13 / 57
【義妹SIDE】アイリスを呼び戻そうとした結果断られる
しおりを挟む
ディアンナと母、マリアは深刻な病に侵されていた。
「ごほっ……ごほっ。げほっ!!!」
「ごほっ! げほっ! ごほっ!!!」
二人は親子で仲良くベッドで寝込んでいる。
「な、なんでよ……なんであの根暗女を呼び戻さなきゃなのよ。ごほっ」
「し、仕方ないじゃないの。私達は死ぬわけにはいかないんだから。それで呼び戻してこき使ってやればいいのよ。婚約者のロズワール様はそのままあなたの婚約者として」
「ごほごほっ……そ、そうね。お母様」
「それに、風の噂ではあの根暗娘の作った薬、凄い高値で売れるそうなのよ!」
「ええっ!! それは本当なのかしら。お母様!!」
「本当よ!! それであの根暗女に病気を治してもらって、その上で薬を沢山作らせるの!! それを高値で売りさばくのよ!!」
二人は病気にかかっている事も忘れるくらい、目の前の欲に取りつかれていた。
「そうすればこの屋敷の生活どころではないわ!! お城のようなところに住んで、使用人を何十人も雇って、それでお姫様のような生活ができるわ」
「す、すごいですわ! お母様! だったら私はロズワール様との婚約を破棄して、もっと素敵な殿方と結婚したいですわ! 例えば隣国のエルドリッヒ王子や、それから弟のレオハルト王子のような、美しい上に才能にあふれた、家柄も王族か貴族の!! 素敵な殿方と結婚したいんですの!!」
ロズワールは名家の嫡男ではあり、それなりの美形ではあるが。主にはあの根暗女の婚約者を寝取る事に優越感を覚えていたのだ。他人の玩具を欲しがる。それがディアンナの性格である。
ロズワールを心から愛していたわけではない為、奪い取った時点でそれなりに満足をしてしまった。
当然のようにロズワールより上の男(物件)は世の中には無数に存在する。上には上がいるのだ。
だからディアンナはもっと条件のいい男と結婚できるチャンスがあったら平気で乗り換えるつもりだったのだ。
例えば上記の二人から求婚されたらディアンナは即断でロズワールを捨て、その二人の方に行くだろう。
「そうよ!! あの根暗女をこき使えば素晴らしい未来が待っているのよ!!」
「そうですわね。だったら我慢しますわ。お城のような生活をして、エル王子やレオ王子と結婚したいんですの!!」
二人はアイリスを呼び戻す事に一応の納得を見せた。
だが当然のように物事は彼女達の思い通りにはいかなかったのである。
◇
ギルバルト家は隣国ルンデブルグに使者を送った。しつこくアイリスが戻ってくるように要求した結果、王国の方から直接使いが送られてきたのである。
王宮で働く執事ヴィンセントである。
ヴィンセントは比較的症状の出ていない、アイリスにとっては実の父であるレーガンと面会する事になった。
屋敷でヴィンセントとレーガンは面会する。しかしヴィンセントは口元に何かを身に着けていた。仮面のようなものであった。
「な、何でしょうか? その仮面は」
「これは感染症対策の仮面です。アイリス様が開発されました。この仮面をつけていれば伝染病にかかる可能性は極端に低くなるそうです」
「は、はぁ……」
「初めましてアイリス様のお父様。私はアイリス様の専属執事でヴィンセントと申します」
「初めましてヴィンセント様。……それでアイリスの奴を我が家に戻してはくれませんか? 娘のディアンナと妻のマリアが流行り病に苦しんでいるのです」
「そうですか。それはお悔やみ申し上げます」
「風の噂でアイリスが流行り病の治療薬を調薬できるそうではありませんか。それもすごい効き目でほとんどの患者に効果があるそうで。どうか、アイリスを我が家に戻しては頂けないでしょうか」
「こちらとしても使者に何度もお断りをしていたのですが、しつこく食い下がってくるのでこちらから伺わせていただきました。結論から申しますとアイリス様をお戻しするわけにはいきません」
「な、なんですと!? それはどうしてですか!! このはアイリスの実家でもあるのですよ!! 親は私達です!!」
「アイリス様はギルバルト家を追い出されたと申しておりました。そして酷い扱いを受けてきた事をそれとなく聞いております他。今回の件はアイリス様にお伝えしてはおりませんが、仕える執事としてこのような話をする事は主君の為にならないと判断しました」
「そ、そんな!!」
「それにアイリス様は私達の王国に必要な方です。皆がアイリス様の薬師として、そして人として必要としているのです。こちらとしましてもアイリス様を手放すわけにはいきません」
「そ、そんな!! 実の父が!! それに義理とはいえ妹と母が病に苦しんでいるのですよ!! なぜ助けてくれないのですか!!」
レーガンは泣き崩れかけた。
