ヒーラーの方が安上がりだと追放されたが私じゃないと患者さん死にますよ?~治せないから戻ってこい?『ドクター』スキルでもあなたたちは手遅れです

つくも

文字の大きさ
上 下
18 / 51

獣人の国で治療に勤しむ

しおりを挟む
「シオン先生」

「なんですか?」

「これからどうするんですか?」

「アルバートさんとレイドールさん。そして『ブラック・リベリオン』の問題は看過しておけるものではありません」

 だが、私にはそれよりも優先する課題があった。

「今は病に侵された獣人を救命するのが先です。ドクターとして見捨てる事はできません」

「はい」

「専属看護師(ナース)であるユエルさんの出番が来たのです。さあ! 私達の仮設診療所に患者様を入れる時なのです!」

「はい! 先生! がんばります!」

 ユエルはガッツポーズをとった。

「とりあえずはお母様のミシェル様と相談して国民に通知を出してください」

「はい!」

 ◇

 こうして私の仮設診療所はオープンをした。

「ま、まだか! まだ開かないのか!」

「私なんて朝から待ってるのよ!」

「俺なんて昨日の夜からだぜ!」

 診療所の前には長蛇の列ができていた。

「ユエルさん……これはまずいですね」

「ええ。患者さんがいっぱいです!」

 看護服に着替えたユエルは言う。私は常に白衣を着ているので着替える必要性がない。

「いくらなんでも一日でこれだけさばききれるはずもありません」

「はい」

「とりあえずは整理券を配りましょうか」

「整理券?」

「はい。整理券です。急いで作りましょう。トラブルが起きないように、整理券は私の直筆で作らせて貰います」

「はい!」

 こうしてとりあえずは整理券を配る事にした。

 午前中10人。午後10人。それくらいだろう。

「申し訳ありません! 今日のところは20人しか見られません!」

「ちっ。なんだよ、せっかく並んだのに」

「並んでいる方には整理券を配りますので、後日来てください」

「わかったわ」

 整理券が配られると納得したのか。おずおずと引き下がってくる。並んだことが無駄でないと思えたからだろう。

「それでは10人の患者様、順々に入ってください。申し訳ありませんが午後の10人はそのままお待ちいただくか、午後にまた来てください」

 受付表に名前を記載させる。

 こうして診療所での治療行為は始まったのである。

 ◇

「ありがとうございます! シオン先生! おかげで息苦しいのが治りましたわ!」

 治療した女性は大喜びをしていた。

「ええ。そう喜んでいただけたのなら幸いです。ドクターは命を救うのが仕事ですから」

 私は笑みを浮かべる。

 そんな時だった。

「ん? 君は?」

 獣人の少女が私の前に来る。見た目は健康そうである。死肺炎かどうかは見た目ではわからないが、それでも体調の良い悪いくらい漠然と判断ができた。

「どうしたのですか? どこか悪いところでもありますか?」

「先生! シオン先生! お母さんを助けてください!」

「お母さん?」

「お母さん! 具合が悪くてお家から一歩も出られないんです!」

「そうなのですか……確かにそれは大変です。ですが困りましたね。患者が目の前にいない事には私でも」

 私は頭を悩ませる。

「確かにこのままではまずい。重症者はなかなか家から出られない場合もあります。そしてそういう人こそが本来は治療を必要としているのです」

「先生、どうしましょう?」

「考えられるのは二つです。訪問医療。そしてもうひとつは体に負担のかからない方法でここに運んでくる。今は余裕がありませんが、いずれは緊急で治療を行う必要性があるでしょう」

