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エル王子とベランダで密会してしまいます
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そこは王城のベランダでした。私はベランダから風景を眺めます。王城は高い場所にあります。高所から見下ろす町並みは綺麗でした。
そこではいつもと変わらない日常が続いています。夜になったら皆眠って、朝は起きてご飯を食べて、仕事をして。そんな当たり前の日常が今もなお続いているのです。
ですがそれは嵐の前の静けさです。帝国から宣戦布告されたことはまだ王族などの一部の権力者しか知りえない事です。
ですので今この状況は嵐の前の静けさというものです。平穏な日常というものはある日あの時、一瞬にして変貌してしまうものなのです。
そして戦争という人為的な天災はその日常を一変させてしまうだけの影響力があります。
「どうしたんだい? アイリス」
そんな時でした。
「エル王子……」
エル王子がベランダに姿を現すのでした。
「風景を……街並みを見ておりました」
「そうか……僕も一緒に見ていいかい?」
「どうぞ……構いません」
エル王子を拒む理由などありませんでした。それに私も一人でいると心細かったのです。ですからエル王子がいると心が安らぐのでした。
「不安かい? アイリス」
「不安でないはずなどありません。戦争が起きるのに不安な人間などそうそうおりませぬ」
「それもその通りだ。僕だって不安だよ。アイリスと同じだ」
勿論、前線に立つのはエル王子ではないかもしれません。彼と私は同じです。直接戦線に出向くことはない。だけどやはり戦争が起きる以上は責任を王族は負う事になります。
死傷者が出れば遺族の恨みを王族は買います。クーデーターや内乱などのリスクが起こりえるでしょう。
戦争を不満に思わない国民などいるはずがありません。食糧が減れば配給制になる事だってありえます。それに税金だってあがる可能性があります。
しかし敗戦して帝国の植民地化した場合、王国にあるのは暗い未来だけです。恐らくは自由など一切ない、弾圧された世界ができるでしょう。それはまさしくディストピアというものです。
「エル王子、何とかならないのですか?」
「何とか戦争を回避できないのか? という事だろう? 僕だって同じだよ。僕の中にその考えがあるならとうに実行しているさ」
「そうですね。それもその通りです」
私は馬鹿でした。他に選択肢がないから戦争になるのです。わかってはいたことでした。
「でしたら……質問を変えます。戦争に勝てますか?」
「難しいだろうね。敗戦は濃厚だと思う。軍事力が帝国と王国では違うのだから。兵の数が多い方が戦争は圧倒的に有利なんだ」
「……そうですか」
「明るいニュースはないね。残念ながら」
エル王子も溜息が出るばかりのようでした。
「私にできる事はありませんか?」
「君はよくやってるよ。薬師として王国に貢献してくれている。君の薬により多くの国民の命が救われた。それに貿易で大きな利益をもたらしてくれている。それだけで十分だよ。君は今まで通り、自分にできる事をしてくれていればいいんだよ」
「そうですか……そういってもらえると嬉しいです。自分が無力で非力な存在ではないのだと思えて。ですが、私にできる事なら何でも言ってください。もっと皆様のお役に立ちたいのです」
「アイリスにできることか……ひとつだけあった」
「なんでしょうか?」
「僕を勇気づけて欲しい」
「勇気づけるって……どうやってですか?」
「こうやってだよ」
「え? ……んっ、んんっ」
エル王子の美しい顔が近づいてきました。そして、私の唇と彼の唇が合わさるのです。私は大人しく目を閉じました。
私達はしばらくの間、唇を合わせていたのです。エル王子は私から離れます。
「僕とするのは嫌だったかい?」
「い……いえ、そんな事はありません」
拒絶しようと思えば簡単でした。私は受け入れたのです。心臓の鼓動がドキドキと高まり、止まりませんでした。
「これでエル王子を勇気づけられたのでしたら構いません」
「ありがとうアイリス。まだ頑張れそうだよ」
「無理はしないでください。倒れられたら困ります。王国にとってエル王子は大切な人なのですから」
「とりあえず、僕たちにできる事はなんでもやってみるよ。隣国アーガスに援軍を頼んでみる。幸い、君のおかげもあって王国の貿易は大幅な黒字なんだ。資金提供を持ちかける代わりに、軍事的な援助を頼んでみるよ」
「はい……私もできる事をします。もっと王国の、エル王子のお役に立てるように」
「それで、アイリス……戦争が終わったら、答えを聞かせて欲しいんだ」
「答えですか?」
「ああ……社交パーティーの時に言っただろう……。いつまでも待つって。だけど気が変わったよ。僕達はいずれ死ぬんだ。時間は有限なんだ。だから、期限やきっかけは必要だろう」
「それもその通りです……ずるずると引っ張り続けるのもよくないですよね」
「返事はその時でいい……今はそれどころではないかもしれない。そろそろ会議の時間だ。僕はいくよ。じゃあ、またね。アイリス」
「いってらっしゃいませ。エル王子」
こうしてエル王子と私は別れたのでした。
そこではいつもと変わらない日常が続いています。夜になったら皆眠って、朝は起きてご飯を食べて、仕事をして。そんな当たり前の日常が今もなお続いているのです。
ですがそれは嵐の前の静けさです。帝国から宣戦布告されたことはまだ王族などの一部の権力者しか知りえない事です。
ですので今この状況は嵐の前の静けさというものです。平穏な日常というものはある日あの時、一瞬にして変貌してしまうものなのです。
そして戦争という人為的な天災はその日常を一変させてしまうだけの影響力があります。
「どうしたんだい? アイリス」
そんな時でした。
「エル王子……」
エル王子がベランダに姿を現すのでした。
「風景を……街並みを見ておりました」
「そうか……僕も一緒に見ていいかい?」
「どうぞ……構いません」
エル王子を拒む理由などありませんでした。それに私も一人でいると心細かったのです。ですからエル王子がいると心が安らぐのでした。
「不安かい? アイリス」
「不安でないはずなどありません。戦争が起きるのに不安な人間などそうそうおりませぬ」
「それもその通りだ。僕だって不安だよ。アイリスと同じだ」
勿論、前線に立つのはエル王子ではないかもしれません。彼と私は同じです。直接戦線に出向くことはない。だけどやはり戦争が起きる以上は責任を王族は負う事になります。
死傷者が出れば遺族の恨みを王族は買います。クーデーターや内乱などのリスクが起こりえるでしょう。
戦争を不満に思わない国民などいるはずがありません。食糧が減れば配給制になる事だってありえます。それに税金だってあがる可能性があります。
しかし敗戦して帝国の植民地化した場合、王国にあるのは暗い未来だけです。恐らくは自由など一切ない、弾圧された世界ができるでしょう。それはまさしくディストピアというものです。
「エル王子、何とかならないのですか?」
「何とか戦争を回避できないのか? という事だろう? 僕だって同じだよ。僕の中にその考えがあるならとうに実行しているさ」
「そうですね。それもその通りです」
私は馬鹿でした。他に選択肢がないから戦争になるのです。わかってはいたことでした。
「でしたら……質問を変えます。戦争に勝てますか?」
「難しいだろうね。敗戦は濃厚だと思う。軍事力が帝国と王国では違うのだから。兵の数が多い方が戦争は圧倒的に有利なんだ」
「……そうですか」
「明るいニュースはないね。残念ながら」
エル王子も溜息が出るばかりのようでした。
「私にできる事はありませんか?」
「君はよくやってるよ。薬師として王国に貢献してくれている。君の薬により多くの国民の命が救われた。それに貿易で大きな利益をもたらしてくれている。それだけで十分だよ。君は今まで通り、自分にできる事をしてくれていればいいんだよ」
「そうですか……そういってもらえると嬉しいです。自分が無力で非力な存在ではないのだと思えて。ですが、私にできる事なら何でも言ってください。もっと皆様のお役に立ちたいのです」
「アイリスにできることか……ひとつだけあった」
「なんでしょうか?」
「僕を勇気づけて欲しい」
「勇気づけるって……どうやってですか?」
「こうやってだよ」
「え? ……んっ、んんっ」
エル王子の美しい顔が近づいてきました。そして、私の唇と彼の唇が合わさるのです。私は大人しく目を閉じました。
私達はしばらくの間、唇を合わせていたのです。エル王子は私から離れます。
「僕とするのは嫌だったかい?」
「い……いえ、そんな事はありません」
拒絶しようと思えば簡単でした。私は受け入れたのです。心臓の鼓動がドキドキと高まり、止まりませんでした。
「これでエル王子を勇気づけられたのでしたら構いません」
「ありがとうアイリス。まだ頑張れそうだよ」
「無理はしないでください。倒れられたら困ります。王国にとってエル王子は大切な人なのですから」
「とりあえず、僕たちにできる事はなんでもやってみるよ。隣国アーガスに援軍を頼んでみる。幸い、君のおかげもあって王国の貿易は大幅な黒字なんだ。資金提供を持ちかける代わりに、軍事的な援助を頼んでみるよ」
「はい……私もできる事をします。もっと王国の、エル王子のお役に立てるように」
「それで、アイリス……戦争が終わったら、答えを聞かせて欲しいんだ」
「答えですか?」
「ああ……社交パーティーの時に言っただろう……。いつまでも待つって。だけど気が変わったよ。僕達はいずれ死ぬんだ。時間は有限なんだ。だから、期限やきっかけは必要だろう」
「それもその通りです……ずるずると引っ張り続けるのもよくないですよね」
「返事はその時でいい……今はそれどころではないかもしれない。そろそろ会議の時間だ。僕はいくよ。じゃあ、またね。アイリス」
「いってらっしゃいませ。エル王子」
こうしてエル王子と私は別れたのでした。
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