宮廷鍛冶師、贋作しか作れないと追放されたが実は本物の聖剣や魔剣を鍛錬できていた~俺の代わりが見つからずに困り果てているらしいが、もう遅い。

つくも

文字の大きさ
上 下
29 / 58

ユースとの初体験

しおりを挟む

 俺は風呂上がりにエルフ城を歩いていた。その時、テラスにユースがいるのが見えた。

「あの時は勢いで言ってしまいました。ですがあの縁談、私が我慢していれば丸く収まったのでしょうか。これから戦争になります。きっと多くの兵士が傷つく事になるでしょう。もし負けたとあれば、女子供も陵辱されるに決まっています。あの時私が我慢していれば、何事も起きなかったのかもしれません」

 ユースは独り言を呟いていた。それだけ悩みが大きいのだろう。無理もない。

「ユース」

「フェイ様」

「どうしたの? ……悩み事を抱えているみたいだね」

「聞こえましたか。フェイ様。悩まないはずがありません。私はエルフ国の王女です。国民が傷つく事に無関心でいられるはずもありません。私が我慢すれば戦争を回避できたのではないか。そう思うと自分を責めずにはいられないのです」

「……嫌だよ。けど俺はユースがあんな嫌味な王子のものになるのは」

「フェイ様……」

「そうやって自分を責めるのはわかるんだけど。それじゃユースが幸せになれないんじゃないかな? あんな嫌味な王子がいる大帝国の属国になるなんて、俺は嫌だよ。幸せにはなれない。それはユースも同じだし、エルフの民も同じじゃないか。属国になっても、きっとあいつ等は横暴な真似をしたよ。エルフの女性も兵の慰安に回される事だろう。どちらにせよ、闘って勝利する以外に幸せな未来はやってこないんだ」

「そうですね……その通りです。ですが、それが最悪の選択になるのかと恐れているのです。最善ではなくとも、それでももっとマシな未来になったのではないかとどうしても考えてしまいます」

「考えても仕方ないよ。なるようにしかならないよ。それに戦争になる事をユースの責任だなんて誰も思っていない。皆納得の上で闘うんだ」

「そうですね」

「俺も沢山役立てる武具を作って、エルフの国をサポートするつもりだ。だから安心してユース。絶対に大帝国との戦争に負けやしない。そのために皆で準備をしていくんだ。一人でも傷つく兵士や国民が減るように」

「フェイ様……」

 ユースの瞳は潤んでいた。

「泣いちゃダメだよユース。泣くのは勝った時。感激の涙でないと」

「そうですね。申し訳ありません」

 ユースは涙を指で拭う。

「フェイ様。ひとつだけお願いがあるのです。戦争が始まるより前に」

「なんだい?」

「私の初めてを貰って頂きたいのです」

「は、初めて! 何を言っているんだ! ユースは」

 俺は慌てふためいた。俺は童貞だぞ。そんな経験がないんだ。優しくリードできるような自信はない。

「お、俺の初めてだし。そ、そんな自信がないよ。ユース」

 何をへたれてるんだ。俺は男だぞ。エルフとはいえ女の子がこんなにも勇気を振り絞っているのに。俺はなんて情けない奴なんだ。

 ユースは唇を重ねてきた。

「え?」

 唇に柔らかい感触が走る。俺とユースの唇が重なっている。慈しむようにユースは唇を離した。

「これで私のファーストキスはフェイ様のものです」

 ユースは顔を赤くしていた。

「キス……」

 俺もファーストキスだった。当然だ。女の子と付き合った事すらない。ずっと男社会にいたし。仕事をしていただけだからだ。

「……キス、で終わり?」

 俺はある意味あっけに取られていた。

「フェイ様……もっと大胆な事を考えていませんでしたか? 私の勇気はせいぜいここまでです」
 
「ご、ごめん。つい先走っちゃって」

「そういう事は私とフェイ様がちゃんとした立場になってからです。ちゃんと」

 ユースは拗ねていた。やはりエルフ、特に王族は堅いのだろう。婚前交渉に厳しそうだ。

「……そうだね。けど、今回の戦争は俺達にとってある意味大きなチャンスだと思うんだ」

「チャンス?」

「ああ。この戦争で俺が大活躍すればきっとエルフの民も認めてくれるよ。貴族の連中だってそうだ。前のシャロみたいに純血派は多く残っていると思うけど、それでも多くの人々の気持ちを動かせると思うんだ。国を救った英雄が相手なら考えを改めざるを得ないだろう」

「そうですね。フェイ様が活躍するチャンスかもしれませんね。私も微力ながらお手伝いをします」

「期待しているよ。ユース」

「はい」

 ユースは笑顔を浮かべた。先ほどまでの心配そうな顔はどこにいったのやら。こうしてその日の夜は過ぎていく。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。

つくも
ファンタジー
主人公——臼井影人(うすいかげと)は勉強も運動もできない、影の薄いどこにでもいる普通の高校生である。 そんな彼は、裏庭の掃除をしていた時に、影人とは対照的で、勉強もスポーツもできる上に生徒会長もしている——日向勇人(ひなたはやと)の勇者召喚に巻き込まれてしまった。 勇人は異世界に旅立つより前に、女神からチートスキルを付与される。そして、異世界に召喚されるのであった。 始まりの国。エスティーゼ王国で目覚める二人。当然のように、勇者ではなくモブキャラでしかない影人は用無しという事で、王国を追い出された。 だが、ステータスを開いた時に影人は気づいてしまう。影人が勇者が貰うはずだったチートスキルを全て貰い受けている事に。 これは勇者が貰うはずだったチートスキルを手違いで貰い受けたモブキャラが、世界を救う英雄譚である。 ※他サイトでも公開

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

ある横柄な上官を持った直属下士官の上官並びにその妻観察日記

karon
ファンタジー
色男で女性関係にだらしのない政略結婚なら最悪パターンといわれる上官が電撃結婚。それも十六歳の少女と。下士官ジャックはふとしたことからその少女と知り合い、思いもかけない顔を見る。そして徐々にトラブルの深みにはまっていくが気がついた時には遅かった。

処理中です...