当然のように今まで何事もなかったのだ。緩んでしまう。
「ありがとうございます。ソシエ」
「いえいえ」
メイドーーソシエは笑みを浮かべる。
エミリアはハーブティーに口を付ける。その次の瞬間、見慣れたメイドの顔が醜くゆがんで見えた。
「え?」
次に自分の視界が大きく歪んだ。
ガシャン! ティーカップを盛大に落とし、ドサッとエミリアは崩れ落ちた。
「う、嘘……なんでソシエが」
「クックックックッ! アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ! 見事に策にハマったな! 王女エミリア!」
「あっ、あなたは……ソシエではないのですか!?」
メイド服が脱がれる。現れたのは黒い服を着た暗殺者風の女だ。幻惑の仮面と同じ、幻惑効果を持つマジックアイテムを装備していたのだろう。
エミリア自身にそれを見破るスキルを持ち合わせていない。でもなぜ、アサシンが簡単に潜入してきているのだ。
やはり裏で宰相が手引きをしてきたのであろう。間違いない。
「その毒は猛烈な毒だ。大型のモンスターを一瞬で殺しつくすほどの」
「くっ、体が動かない……視界がかすむ」
「普通の人間なら既に死んでいるほどだが、流石は剣聖の称号を持つ傑物だっ! なかなかにしぶといではないか!」
アサシンの女は驚嘆していた。
「だが、それも時間の問題だ! 王女エミリア、お前は間もなく死ぬ! 間違いなくだっ!」
「な、なぜ……なぜわたしが……こんな事を」
「貴様が生きていると邪魔に思う人間がいる。理由はそれだけの事だ」
足音が聞こえてきた。他のメイドの足音だ。もしかしたら今度こそ本物のソシエがハーブティーを持ちにこの部屋を訪れたのかもしれない。
「ちっ。私は退散する。今頃は国王の部屋にもアサシンが向かっているだろうからな」
「そ、そんな。お父様の部屋まで」
娘である自分だけではなく、国王である父の命まで狙う。間違いない。それにより最も利する人間はだれか。王国のナンバー2である宰相ロバートだ。現国王と王位継承権を持つエミリアを始末すれば宰相が国王に成り代われる。
そういう読みやすく、単純な作戦なのだろう。
「ではな。さらばだ。王女エミリア。冥府に旅立つがよい」
女アサシンは窓辺から跳び降りて行った。
「エミリア様、ハーブティーをお持ちしましたっ。えっ!? エ、エミリア様!!」
ガシャン!
倒れているエミリア相手にハーブティーを運んできたソシエは激しく動揺した。持っていたハーブティーを地面に落としてしまう。
だが当然のようにそれに構っている暇はなかった。
「エミリア様! エミリア様! 誰か! 誰かきて! お願い! 誰かーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
ソシエは叫ぶ。その大声は北にある客室にまで響くほど大きなものであった。
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