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第34話 闇勇者ハヤトとの闘い下

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「うっ……ううっ……」

 俺はうめき声を漏らした。

「……み、みんな、大丈夫か?」

 俺はパーティーの皆に声をかける。幸い、彼女達の身体は無事にあった。飲み込まれていたら木っ端微塵は愚か、塵一つ残さずに消失していたとしても不思議ではない。

「え……ええ……な、何とか」

 倒れながらもエステルは答える。

「……わ、私も何とか大丈夫そうです」

 倒れながらもレティシアも答える。

「まずかったな……さっきの攻撃を直撃していたら、生きていられる自信はなかった」

 俺達はよろよろと立ち上がる。

「……ふっ。ゴミ虫共のくせに、生命力だけは半端ないじゃないか。まるでゴキブリのようだな」

 闇勇者ハヤトは俺達を嘲笑う。

「一体、どうすればいいのです……想像よりも手が付けられない化け物のようです」

 エステルは嘆いた。

「ええ……その通りです。隙らしい、隙は見当たりません」

 レティシアも嘆く。二人とも同意見のようだった。それに関しては俺も概ね同じだ。だが、一つだけ違うところはある。

「隙ならある……僅かに一つだけだが」

「「一つだけ?」」

「奴の必殺技——技スキル『ダークエクスカリバー』は強力なものだ。だが、その後に隙が生じるはずだ。その攻撃を耐えた後だったのならば、きっと隙が生まれる。その隙をつけば、奴にダメージを与えられる。あわよくば、あの闇勇者ハヤトを倒せるはずだ」

「耐えるって……どうやって」

「俺があの攻撃を耐える……そして、その隙に二人で攻撃をしてくれ」

「正気ですか……? あの攻撃を受け止めたらいくらカゲト様でも無事では済みませんよ」

 エステルは俺の身を案じていた。

「ただ普通に受け止めるだけではダメだ。俺に考えがある。二人はしばらく時間を稼いでくれ」

 俺は技スキル『気合斬り』を発動させる。この攻撃にはチャージタイムがある為、しばらくの時間を必要とするのだ。

「「わ、わかりました」」

 二人は頷く。

「何をコソコソ、話しているんだ。そろそろ死ぬ準備はできたかな?」

「聖魔法(ホーリー)」

 レティシアは不意打ちのようなタイミングで、闇勇者ハヤトに聖魔法(ホーリー)を放つ。眩い聖なる光が闇勇者ハヤトを襲った。

「ちっ……眩しいじゃないか」

 しかし、弱点属性であるはずの聖属性の魔法——『聖魔法(ホーリー)』を以てしてでも、闇勇者ハヤトに対して効果的なダメージを与える事はできないようだった。闇勇者ハヤトは眩しそうに目を細める。

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 エステルが間髪入れずに、斬りかかっていった。完璧に不意を打ったはずだった。

 キィン!

「なっ!」

 エステルは大きく目を見開いた。闇勇者ハヤトは驚異的な反応速度でその攻撃を防いだのだ。剣と剣がぶつかる、甲高い音がその場に響き渡る。

「ふっ……危ないじゃないか。良い線いってたよ。僕以外の相手だったら、多分、通用していたんじゃないかな」
 
 闇勇者ハヤトはにやついたような笑みを浮かべる。

「皆! 離れてくれ!」

 俺は叫ぶ。二人が闇勇者ハヤトの気を引き付けておいてくれたおかげで、俺は『気合斬り』を放つだけのチャージタイムを稼げたのだ。もう発動条件を満たす事ができた。

「は、はい! わかりました! カゲト様!」

「わ、わかりましたわ!」

 二人は頷き、距離を取った。

 ひとつ、懸念点があった。この作戦には一つ欠点があったのだ。そもそもの話として、この『気合斬り』を闇勇者ハヤトが避けられたらどうしようもない。

 だが、それがただの杞憂だという事をすぐに気づく。力に慢心し、こちらを見下してきている闇勇者ハヤトが、わざわざ、こちらの攻撃を避けるなんて無様な真似をするはずがない。

