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いかれ狂う竜王
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竜死病を免れた幾人かの竜人が一体の竜と対峙をしていた。漆黒の竜、竜王バハムートである。
その雄大な姿、圧倒的な威圧感は他の竜人を以てしても足を震えさせ、立ち上がれなくさせる程のものがあった。
彼の者の名は竜王バハムート。竜人を統べる王である。
「や、やるしかないのか?」
「やるしかないだろ。バハムート様が相手とはいえ、俺達で何とか」
「ああ。やってやる! やってやるぞ!」
すくんだ足を何とか気合で立ち上がらせる。竜人達は皆、竜の形になっていた。幾多もの竜が黒竜バハムートを囲む。
「いくぞっ! おらああああああああああああああああああ!」
竜語で会話を交わしつつ、一匹の竜がバハムートに襲い掛かる。しかし、うなる拳を簡単に受け止められる。
「たわけめっ! その程度の攻撃が余に通じると思っているのか!」
「く、くそっ!」
「出直してくるがいいっ!」
「ぐ、ぐああああっ!」
大岩にたたきつけられる。岩が粉々になった。一匹の竜が昏倒した。
「く、くそっ! 俺達じゃ時間稼ぎにもならないのかっ!」
「もっとだ。もっと余の玩具を務めるがよい。壊れるには聊か早すぎるぞ」
「く、くうっ」
「なんと脆弱かっ! それでも竜人の端くれか! いないのか! もっと余が楽しめる歯ごたえのある奴はっ!」
他を寄せ付けないはずの強力なモンスターである竜(ドラゴン)。その竜を持ってしてでも寄せ付けない程竜王バハムートは強烈な力を放っていた。
◇
「フレイム、アクア、エアロ、ティータ。お願いがあるんです」
「お願いってなんですか? ヴァイス様」
「母。竜王バハムートはどのような原因かはわかりませぬが狂ってしまわれました。バハムートはもはや世界における大きな災厄であります」
「バハムート様をどうするのですか?」
「方法は一つしかありません。母を……いえ、バハムートを」
ヴァイスは寂しそうな顔で告げる。
「殺します」
「随分と物騒な話ですね。聞き捨てなりませんよ」
「シオン様……」
「今回の件、『ブラックリベリオン』が噛んでいる気がします。見捨てる事なんてできません。それに娘さんがお母様を殺すだなんて物騒な事を言うものではありません」
「で、ですがシオン様!他にっ! 他に方法がないんですっ! これしかないんですっ!
ヴァイスは涙すら流しそうだった。辛うじて堪える。
「私だって母を殺したくないんですっ! だれけどそれしかないんですっ! 竜王バハムートは恐ろしい竜人です! 竜となればそれはもう、他に類する者がいない程恐ろしい存在となるんです!」
「落ち着いて、話を聞かせてはくれませんか? 何があったのか?」
「はい。それはこの竜人国に病が流行ってからすぐの事でした」
◇
「お母様……どうかされたのですか?」
「来るのではないっ! ヴァイス!!」
ベッドで母バハムートが寝込んでいた。黒髪をした絶世の美女である。誰も彼女が恐ろしい竜へと変化(トランス)するとは想像もつかない事であろう。
「えっ!? どうされたのですか!? お母様! どこかお体の具合がっ!」
「私の中に悪魔が巣くったようだ。私はもう自分を保てそうにない!」
「……お母さま! 誰か治療ができる方を連れて参ります!」
「間に合うわけがない。私はできるだけ遠くに行く。お前達、もし今度私を見ても私と思うな。きっともう全く別の存在になってしまっている事だろう」
「そ、そんな! お母様! どこに行かれるのですかっ! お母様!」
こうしてバハムートは竜城を出ていった。
◇
「これが私が見たお母様の最後の記憶です。それからお母様はそれを探しにいった竜人の捜索隊と抗争になったそうです」
「その結果はどうなったのですか?」
ヴァイスは表情を曇らせる。答えを聞くまでもなかった。
「全滅です。竜人といえど、竜王バハムートの相手は荷が重すぎたのです。ですが、わたしと竜人四姉妹がいれば話は別です! わたし達が力を合わせれば必ずバハムートを打倒できます! い、いえ! やらなければならないのですっ!」
「シオン先生、何とかなるんですか?」
「わかりませんが、世の中には狂竜病という病気があるんです」
「狂竜病?」
「ええ。竜が理性を保てなくなる病です。文字通り狂ってしまうのです。竜王バハムートはその狂竜病にかかったと考えるのが妥当でしょう」
「シオン先生ならきっと大丈夫です! 皆さん! 安心してください! シオン先生が来たからにはもう安心ですっ! ちゃちゃつっとそのバハムートさんも治してくれるはずですっ! えっへんっ!」
ユエルは胸を張った。
「そんなに軽く言わないでくださいよ。狂竜化したバハムートが大人しく治療を受けるわけがないじゃないですか。殺さないまでも相当弱らせないと困難です」
「うっ、ううっ。そうですか」
「で、ですがシオン様! 母を殺さずに済む方法があるのですかっ!」
「ええ。断言はできませんが治すことはできると思います。結局倒さなければならないのは同じですが」
「ありがとうございますっ! シオン先生! 母を殺さないで済むならそれに越したことはありません!」
ヴァイスは私の手を握る。綺麗な手だな。それに美少女に手を握られると少々気恥ずかしくなる。
「そうですね。その通りです。お母様であるバハムート様を助ける為、私に力を貸させてください!」
「ええっ! では行きますよ。竜人四姉妹!」
「「「「はい!」」」」