「お悔やみ申し上げます。ですが、病に苦しんでいるのはあなた達だけではありません。我々としても全ての人間を救う事はできないのです。仮にそれが実の肉親や両親だとしてもです。病に苦しんでいる人達は我が王国内にも無数に存在しているのです」
「くっ……」
「それではもう使者など我が国に送ってこない事です。くれぐれもアイリス様に接触してこないようにお願いします」
ヴィンセントはそう告げて、屋敷を去っていった。
◇
「ど、どうだったのよ!! あなた!! アイリスを連れ戻す約束ができたんでしょうね!!」
「わ、私達の病気は治るんですよねっ!! お父様!!」
ディアンナとマリアは自分勝手な事を言っていた。ディアンナに至ってはアイリスを連れ戻し、こき使った上で金を儲ける事しか考えていなかった。
その金で王女のような生活をし、その上でエル王子やレオ王子のような極上の男(物件)を手に入れる事しか頭になかったのである。
「すまない。無理だった。隣国の王宮はアイリスを手放す気は一切ないらしい」
「「な、なんですってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」
流石実の親子である。同じような声で、同じようなタイミングで発声する。
「だ、だったらお父様!! 私達はこのままですの!! このまま死ねって言うんですの!?」
「あ、あなた!! それはあんまりじゃない!! 私達は何も悪い事をしていないのよ!! それはもう、少しばかりアイリスに厳しい事をしたかもしれないけど、それはあの子に強く育ってもらいたいと思ったからの親心で!!」
マリアは詭弁を並べる。マリアがしてきた数々の行いは単なる虐待である。我が身可愛さからの自己弁護以外の何物でもない。
「す、すまない!! どうしようもないっ!! ごほっ!! ごほっ!!」
レーガンは咳き込んだ。
「どうやら私ももう限界らしい……お前達の流行り病がうつったようだ」
力なく告げる。
「そ、そんなこんな事って。あんまり、あんまりですわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
ディアンナは叫んだ。病気の事すら忘れ。屋敷全体に響く程の悲鳴を。しかしその悲鳴がアイリスに届く事は一切なかったのである。
「ごほっ……ごほっ。げほっ!!!」
「ごほっ! げほっ! ごほっ!!!」
二人は親子で仲良くベッドで寝込んでいる。
「な、なんでよ……なんであの根暗女を呼び戻さなきゃなのよ。ごほっ」
「し、仕方ないじゃないの。私達は死ぬわけにはいかないんだから。それで呼び戻してこき使ってやればいいのよ。婚約者のロズワール様はそのままあなたの婚約者として」
「ごほごほっ……そ、そうね。お母様」
「それに、風の噂ではあの根暗娘の作った薬、凄い高値で売れるそうなのよ!」
「ええっ!! それは本当なのかしら。お母様!!」
「本当よ!! それであの根暗女に病気を治してもらって、その上で薬を沢山作らせるの!! それを高値で売りさばくのよ!!」
二人は病気にかかっている事も忘れるくらい、目の前の欲に取りつかれていた。
「そうすればこの屋敷の生活どころではないわ!! お城のようなところに住んで、使用人を何十人も雇って、それでお姫様のような生活ができるわ」
「す、すごいですわ! お母様! だったら私はロズワール様との婚約を破棄して、もっと素敵な殿方と結婚したいですわ! 例えば隣国のエルドリッヒ王子や、それから弟のレオハルト王子のような、美しい上に才能にあふれた、家柄も王族か貴族の!! 素敵な殿方と結婚したいんですの!!」
ロズワールは名家の嫡男ではあり、それなりの美形ではあるが。主にはあの根暗女の婚約者を寝取る事に優越感を覚えていたのだ。他人の玩具を欲しがる。それがディアンナの性格である。
ロズワールを心から愛していたわけではない為、奪い取った時点でそれなりに満足をしてしまった。
当然のようにロズワールより上の男(物件)は世の中には無数に存在する。上には上がいるのだ。
だからディアンナはもっと条件のいい男と結婚できるチャンスがあったら平気で乗り換えるつもりだったのだ。
例えば上記の二人から求婚されたらディアンナは即断でロズワールを捨て、その二人の方に行くだろう。
「そうよ!! あの根暗女をこき使えば素晴らしい未来が待っているのよ!!」
「そうですわね。だったら我慢しますわ。お城のような生活をして、エル王子やレオ王子と結婚したいんですの!!」
二人はアイリスを呼び戻す事に一応の納得を見せた。
だが当然のように物事は彼女達の思い通りにはいかなかったのである。
◇
