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第10話
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それは新しいお屋敷での生活の中、起こった出来事でした。
私は使用人のメイドさんの付き添いで散歩をしていました。私は車椅子で移動するのです。自分の足で移動する事はできませんが、日の光を浴び、風を感じるだけでも大分気分転換になるものです。
やはり屋敷にこもりっぱなしでは段々と気分が滅入ってきます。
その時の事でした。私達の目の前に突如、男性が現れるのです。その男性とは思ってもいない人物でした。
「お知り合い……ですか?」
メイドさんが尋ねます。
「う、嘘……カルロス様。なんで?」
私は目を疑います。目の前にいたのは私のかつての婚約者であったカルロス様です。ですが、どこか様子がおかしいです。やつれている上に目が憔悴しています。かつての自信に満ち溢れたカルロス様とは様変わりしてしまっていました。
「……アリス」
「え?」
カルロス様は突如、地面に両手をつき、深く頭を下げてきました。一体、どういう事でしょうか。これは土下座という恰好ではないでしょうか。カルロス様はどうやら涙を流し、私に訴えかけてきたようです。
「僕が間違っていた。君の義妹のアリシアはどうしようもない、我儘な女だったんだ! アリシアと婚約者になってから、アリス、君の素晴らしさに気づいた。いくら病気を患っていても、君の方がマシだよ! アリス!」
マシ……って。恐らくはカルロス様は私に復縁を迫ってきているのだと思いますが。その口ぶりはいかがなものでしょうか。いささか失礼ではないかと感じます。
「何を言いたいのですか? カルロス様」
「アリス、君との関係をやり直したいんだ! 僕の婚約者に再びなってくれ! 頼む!」
用件は伝わりました。やはりカルロス様は私との関係をやり直したいようです。
「カルロス様……それは」
「はぁ……はぁ……はぁ。どうしたんだ? アリス」
「……レナード」
私の前に幼馴染にして婚約関係になったレナードが姿を現します。
「……アリス、だ、誰なんだ? その男は!」
カルロス様が聞いてきます。
「私の婚約者のレナードです」
「な、なんだって! 婚約者だって! ど、どうしてそんな急に婚約関係になったんだ!」
「私達は幼馴染だったんです……それで……。急にというわけではありません。10年来の関係で、カルロス様から婚約破棄を言い渡されてから、私達は再会したんです」
「……アリス。誰なんだ? そこの男は」
レナードが聞いてきます。
「カルロス様です。伯爵家のご子息で、私の元婚約者です」
「元婚約者? カルロスさんですか。一体、アリスに何の用ですか?」
やはり面白くない相手だったのでしょう。レナードは僅かですが表情に怒りのようなものを滲ませ、にらみつけます。温厚なレナードにしては珍しい事でした。
「ひ、ひいっ! な、なんでもありません! す、すまなかった。アリス、それじゃあ、僕はこれで失礼するよ!」
カルロス様はそう言い残し、その場を去っていくのです。流石に現在の婚約者であるレナードを目の前にして、復縁を迫る事はできなかったようです。
「まったく……なんなんだ、あれは」
レナードはため息を吐きました。カルロス様に復縁を迫られた事をわざわざいう必要はありませんでした。レナードを余計不機嫌にさせるだけです。
「帰りましょうか、レナード」
「そうだな。帰ろうか」
「ええ……」
私達は何事もなかったかのように屋敷に帰っていきます。その後カルロス様がどうなったのか、私は知りません。知りたいとも思いませんでした。
今の私にはレナードがいます。今私は彼に夢中なんです。だからそれ以外の男性の事は僅かの興味すら抱きませんでした。例え元婚約者が相手だったとしてもです。
私は使用人のメイドさんの付き添いで散歩をしていました。私は車椅子で移動するのです。自分の足で移動する事はできませんが、日の光を浴び、風を感じるだけでも大分気分転換になるものです。
やはり屋敷にこもりっぱなしでは段々と気分が滅入ってきます。
その時の事でした。私達の目の前に突如、男性が現れるのです。その男性とは思ってもいない人物でした。
「お知り合い……ですか?」
メイドさんが尋ねます。
「う、嘘……カルロス様。なんで?」
私は目を疑います。目の前にいたのは私のかつての婚約者であったカルロス様です。ですが、どこか様子がおかしいです。やつれている上に目が憔悴しています。かつての自信に満ち溢れたカルロス様とは様変わりしてしまっていました。
「……アリス」
「え?」
カルロス様は突如、地面に両手をつき、深く頭を下げてきました。一体、どういう事でしょうか。これは土下座という恰好ではないでしょうか。カルロス様はどうやら涙を流し、私に訴えかけてきたようです。
「僕が間違っていた。君の義妹のアリシアはどうしようもない、我儘な女だったんだ! アリシアと婚約者になってから、アリス、君の素晴らしさに気づいた。いくら病気を患っていても、君の方がマシだよ! アリス!」
マシ……って。恐らくはカルロス様は私に復縁を迫ってきているのだと思いますが。その口ぶりはいかがなものでしょうか。いささか失礼ではないかと感じます。
「何を言いたいのですか? カルロス様」
「アリス、君との関係をやり直したいんだ! 僕の婚約者に再びなってくれ! 頼む!」
用件は伝わりました。やはりカルロス様は私との関係をやり直したいようです。
「カルロス様……それは」
「はぁ……はぁ……はぁ。どうしたんだ? アリス」
「……レナード」
私の前に幼馴染にして婚約関係になったレナードが姿を現します。
「……アリス、だ、誰なんだ? その男は!」
カルロス様が聞いてきます。
「私の婚約者のレナードです」
「な、なんだって! 婚約者だって! ど、どうしてそんな急に婚約関係になったんだ!」
「私達は幼馴染だったんです……それで……。急にというわけではありません。10年来の関係で、カルロス様から婚約破棄を言い渡されてから、私達は再会したんです」
「……アリス。誰なんだ? そこの男は」
レナードが聞いてきます。
「カルロス様です。伯爵家のご子息で、私の元婚約者です」
「元婚約者? カルロスさんですか。一体、アリスに何の用ですか?」
やはり面白くない相手だったのでしょう。レナードは僅かですが表情に怒りのようなものを滲ませ、にらみつけます。温厚なレナードにしては珍しい事でした。
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私達は何事もなかったかのように屋敷に帰っていきます。その後カルロス様がどうなったのか、私は知りません。知りたいとも思いませんでした。
今の私にはレナードがいます。今私は彼に夢中なんです。だからそれ以外の男性の事は僅かの興味すら抱きませんでした。例え元婚約者が相手だったとしてもです。
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