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第3話
しおりを挟む「う、嘘……嘘ですよね」
私は言葉を失いました。私は夢を見ているのでしょうか。
「こんなところにいたんだね。探したよアリス」
目の前にいる青年は屈託のない笑みを浮かべてきます。奇しくもその笑みは10年前見た幼馴染の少年レナードのものと全く同じものだったのです。
とても信じられません。ですが、彼はどうやら幼馴染のレナードその人のようなのです。
でも、なぜなのです。レナード、どうしてレナードがここに。
「どうしてレナードがここにいるんですか?」
「それは勿論、アリス。君を探しに来たんだよ。お父様が事故で亡くなって、それで僕が家督を継ぐことになったんだ」
「……家督?」
何を言っているのでしょうか。そういえば、私はレナードの素性をあまり知りませんでした。子供の頃は気にならなかったのです。ですが大人になってみて、世の中には色々な差別や格差が存在します。
社会的地位の違いも直面してきました。そして、そういった社会的地位の問題により、愛し合う男女の関係が引き裂かれる場面が生じる事も多々あるそうです。
あの時、子供の頃はそんな問題知りませんでした。私はレナードの事が好きでした。単にそれだけの事で、何の問題もなく彼と結ばれることができるのだと本気で信じていたのです。
だからレナードの家柄など気にもしていなかった問題なのですが、大人になった今、家柄の問題は大きいと感じています。レナードは一体、どういうお家柄のご子息だったんでしょうか?
「僕の家はポートランド公爵家なんだ。だから僕は父から家督を継いで、公爵になったんだ」
「レナード……レナードのご実家は公爵家なのですか?」
「ああ……そうだよ、アリス」
ポートランド公爵家。聞いた事はあります。有名な公爵家です。その位はカルロス様のケンブリッジ伯爵家よりもずっと爵位が高いと聞いています。
まさかレナードがそんな名門の公爵家の子息だとは思ってもいなかったので私は大変驚きました。
しかも今はレナードが公爵様というわけなのです。そう、目の前にいるのはただの幼馴染のレナードなのではありません。ポートランド公爵家の公爵様、というわけなのです。
「アリス、僕はずっと君を探していたんだよ。それでやっと見つかったんだ。君が。もう、僕は昔みたいな子供じゃない。君を迎えに来たんだ」
レナードは跪き、私にこう告げてきたのです。
「アリス……僕と結婚して欲しい。僕の妻となってくれ」
レナードは青い宝石のような瞳で私に訴えかけてきます。なんと嬉しい言葉でしょうか。胸が締め付けられるような言葉です。すぐにでも涙が出てきそうな言葉。
幼い頃の約束が現実となる瞬間です。
夢にまで見た幼馴染のレナードが私に求婚してくれているのです。ですが、同時に彼を思うが故に、その申し出を喜んで受けられない私がいるのでした。
「大変嬉しい申し出です……ですがレナード。その申し出、私はお受けする事ができません」
「なぜだ? アリス……どうしてそんな事を言うんだ?」
「ここは病院です。何の理由もないのに、病院に入院する人などおりません。私はあなたと別れてからしばらくして、病を患ったのです。その病は一生治らないかもしれません。私はあなたと別れてから、別の男性と婚約しましたが、その方はどこも連れて歩けない私を疎み、つい先ほど婚約破棄されたのです」
私は涙ながらに訴えます。レナードの申し出は私にとっては大変喜ばしい、夢にまで見たものでした。ですが、今の私では彼を幸せにできないと考えました。
ですので心苦しくはありますが、彼の事を考えるととても彼の申し出を受けるわけにはいかなかったのです。
「私を妻にすると、きっとレナードに迷惑をかけてしまうと思うんです。それではきっと、レナードは幸せになれないんです」
私は涙ながらにレナードに訴えます。すると彼は微笑を浮かべるのです。
「馬鹿な事を言うな……アリス。僕の幸せは君と一緒にいる事だよ。だから君が病を患っているかどうかなんて関係ない。そういった時に支えるのが僕の役割だ」
「……レナード」
「……アリス」
もはや私達に言葉など必要ありませんでした。私の悲しみの涙は喜びの涙へと変わるのです。
私達は誰もいない病室で口づけを交わしました。お互いの10年間分の想いを込めて。長い、長い口づけをしたのです。
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