ギルバルト家は隣国ルンデブルグに使者を送った。しつこくアイリスが戻ってくるように要求した結果、王国の方から直接使いが送られてきたのである。
王宮で働く執事ヴィンセントである。
ヴィンセントは比較的症状の出ていない、アイリスにとっては実の父であるレーガンと面会する事になった。
屋敷でヴィンセントとレーガンは面会する。しかしヴィンセントは口元に何かを身に着けていた。仮面のようなものであった。
「な、何でしょうか? その仮面は」
「これは感染症対策の仮面です。アイリス様が開発されました。この仮面をつけていれば伝染病にかかる可能性は極端に低くなるそうです」
「は、はぁ……」
「初めましてアイリス様のお父様。私はアイリス様の専属執事でヴィンセントと申します」
「初めましてヴィンセント様。……それでアイリスの奴を我が家に戻してはくれませんか? 娘のディアンナと妻のマリアが流行り病に苦しんでいるのです」
「そうですか。それはお悔やみ申し上げます」
「風の噂でアイリスが流行り病の治療薬を調薬できるそうではありませんか。それもすごい効き目でほとんどの患者に効果があるそうで。どうか、アイリスを我が家に戻しては頂けないでしょうか」
「こちらとしても使者に何度もお断りをしていたのですが、しつこく食い下がってくるのでこちらから伺わせていただきました。結論から申しますとアイリス様をお戻しするわけにはいきません」
「な、なんですと!? それはどうしてですか!! このはアイリスの実家でもあるのですよ!! 親は私達です!!」
「アイリス様はギルバルト家を追い出されたと申しておりました。そして酷い扱いを受けてきた事をそれとなく聞いております他。今回の件はアイリス様にお伝えしてはおりませんが、仕える執事としてこのような話をする事は主君の為にならないと判断しました」
「そ、そんな!!」
「それにアイリス様は私達の王国に必要な方です。皆がアイリス様の薬師として、そして人として必要としているのです。こちらとしましてもアイリス様を手放すわけにはいきません」
「そ、そんな!! 実の父が!! それに義理とはいえ妹と母が病に苦しんでいるのですよ!! なぜ助けてくれないのですか!!」
レーガンは泣き崩れかけた。
「お悔やみ申し上げます。ですが、病に苦しんでいるのはあなた達だけではありません。我々としても全ての人間を救う事はできないのです。仮にそれが実の肉親や両親だとしてもです。病に苦しんでいる人達は我が王国内にも無数に存在しているのです」
「くっ……」
「それではもう使者など我が国に送ってこない事です。くれぐれもアイリス様に接触してこないようにお願いします」
ヴィンセントはそう告げて、屋敷を去っていった。
◇
「ど、どうだったのよ!! あなた!! アイリスを連れ戻す約束ができたんでしょうね!!」
「わ、私達の病気は治るんですよねっ!! お父様!!」
ディアンナとマリアは自分勝手な事を言っていた。ディアンナに至ってはアイリスを連れ戻し、こき使った上で金を儲ける事しか考えていなかった。
その金で王女のような生活をし、その上でエル王子やレオ王子のような極上の男(物件)を手に入れる事しか頭になかったのである。
「すまない。無理だった。隣国の王宮はアイリスを手放す気は一切ないらしい」
「「な、なんですってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」
流石実の親子である。同じような声で、同じようなタイミングで発声する。
「だ、だったらお父様!! 私達はこのままですの!! このまま死ねって言うんですの!?」
「あ、あなた!! それはあんまりじゃない!! 私達は何も悪い事をしていないのよ!! それはもう、少しばかりアイリスに厳しい事をしたかもしれないけど、それはあの子に強く育ってもらいたいと思ったからの親心で!!」
マリアは詭弁を並べる。マリアがしてきた数々の行いは単なる虐待である。我が身可愛さからの自己弁護以外の何物でもない。
「す、すまない!! どうしようもないっ!! ごほっ!! ごほっ!!」
レーガンは咳き込んだ。
「どうやら私ももう限界らしい……お前達の流行り病がうつったようだ」
力なく告げる。
「そ、そんなこんな事って。あんまり、あんまりですわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
ディアンナは叫んだ。病気の事すら忘れ。屋敷全体に響く程の悲鳴を。しかしその悲鳴がアイリスに届く事は一切なかったのである。
0
お気に入りに追加
3,655
あなたにおすすめの小説
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。
幼馴染が好きなら幼馴染だけ愛せば?