 自身の圧倒的なまでの力を見せつけ、ねじ伏せようとしてくるに違いない。だから、馬鹿みたいな真っ向勝負でも真正面から跳ね返してこようとするはずだ。

「『気合斬り』!」

 俺は気合斬りを放つ。無属性。無色透明の刃が闇勇者ハヤトを襲い掛かる。

「ふっ……舐めるんじゃないよ。カゲト君。そんな程度の攻撃、今の僕に効くわけないじゃないか」

 闇勇者ハヤトは暗黒の剣『ダークエクスカリバー』を高く掲げた。やはり、思った通りだ。闇勇者ハヤトは真っ向から攻撃を返そうとしている。当然と言えば当然であった。

「死ね! 骨の一つも残さずに、蒸発してしまえばいいんだ! はっはっはっはっはっは!」

 闇勇者ハヤトは高笑いをした。そして、『ダークエクスカリバー』を振り下ろす。暗黒の衝撃波が俺を襲ってくる。俺の『気合斬り』と闇勇者ハヤトの『ダークエクスカリバー』が押し合いになった。だが、拮抗状態も一瞬の事でしかなかった。なにせ、相手の攻撃の方が俺の攻撃よりもずっと強力なのだ。

 拮抗状態は一瞬で崩れる。そして、俺に『ダークエクスカリバー』が襲い掛かった。

「くっ!」

 俺はやがて来る衝撃に備えた。

「カゲト様!」

 エステルが俺を心配したように叫ぶ。

「俺に構うな! エステル! レティシア姫! あの攻撃の後、必ず隙が生まれる。そのうちに攻撃をするんだ!」

「は、はい」

『気合斬り』の力で堪えるのも限界だった。盾となっていた力がなくなり、無防備になった俺に闇勇者ハヤトの『ダークエクスカリバー』が襲い掛かってくる。

「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 俺は悲鳴を上げた。凄まじい衝撃が襲い掛かってきた。

「はっ、はっ、はっ! 他愛ないね! カゲト君! 今の君はゴミムシそのものだよ! 良い気味だ! はっ、はっ、はっ!」

 闇勇者ハヤトは高笑いをする。

 ――しかし、その高笑いも長続きをしなかった。

「『聖光覇斬剣』!」

「な、なにっ!」

 エステルが光属性の技スキル『聖光覇斬剣』を放ってきた。輝くような光の刃が闇勇者ハヤトを襲う。闇勇者ハヤトは普段の時とは違い、無防備な状態で攻撃を受けた。普段ならどうともない攻撃でも、効き目は抜群なようだった。言わばクリティカルヒットと言っていい状態だ。その上に弱点属性の攻撃。

LV差は勿論あるが、それでもこれだけ条件が整っていればいくら闇勇者ハヤトとはいえ、効かないはずがない。

「くっ! ちょこざいなっ!」

「『最上級聖魔法(メガホーリー)』」

 間髪を入れずに、レティシアが聖属性でも最上位の魔法である『最上級聖魔法(メガホーリー)』を放つ。輝かしい光が、魔を滅するべく闇勇者ハヤトに襲い掛かった。

「ぐっ、ぐわああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 流石の闇勇者ハヤトもこれには堪らなかったのか、大きな声で悲鳴を上げた。『ダークエクスカリバー』で大ダメージを負い、瀕死状態のこっちからすればざまぁみろと言った感じだった。

「……くっ」

 闇勇者ハヤトが膝を折った。

「お、思っていたよりもやるじゃないか……。この最強の闇勇者である僕に、僅かではあるがダメージを与えるとは……」

 僅か……と言っているが、実際のところ、それなりにダメージは深そうである。エステルとレティシアの連続攻撃を食らったのだ。それも弱点属性で。いくらLVが高かったとしても、攻撃が効いてしまうのも無理はなかった。

「このまま闘えば僕が勝つのは容易い……だ、だが……0.1%でも負ける可能性がある。だから、万全を期する必要がある。今回は見逃してあげるよ」

 闇勇者ハヤトは踵を返した。歩く分には問題がなさそうだった。

「逃げるのですか!?」

 エステルが言い放つ。

「『逃げる』だと! 人聞きが悪いな! 見逃してやるんだよ! 見逃してやるっ!    君達なんて、僕はいつでも倒す事ができるんだ。その事を忘れるなよ」

 闇勇者ハヤトは尻尾を巻いて逃げ出した。そう言うと本人は顔を真っ赤にして否定してくる事だろうが。

「逃がしません!」

「待ちなさい! エステル様」

 レティシアにエステルは呼び止められる。

「追うのは危険です。手負いとはいえ、あなた一人でどうこうできる相手だとは思えません。それに、今はカゲト様の状態が心配です」

「そうですね……」

 レティシアに言われ、エステルは闇勇者ハヤトを追いかける事をやめた。

「うっ……ううっ……」

「大丈夫ですか!? カゲト様」

 瀕死の俺はレティシアに抱き起される。

「ど、どうなのです? カゲト様は大丈夫なのですか?」

 エステルは心配そうに聞いてくる。

「恐らく大丈夫です。危険な状態ではありますが、この程度の状態だったのならば『蘇生魔法(レイズ)』を使わずとも『回復魔法(ヒーリング)』を使うだけで癒せそうです」

「そうですか……それは良かったです」

 エステルはほっと胸を撫で下ろす。

「待っていてください。カゲト様。今、私があなた様を癒します」

レティシアは急いで俺に回復魔法(ヒーリング)をかけ始めた。

======================================
レティシアはMPを消費した。
代わりに俺のHPが回復する。
======================================

「うっ…ううっ……」
 
 俺は薄れていた意識を取り戻す。

「カゲト様!」

 エステルが叫んだ。

「……だ、大丈夫だ……レティシア。もう、大丈夫だから。回復魔法(ヒーリング)をかけないで良い」

「は、はい……そうですか。でしたら」

 レティシアは俺に回復魔法(ヒーリング)をかけるのを止めた。

「で、でも、どうしてカゲト様はあの闇勇者の攻撃をまともに受けても、ご無事だったのでしょうか?」

 エステルは不思議そうに聞いてくる。『無事』という言い方は多分に語弊があった。『無事』とはかけ離れた状態だ。割と致命傷だった。だが、本来であるならば、あの一撃で俺は即死してしまっていたに違いない。

 確かに俺の『気合斬り』により、あの闇勇者ハヤトの技スキル『ダーク・エクスカリバー』の威力は減退していた。それは確かに言える事だった。だが、あの『ダーク・エクスカリバー』の威力は凄まじく、その減退分を差し引いたとしても、俺のHPを0にしかねない程のものだった。

 それほどの威力をあの攻撃を放っていたのである。だが、これはたまたまではない。この結果になったのにはちゃんとした理由があったのだ。

「……俺が無事——というよりも、何とか生き残れたのには理由がある」

「い、一体、どんな理由なのでしょうか?」

 二人は首を傾げる。俺は指を指し示す。あの時に、手に入れた装飾品。リッチを倒した時に手に入れた『ダークリング』だ。この装飾品の効果は、『闇属性のダメージを半減する』というものだ。この特殊効果が俺の命を救ったのだ。

「あのリッチとの闘い……勿論、レティシアはわからないが、エステルと前に闘ったんだ。あの時、リッチを倒した時に得たドロップアイテム。それがこれ、『ダークリング』なんだ。この『ダークリング』の効果には『闇属性のダメージを半減する』というものがある。だから、恐らくこの効果により、俺は何とか、命を繋ぎとめたんだ」

 俺は、長々とそう説明する。

「そうなのですか……その『ダークリング』のおかげで……何にせよ。カゲト様がご無事で良かったです」

 エステルは胸を撫で下ろす。

「とにかく、これで一旦は我がエルフの国の危機を乗り切る事ができました」

 まだ全然安心できない。あの闇勇者ハヤトは健在であるし、魔王軍も健在だ。だから根本的に問題を解決できたわけではない。

 ……だが、エルフの国に束の間の平和が訪れたのも事実であった。

「一旦、我がエルフ国に戻りましょう。この件をお父様に報告する必要があります」

「ああ、そうだな。そうしようか」

「ええ、そうしましょう」

 こうして俺達は今回の件を報告するべく、エルフ国に戻っていくのであった。



 


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