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第4話
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「~~♪」
その日の朝。私は幸せな気分で目を覚ましました。そして待ちきれない気持ちで身支度をして、食卓で鼻歌を歌っているのです。
「随分と幸せそうね」
母が言ってきます。
「あのレオン様から婚約破棄の申し出を受けた時は私達は驚いたのよ」
「本当だぞ。本当」
両親は予想外の私の態度に、呆気に取られているようでした。
「私達、あなたが落ち込んでるんじゃないかと思って心配してたのよ」
「そうだ、そうだ。心配してたんだぞ。きっと泣きながら食卓に来るか、いや、ショックのあまり引きこもって学院を休むかとすら思ったのに」
「本当、一体何があったの?」
「なーいしょ」
私は笑顔で答える。
「行ってきます」
「ちょ、ちょっと、朝食残ってるじゃないの」
待ちきれない私は朝食もそこそこに学院に向かう。
「飼ってる犬にでもあげといて」
「も、もう!」
「いいじゃないか母さん。ローラが落ち込んでなくて元気があるみたいで」
「そうね。それはその通りよ」
釈然としていない両親は、それでも元気な様子の私を見て安心しているようではありました。
◇
「あら、どこの誰かと思ったら、あの負け犬のローラ様ではございませんか。ごきげんうるわしゅうございます」
私の前にエミリアが姿を現す。というよりも待ち伏せをしていたようでした。
「エミリアさん……どうしたのですか?」
「ん? ……」
エミリアは釈然としていない表情を浮かべます。婚約者を寝取ったのですから、当然のように私が落ち込んでいると思ったのでしょう。
むしろ私を落ち込ませるためにレオンを寝取った部分も多分にありそうでした。勿論、それが全てだとは思えませんが。
私が落ち込んでいる様子を愉しんで見物するつもりが、私に落ち込んでいる素振りがなく、それで肩透かしを食らってしまったようです。
エミリアは明らかにがっかりしている様子でした。
「何がありましたの? レオン様を私に取られて、落ち込んでると思いましたのに。今日、学院に来ないとすら思っていたのに」
「何でもないです」
――と、私が言った時でした。
「おーい! ローラ!」
「ノア君……」
私が目に入ったノア君が駆け寄ってくるのです。
「どうしんだい? ローラ。こんなところで」
「ううん。別に何でもないよ」
「急がないと、学院に遅刻しちゃうよ。急ごうか」
ノア君は私の手を握ろうとしてきます。私はその手をかわすのです。
「ん?」
「だ、だめですよ、ノア君。皆見てますから、恥ずかしいです」
「……そうか。ローラがそういうならいいけど」
「ふーん。お二人はどういう関係なのですか?」
エミリアは不機嫌そうな顔で聞いてきます。
「どういう関係って、恋――」
「ち、違うの! 友達……幼馴染の友達で」
「お、おい。ローラ、それはどういう」
私は耳打ちします。
(色々とバレたら面倒だから……今は秘密にしておきましょう)
(そ、そうか……それも確かにそうだね。わかったよ)
「ふーん。友達ですか。それにしては随分と親密そうですね」
「そ、そうだね。だって僕達仲のいい友達だからね。急ごうか、ローラ」
「う、うん。ノア君」
多分、エミリアは感づいている。誤魔化し切れていない。不機嫌そうな顔と目で、ずっと私達を見てくるのですから。
なんだか怖かったです。視線を感じつつも私達は学院へと急ぐのでした。
その日の朝。私は幸せな気分で目を覚ましました。そして待ちきれない気持ちで身支度をして、食卓で鼻歌を歌っているのです。
「随分と幸せそうね」
母が言ってきます。
「あのレオン様から婚約破棄の申し出を受けた時は私達は驚いたのよ」
「本当だぞ。本当」
両親は予想外の私の態度に、呆気に取られているようでした。
「私達、あなたが落ち込んでるんじゃないかと思って心配してたのよ」
「そうだ、そうだ。心配してたんだぞ。きっと泣きながら食卓に来るか、いや、ショックのあまり引きこもって学院を休むかとすら思ったのに」
「本当、一体何があったの?」
「なーいしょ」
私は笑顔で答える。
「行ってきます」
「ちょ、ちょっと、朝食残ってるじゃないの」
待ちきれない私は朝食もそこそこに学院に向かう。
「飼ってる犬にでもあげといて」
「も、もう!」
「いいじゃないか母さん。ローラが落ち込んでなくて元気があるみたいで」
「そうね。それはその通りよ」
釈然としていない両親は、それでも元気な様子の私を見て安心しているようではありました。
◇
「あら、どこの誰かと思ったら、あの負け犬のローラ様ではございませんか。ごきげんうるわしゅうございます」
私の前にエミリアが姿を現す。というよりも待ち伏せをしていたようでした。
「エミリアさん……どうしたのですか?」
「ん? ……」
エミリアは釈然としていない表情を浮かべます。婚約者を寝取ったのですから、当然のように私が落ち込んでいると思ったのでしょう。
むしろ私を落ち込ませるためにレオンを寝取った部分も多分にありそうでした。勿論、それが全てだとは思えませんが。
私が落ち込んでいる様子を愉しんで見物するつもりが、私に落ち込んでいる素振りがなく、それで肩透かしを食らってしまったようです。
エミリアは明らかにがっかりしている様子でした。
「何がありましたの? レオン様を私に取られて、落ち込んでると思いましたのに。今日、学院に来ないとすら思っていたのに」
「何でもないです」
――と、私が言った時でした。
「おーい! ローラ!」
「ノア君……」
私が目に入ったノア君が駆け寄ってくるのです。
「どうしんだい? ローラ。こんなところで」
「ううん。別に何でもないよ」
「急がないと、学院に遅刻しちゃうよ。急ごうか」
ノア君は私の手を握ろうとしてきます。私はその手をかわすのです。
「ん?」
「だ、だめですよ、ノア君。皆見てますから、恥ずかしいです」
「……そうか。ローラがそういうならいいけど」
「ふーん。お二人はどういう関係なのですか?」
エミリアは不機嫌そうな顔で聞いてきます。
「どういう関係って、恋――」
「ち、違うの! 友達……幼馴染の友達で」
「お、おい。ローラ、それはどういう」
私は耳打ちします。
(色々とバレたら面倒だから……今は秘密にしておきましょう)
(そ、そうか……それも確かにそうだね。わかったよ)
「ふーん。友達ですか。それにしては随分と親密そうですね」
「そ、そうだね。だって僕達仲のいい友達だからね。急ごうか、ローラ」
「う、うん。ノア君」
多分、エミリアは感づいている。誤魔化し切れていない。不機嫌そうな顔と目で、ずっと私達を見てくるのですから。
なんだか怖かったです。視線を感じつつも私達は学院へと急ぐのでした。
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