新野乃花(大舟)
恋愛
フーレン伯爵はエレナとの婚約関係を結んでいながら、仕事だと言って屋敷をあけ、その度に自身の幼馴染であるレベッカとの関係を深めていた。その関係は次第に熱いものとなっていき、ついにフーレン伯爵はエレナに婚約破棄を告げてしまう。しかしその言葉こそ、伯爵が奈落の底に転落していく最初の第一歩となるのであった。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
王子様は王妃の出産後すぐ離縁するつもりです~貴方が欲しいのは私の魔力を受け継ぐ世継ぎだけですよね?~
五月ふう
恋愛
ここはロマリア国の大神殿。ロマリア歴417年。雪が降りしきる冬の夜。
「最初から……子供を奪って……離縁するつもりだったのでしょう?」
ロマリア国王子エドワーズの妃、セラ・スチュワートは無表情で言った。セラは両手両足を拘束され、王子エドワーズの前に跪いている。
「……子供をどこに隠した?!」
質問には答えず、エドワーズはセラを怒鳴りつけた。背が高く黒い髪を持つ美しい王子エドワードの顔が、醜く歪んでいる。
「教えてあげない。」
その目には何の感情も浮かんでいない。セラは魔導士達が作る魔法陣の中央に座っていた。魔法陣は少しずつセラから魔力を奪っていく。
(もう……限界ね)
セラは生まれたときから誰よりも強い魔力を持っていた。その強い魔力は彼女から大切なものを奪い、不幸をもたらすものだった。魔力が人並み外れて強くなければ、セラはエドワーズの妃に望まれることも、大切な人と引き離されることもなかったはずだ。
「ちくしょう!もういいっ!セラの魔力を奪え!」
「良いのかしら?魔力がすべて失われたら、私は死んでしまうわよ?貴方の探し物は、きっと見つからないままになるでしょう。」
「魔力を失い、死にたくなかったら、子供の居場所を教えろ!」
「嫌よ。貴方には……絶対見つけられない場所に……隠しておいたから……。」
セラの体は白く光っている。魔力は彼女の生命力を維持するものだ。魔力がなくなれば、セラは空っぽの動かない人形になってしまう。
「もういいっ!母親がいなくなれば、赤子はすぐに見つかるっ。さあ、この死にぞこないから全ての魔力を奪え!」
広い神殿にエドワーズのわめき声が響いた。耳を澄ませば、ゴゴオオオという、吹雪の音が聞こえてくる。
(ねえ、もう一度だけ……貴方に会いたかったわ。)
セラは目を閉じて、大切な元婚約者の顔を思い浮かべる。彼はセラが残したものを見つけて、幸せになってくれるだろうか。
「セラの魔力をすべて奪うまで、あと少しです!」
魔法陣は目を開けていられないほどのまばゆい光を放っている。セラに残された魔力が根こそぎ奪われていく。もはや抵抗は無意味だった。
(ああ……ついに終わるのね……。)
ついにセラは力を失い、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
「ねえ、***…………。ずっと貴方を……愛していたわ……。」
彼の傍にいる間、一度も伝えたことのなかった想いをセラは最後にそっと呟いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる