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第5話
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「私の名はミリア・アラステイン……。ここから北方にある国アラステインの姫なのです」
「あなたは王国アラステインの王女様なのですか」
「あまり驚かれていない様子ですね」
「いえ、驚いてはいます。ただ、立ち振る舞いから高貴さが滲み出ていたので、ある程度察しはついていました。貴族のご息女かと思っていました」
だが、王国アラステインのお姫様だとは思っていなかった為、俺は驚く。アラステインは北方にある長閑な王国だ。小国ではあるが、それでも穏やかな環境故に、別段大きな不満などなさそうなものだが。
やはり、彼女には彼女なりの理由があってここにいるのだろう。
「そのお姫様が護衛もつけずにこんなところに、なぜ一人でおられるのですか?」
「——それは」
彼女は語り始めた。彼女には婚約者がいたそうだ。大国であるマーナガルムの王子。小国であるアラステインは大国であるマーナガルムとの縁談を断れなかったようだ。それはある程度仕方のない事かもしれない。どこの国でも王族というのは一見すると優雅ではあるが、それなりのしがらみの囚われている。彼女もそのしがらみの例外ではなかったようだ。
「……普通の縁談であったのならば受けるより他ならなかったかもしれません。それが王族としての務めでありますから」
彼女は悟っている風に告げる。諦めているような感じだ。それが王族としての彼女の覚悟のようなものなのかもしれない。
「ですが……あの王子はどこかおかしいのです。不吉な予感がするのです。あの王子は良くない。私が犠牲になれば済む問題ではない。マーナガルムという大国はただの大きな国ではない。とても不気味で巨悪な存在に感じられたのです」
ミリアはそう告げてくる。
「しかし、お父様はその事を見抜かれてはいないようでした。私とマーナガルムの王子、シン王子との縁談は私の意思など関係なく進んでいくのです。そして速やかに行われる事になった、私と王子との結婚式。その前日に私は我慢しきれずに逃げ出しました」
そうか……それが彼女が護衛を一人も引き連れていなかった理由か。
「マーナガルムは異様な国家です。きっと良くないものに憑りつかれているいるに違いません。このままでは私の母国アラステインもきっと奴らの食い物に……」
「それがあなたが護衛もつけずにここにいた理由ですか……」
「はい……そうです」
そういう事か。これで合点がいったな。彼女のような高貴な身の上の人間がこんな危険なところにいるのはおかしいと思っていた。
「賢者様はどうして、こんなところにいらしたんですか?」
今度は逆に彼女の方から聞いてきた。
「……それは」
俺は真実を告げるか悩んだ。勇者パーティーから役立たず扱いをされて、追い出された、なんて事をわざわざお姫様相手に告げるのは恰好がつかない。嘘は良くないかもしれないが、何でも本当の事を言う必要もない気がした。
言わない方が良い事というのも世の中には確実に存在する。
「この近くに効率の良い狩場があるんだ。そこでLV上げを少々」
悩んだ末にそう言った。一人で行動していた事に関してはわざわざ触れなくても良い事だろう。
「そうだったのですか……お一人でLV上げをなさっていたんですか?」
「ああ……そうだな」
賢者というものは普通は後衛職だ。魔法には飛んでいるが、近接戦闘や防御に関しては長けていないのが普通だ。だから大抵の場合、パーティーを組んで行動する。ソロで行動などしない。だから彼女が疑問を持つのは自然な事であった。
「だったら賢者様。よろしかったら私とパーティーを組んでくださいませんか?」
「えっ!? ……あっ、ああ」
俺は彼女に手を握られる。女性に手を握られる事など久しぶりだったので、思わずどぎまぎしてしまう。そんな事、せいぜい中学校の時のフォークダンスの時くらいのものか。ゲーム世界では感じられなかった、リアルな体温の温かみが俺の心臓をドギマギさせた。
「賢者様の見せてくれた魔法はとても素晴らしいものでした……あなた様の力が必要なんです。私の母国であるアラステインを救う為にも」
彼女は俺の手を握り、熱弁してくる。
どうする? ……俺は考えた。見たところ、彼女は剣士タイプの職業(ジョブ)についているようだ。賢者のような後衛職と相性が良いのは間違いない。その上、彼女の剣筋は間違いなく、一級品であった。ビッグウルフに対しては知識と経験のなさから遅れを取ったが、逆に言えば知識と経験があれば難なく対処ができた事であろう。
この世界を知り尽くしている俺だったら、彼女を正しく導く事もできるはずだ。
それに彼女の母国アラステインの事も気がかりだ。彼女は単に嫌な相手との婚約を嫌い、逃げてきたというだけではない。彼女が言うように、恐らく裏ではもっと大きな陰謀がある事だろう。
放っておけるはずもない。
「わかった。ミリア姫。俺と一緒にパーティーを組もう」
「はい! ありがとうございますっ! 賢者様っ!」
彼女は屈託のない笑みを浮かべる。
「その賢者様っていうのは、やめてくれ……気恥ずかしくなる」
「でしたらアーサー様と呼ばせてください」
それもいかがなものか……。
「せめてさん付けにしてくれ」
俺はそう頼んだ。
「は、はいっ! わかりました。でしたら『アーサーさん』と呼ばせて頂きます」
こうして、俺達はパーティーを結成した。そして、次なる目的地へと向かうのであった。
◇
剣聖ミリアが仲間になった。
「あなたは王国アラステインの王女様なのですか」
「あまり驚かれていない様子ですね」
「いえ、驚いてはいます。ただ、立ち振る舞いから高貴さが滲み出ていたので、ある程度察しはついていました。貴族のご息女かと思っていました」
だが、王国アラステインのお姫様だとは思っていなかった為、俺は驚く。アラステインは北方にある長閑な王国だ。小国ではあるが、それでも穏やかな環境故に、別段大きな不満などなさそうなものだが。
やはり、彼女には彼女なりの理由があってここにいるのだろう。
「そのお姫様が護衛もつけずにこんなところに、なぜ一人でおられるのですか?」
「——それは」
彼女は語り始めた。彼女には婚約者がいたそうだ。大国であるマーナガルムの王子。小国であるアラステインは大国であるマーナガルムとの縁談を断れなかったようだ。それはある程度仕方のない事かもしれない。どこの国でも王族というのは一見すると優雅ではあるが、それなりのしがらみの囚われている。彼女もそのしがらみの例外ではなかったようだ。
「……普通の縁談であったのならば受けるより他ならなかったかもしれません。それが王族としての務めでありますから」
彼女は悟っている風に告げる。諦めているような感じだ。それが王族としての彼女の覚悟のようなものなのかもしれない。
「ですが……あの王子はどこかおかしいのです。不吉な予感がするのです。あの王子は良くない。私が犠牲になれば済む問題ではない。マーナガルムという大国はただの大きな国ではない。とても不気味で巨悪な存在に感じられたのです」
ミリアはそう告げてくる。
「しかし、お父様はその事を見抜かれてはいないようでした。私とマーナガルムの王子、シン王子との縁談は私の意思など関係なく進んでいくのです。そして速やかに行われる事になった、私と王子との結婚式。その前日に私は我慢しきれずに逃げ出しました」
そうか……それが彼女が護衛を一人も引き連れていなかった理由か。
「マーナガルムは異様な国家です。きっと良くないものに憑りつかれているいるに違いません。このままでは私の母国アラステインもきっと奴らの食い物に……」
「それがあなたが護衛もつけずにここにいた理由ですか……」
「はい……そうです」
そういう事か。これで合点がいったな。彼女のような高貴な身の上の人間がこんな危険なところにいるのはおかしいと思っていた。
「賢者様はどうして、こんなところにいらしたんですか?」
今度は逆に彼女の方から聞いてきた。
「……それは」
俺は真実を告げるか悩んだ。勇者パーティーから役立たず扱いをされて、追い出された、なんて事をわざわざお姫様相手に告げるのは恰好がつかない。嘘は良くないかもしれないが、何でも本当の事を言う必要もない気がした。
言わない方が良い事というのも世の中には確実に存在する。
「この近くに効率の良い狩場があるんだ。そこでLV上げを少々」
悩んだ末にそう言った。一人で行動していた事に関してはわざわざ触れなくても良い事だろう。
「そうだったのですか……お一人でLV上げをなさっていたんですか?」
「ああ……そうだな」
賢者というものは普通は後衛職だ。魔法には飛んでいるが、近接戦闘や防御に関しては長けていないのが普通だ。だから大抵の場合、パーティーを組んで行動する。ソロで行動などしない。だから彼女が疑問を持つのは自然な事であった。
「だったら賢者様。よろしかったら私とパーティーを組んでくださいませんか?」
「えっ!? ……あっ、ああ」
俺は彼女に手を握られる。女性に手を握られる事など久しぶりだったので、思わずどぎまぎしてしまう。そんな事、せいぜい中学校の時のフォークダンスの時くらいのものか。ゲーム世界では感じられなかった、リアルな体温の温かみが俺の心臓をドギマギさせた。
「賢者様の見せてくれた魔法はとても素晴らしいものでした……あなた様の力が必要なんです。私の母国であるアラステインを救う為にも」
彼女は俺の手を握り、熱弁してくる。
どうする? ……俺は考えた。見たところ、彼女は剣士タイプの職業(ジョブ)についているようだ。賢者のような後衛職と相性が良いのは間違いない。その上、彼女の剣筋は間違いなく、一級品であった。ビッグウルフに対しては知識と経験のなさから遅れを取ったが、逆に言えば知識と経験があれば難なく対処ができた事であろう。
この世界を知り尽くしている俺だったら、彼女を正しく導く事もできるはずだ。
それに彼女の母国アラステインの事も気がかりだ。彼女は単に嫌な相手との婚約を嫌い、逃げてきたというだけではない。彼女が言うように、恐らく裏ではもっと大きな陰謀がある事だろう。
放っておけるはずもない。
「わかった。ミリア姫。俺と一緒にパーティーを組もう」
「はい! ありがとうございますっ! 賢者様っ!」
彼女は屈託のない笑みを浮かべる。
「その賢者様っていうのは、やめてくれ……気恥ずかしくなる」
「でしたらアーサー様と呼ばせてください」
それもいかがなものか……。
「せめてさん付けにしてくれ」
俺はそう頼んだ。
「は、はいっ! わかりました。でしたら『アーサーさん』と呼ばせて頂きます」
こうして、俺達はパーティーを結成した。そして、次なる目的地へと向かうのであった。
◇
剣聖ミリアが仲間になった。
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