「緊急の治療ですか!?」

「ええ。その為に何か必要があるかもしれません。今のところは手配している余裕はありません。わかりました。午後の治療が終わってから伺います」

「あ、ありがとうございます! 先生!」

 少女は涙を流しながら感謝してくる。

「名前と住所の方を記載してください。診察カードみたいなものも作ったほうが良さそうですね」

 まだまだやる事は一杯だった。私達獣人の国の診療所はまだ始まったばかりである。

 改善していく余地はいくらでもあった。

「けど、大丈夫なんですか!? 先生!? 午前も午後も仕事をして、それでその後も働いて」

「はははっ。これでも激務には慣れています。心配しないで構いませんよ」

 この時私はかつて勤めていたブラックリベリオンの事を初めて感謝する事となる。

 しかし私はこの時、この過信や油断が後々に大きく響いてくる事を知らなかった。

 この時はまだ。ドクターである自分自身が、自分の健康や体力を過信していたのである。

 ◇

「先生、来てくれてありがとうございます!」

 私はユエルと共にそのお家を訪れた。

「はい。伺わせて頂きました。中に入ってもよろしいでしょうか?」

「はい!」

 私はお宅にお邪魔する。

「ごほっ! ごほっ! シエラ……どこに行ってたの?」

「お母さん! お医者様を連れてきたよ!」

「お医者様? 獣人の国にそんな人いたかしら?」

「初めまして。お母様。私はシオンと申します。ドクターをしています」

「あなたは人間のお方。獣人の国に、人間のお医者様がきたの」

「はい」

「それに隣にいるのはユエル姫……どうして?」

「わたしは先生の看護師です! お手伝いをしているんです!」

「そうなのですか」

 美しい女性であった。ただやはり顔色が良くない。生気を感じない。

 断言はできないが死肺炎に侵されている可能性は高かった。

「それでは診察をさせて頂きます。聴診器を当てさせては頂けないでしょうか?」

「はい……」

 美しい女性が上半身裸になる。官能的とも思える状況ではあったが仕事柄慣れ過ぎてしまい、もはや何も感じなかった。

 脈拍をはかり、診察(スキャン)をする。

 やはり死肺炎だった。私は『神の手(ゴッドハンド)』を用いて治療する。

 私の右手が彼女の胸の中に入り、内部から一瞬で治療してみせた。

「治りました」

「う、うそっ! こんな一瞬で治るものなんですかっ!」

「どうですか?」

「た、確かに胸が軽くなりました。そして咳も。歩くのもしんどかったのに、今では平気で歩けそうです」

「お母さん! 治ったの!?」

「うん。シエラ、治ったよ」

「やったぁ! お母さん!」

「よかったねシエラ。これでまた二人でお買い物にいけるねっ」

「うん」

 良い事をしたという充実感で私は一杯であった。

「ありがとうございますシオン先生! あなた様は命の恩人です」

「お母様の命をお救い出来た事、大変嬉しく思っております。それでお母様」

「はい?」

「治療は済んだので服を着てはいただけないでしょうか」

 女性の裸体を意味もなく見るのは目の毒である。

「あっ、す、すみません」

 お母様は服を着始める。

「い、いえ。大した事ではありません。それでは私達は失礼します。王城に診療所があります。もし何かありましたらそちらまで来てください」

「はい。是非またよろしくお願いします」

「シオン先生! お母さんを治してくれてありがとうございます!」

「ええ。私としてもお役に立ててよかったです」

 私は笑みを浮かべた。そして、王城へと帰っていく。

 今回の件で訪問医療の必要性、そして緊急時の搬送の必要性を痛感した。課題を得たのだ。

 私はより気負うようになった。その結果どうなるかは自明の理であったが、この時の私はまだ気づいていなかったのである。

 ドクターという仕事についておきながら自分の身体には全くの無頓着であったという事を。





しおりを挟む
完結しました。お読みいただいた方々ありがとうございました。
感想 36

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。

つくも
ファンタジー
主人公——臼井影人(うすいかげと)は勉強も運動もできない、影の薄いどこにでもいる普通の高校生である。 そんな彼は、裏庭の掃除をしていた時に、影人とは対照的で、勉強もスポーツもできる上に生徒会長もしている——日向勇人(ひなたはやと)の勇者召喚に巻き込まれてしまった。 勇人は異世界に旅立つより前に、女神からチートスキルを付与される。そして、異世界に召喚されるのであった。 始まりの国。エスティーゼ王国で目覚める二人。当然のように、勇者ではなくモブキャラでしかない影人は用無しという事で、王国を追い出された。 だが、ステータスを開いた時に影人は気づいてしまう。影人が勇者が貰うはずだったチートスキルを全て貰い受けている事に。 これは勇者が貰うはずだったチートスキルを手違いで貰い受けたモブキャラが、世界を救う英雄譚である。 ※他サイトでも公開

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...