「お母様――竜王バハムートのところまで」
白竜となったヴァイスにまたがり、私達は大空へと飛び立った。
その雄大な姿、圧倒的な威圧感は他の竜人を以てしても足を震えさせ、立ち上がれなくさせる程のものがあった。
彼の者の名は竜王バハムート。竜人を統べる王である。
「や、やるしかないのか?」
「やるしかないだろ。バハムート様が相手とはいえ、俺達で何とか」
「ああ。やってやる! やってやるぞ!」
すくんだ足を何とか気合で立ち上がらせる。竜人達は皆、竜の形になっていた。幾多もの竜が黒竜バハムートを囲む。
「いくぞっ! おらああああああああああああああああああ!」
竜語で会話を交わしつつ、一匹の竜がバハムートに襲い掛かる。しかし、うなる拳を簡単に受け止められる。
「たわけめっ! その程度の攻撃が余に通じると思っているのか!」
「く、くそっ!」
「出直してくるがいいっ!」
「ぐ、ぐああああっ!」
大岩にたたきつけられる。岩が粉々になった。一匹の竜が昏倒した。
「く、くそっ! 俺達じゃ時間稼ぎにもならないのかっ!」
「もっとだ。もっと余の玩具を務めるがよい。壊れるには聊か早すぎるぞ」
「く、くうっ」
「なんと脆弱かっ! それでも竜人の端くれか! いないのか! もっと余が楽しめる歯ごたえのある奴はっ!」
他を寄せ付けないはずの強力なモンスターである竜(ドラゴン)。その竜を持ってしてでも寄せ付けない程竜王バハムートは強烈な力を放っていた。
◇
「フレイム、アクア、エアロ、ティータ。お願いがあるんです」
「お願いってなんですか? ヴァイス様」
「母。竜王バハムートはどのような原因かはわかりませぬが狂ってしまわれました。バハムートはもはや世界における大きな災厄であります」
「バハムート様をどうするのですか?」
「方法は一つしかありません。母を……いえ、バハムートを」
ヴァイスは寂しそうな顔で告げる。
「殺します」
「随分と物騒な話ですね。聞き捨てなりませんよ」
「シオン様……」
「今回の件、『ブラックリベリオン』が噛んでいる気がします。見捨てる事なんてできません。それに娘さんがお母様を殺すだなんて物騒な事を言うものではありません」
「で、ですがシオン様!他にっ! 他に方法がないんですっ! これしかないんですっ!
ヴァイスは涙すら流しそうだった。辛うじて堪える。
「私だって母を殺したくないんですっ! だれけどそれしかないんですっ! 竜王バハムートは恐ろしい竜人です! 竜となればそれはもう、他に類する者がいない程恐ろしい存在となるんです!」
「落ち着いて、話を聞かせてはくれませんか? 何があったのか?」
「はい。それはこの竜人国に病が流行ってからすぐの事でした」
◇
「お母様……どうかされたのですか?」
「来るのではないっ! ヴァイス!!」
ベッドで母バハムートが寝込んでいた。黒髪をした絶世の美女である。誰も彼女が恐ろしい竜へと変化(トランス)するとは想像もつかない事であろう。
「えっ!? どうされたのですか!? お母様! どこかお体の具合がっ!」
「私の中に悪魔が巣くったようだ。私はもう自分を保てそうにない!」
「……お母さま! 誰か治療ができる方を連れて参ります!」
「間に合うわけがない。私はできるだけ遠くに行く。お前達、もし今度私を見ても私と思うな。きっともう全く別の存在になってしまっている事だろう」
「そ、そんな! お母様! どこに行かれるのですかっ! お母様!」
こうしてバハムートは竜城を出ていった。
◇
「これが私が見たお母様の最後の記憶です。それからお母様はそれを探しにいった竜人の捜索隊と抗争になったそうです」
「その結果はどうなったのですか?」
ヴァイスは表情を曇らせる。答えを聞くまでもなかった。
「全滅です。竜人といえど、竜王バハムートの相手は荷が重すぎたのです。ですが、わたしと竜人四姉妹がいれば話は別です! わたし達が力を合わせれば必ずバハムートを打倒できます! い、いえ! やらなければならないのですっ!」
「シオン先生、何とかなるんですか?」
「わかりませんが、世の中には狂竜病という病気があるんです」
「狂竜病?」
「ええ。竜が理性を保てなくなる病です。文字通り狂ってしまうのです。竜王バハムートはその狂竜病にかかったと考えるのが妥当でしょう」
「シオン先生ならきっと大丈夫です! 皆さん! 安心してください! シオン先生が来たからにはもう安心ですっ! ちゃちゃつっとそのバハムートさんも治してくれるはずですっ! えっへんっ!」
ユエルは胸を張った。
「そんなに軽く言わないでくださいよ。狂竜化したバハムートが大人しく治療を受けるわけがないじゃないですか。殺さないまでも相当弱らせないと困難です」
「うっ、ううっ。そうですか」
「で、ですがシオン様! 母を殺さずに済む方法があるのですかっ!」
「ええ。断言はできませんが治すことはできると思います。結局倒さなければならないのは同じですが」
「ありがとうございますっ! シオン先生! 母を殺さないで済むならそれに越したことはありません!」
ヴァイスは私の手を握る。綺麗な手だな。それに美少女に手を握られると少々気恥ずかしくなる。
「そうですね。その通りです。お母様であるバハムート様を助ける為、私に力を貸させてください!」
「ええっ! では行きますよ。竜人四姉妹!」
「「「「はい!」」」」
「お母様――竜王バハムートのところまで」
白竜となったヴァイスにまたがり、私達は大空へと飛び立った。
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