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【義妹SIDE】アイリスを呼び戻そうとした結果断られる

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 ディアンナと母、マリアは深刻な病に侵されていた。

「ごほっ……ごほっ。げほっ!!!」

「ごほっ! げほっ! ごほっ!!!」

 二人は親子で仲良くベッドで寝込んでいる。

「な、なんでよ……なんであの根暗女を呼び戻さなきゃなのよ。ごほっ」

「し、仕方ないじゃないの。私達は死ぬわけにはいかないんだから。それで呼び戻してこき使ってやればいいのよ。婚約者のロズワール様はそのままあなたの婚約者として」

「ごほごほっ……そ、そうね。お母様」

「それに、風の噂ではあの根暗娘の作った薬、凄い高値で売れるそうなのよ!」

「ええっ!! それは本当なのかしら。お母様!!」

「本当よ!! それであの根暗女に病気を治してもらって、その上で薬を沢山作らせるの!! それを高値で売りさばくのよ!!」

 二人は病気にかかっている事も忘れるくらい、目の前の欲に取りつかれていた。

「そうすればこの屋敷の生活どころではないわ!! お城のようなところに住んで、使用人を何十人も雇って、それでお姫様のような生活ができるわ」

「す、すごいですわ! お母様! だったら私はロズワール様との婚約を破棄して、もっと素敵な殿方と結婚したいですわ! 例えば隣国のエルドリッヒ王子や、それから弟のレオハルト王子のような、美しい上に才能にあふれた、家柄も王族か貴族の!! 素敵な殿方と結婚したいんですの!!」

 ロズワールは名家の嫡男ではあり、それなりの美形ではあるが。主にはあの根暗女の婚約者を寝取る事に優越感を覚えていたのだ。他人の玩具を欲しがる。それがディアンナの性格である。
 ロズワールを心から愛していたわけではない為、奪い取った時点でそれなりに満足をしてしまった。
 当然のようにロズワールより上の男(物件)は世の中には無数に存在する。上には上がいるのだ。
だからディアンナはもっと条件のいい男と結婚できるチャンスがあったら平気で乗り換えるつもりだったのだ。

 例えば上記の二人から求婚されたらディアンナは即断でロズワールを捨て、その二人の方に行くだろう。

「そうよ!! あの根暗女をこき使えば素晴らしい未来が待っているのよ!!」

「そうですわね。だったら我慢しますわ。お城のような生活をして、エル王子やレオ王子と結婚したいんですの!!」

 二人はアイリスを呼び戻す事に一応の納得を見せた。

 だが当然のように物事は彼女達の思い通りにはいかなかったのである。






 ギルバルト家は隣国ルンデブルグに使者を送った。しつこくアイリスが戻ってくるように要求した結果、王国の方から直接使いが送られてきたのである。
 王宮で働く執事ヴィンセントである。

 ヴィンセントは比較的症状の出ていない、アイリスにとっては実の父であるレーガンと面会する事になった。

 屋敷でヴィンセントとレーガンは面会する。しかしヴィンセントは口元に何かを身に着けていた。仮面のようなものであった。

「な、何でしょうか? その仮面は」

「これは感染症対策の仮面です。アイリス様が開発されました。この仮面をつけていれば伝染病にかかる可能性は極端に低くなるそうです」

「は、はぁ……」

「初めましてアイリス様のお父様。私はアイリス様の専属執事でヴィンセントと申します」

「初めましてヴィンセント様。……それでアイリスの奴を我が家に戻してはくれませんか? 娘のディアンナと妻のマリアが流行り病に苦しんでいるのです」

「そうですか。それはお悔やみ申し上げます」

「風の噂でアイリスが流行り病の治療薬を調薬できるそうではありませんか。それもすごい効き目でほとんどの患者に効果があるそうで。どうか、アイリスを我が家に戻しては頂けないでしょうか」

「こちらとしても使者に何度もお断りをしていたのですが、しつこく食い下がってくるのでこちらから伺わせていただきました。結論から申しますとアイリス様をお戻しするわけにはいきません」

「な、なんですと!? それはどうしてですか!! このはアイリスの実家でもあるのですよ!! 親は私達です!!」

「アイリス様はギルバルト家を追い出されたと申しておりました。そして酷い扱いを受けてきた事をそれとなく聞いております他。今回の件はアイリス様にお伝えしてはおりませんが、仕える執事としてこのような話をする事は主君の為にならないと判断しました」

「そ、そんな!!」

「それにアイリス様は私達の王国に必要な方です。皆がアイリス様の薬師として、そして人として必要としているのです。こちらとしましてもアイリス様を手放すわけにはいきません」

「そ、そんな!! 実の父が!! それに義理とはいえ妹と母が病に苦しんでいるのですよ!! なぜ助けてくれないのですか!!」

 レーガンは泣き崩れかけた。

「お悔やみ申し上げます。ですが、病に苦しんでいるのはあなた達だけではありません。我々としても全ての人間を救う事はできないのです。仮にそれが実の肉親や両親だとしてもです。病に苦しんでいる人達は我が王国内にも無数に存在しているのです」

「くっ……」

「それではもう使者など我が国に送ってこない事です。くれぐれもアイリス様に接触してこないようにお願いします」

 ヴィンセントはそう告げて、屋敷を去っていった。

 ◇

「ど、どうだったのよ!! あなた!! アイリスを連れ戻す約束ができたんでしょうね!!」

「わ、私達の病気は治るんですよねっ!! お父様!!」

 ディアンナとマリアは自分勝手な事を言っていた。ディアンナに至ってはアイリスを連れ戻し、こき使った上で金を儲ける事しか考えていなかった。

 その金で王女のような生活をし、その上でエル王子やレオ王子のような極上の男(物件)を手に入れる事しか頭になかったのである。

「すまない。無理だった。隣国の王宮はアイリスを手放す気は一切ないらしい」

「「な、なんですってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」

 流石実の親子である。同じような声で、同じようなタイミングで発声する。

「だ、だったらお父様!! 私達はこのままですの!! このまま死ねって言うんですの!?」

「あ、あなた!! それはあんまりじゃない!! 私達は何も悪い事をしていないのよ!! それはもう、少しばかりアイリスに厳しい事をしたかもしれないけど、それはあの子に強く育ってもらいたいと思ったからの親心で!!」

 マリアは詭弁を並べる。マリアがしてきた数々の行いは単なる虐待である。我が身可愛さからの自己弁護以外の何物でもない。

「す、すまない!! どうしようもないっ!! ごほっ!! ごほっ!!」

 レーガンは咳き込んだ。

「どうやら私ももう限界らしい……お前達の流行り病がうつったようだ」

 力なく告げる。

「そ、そんなこんな事って。あんまり、あんまりですわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 ディアンナは叫んだ。病気の事すら忘れ。屋敷全体に響く程の悲鳴を。しかしその悲鳴がアイリスに届く事は一切なかったのである。

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