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第2話
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「ぐすっ……ぐすっ……ぐすっ」
それは放課後の誰もいない教室での出来事でした。授業が終わった後、私は一人涙を流します。
もう、我慢しなくてもいいのです。誰にも見せなくてもいい涙なら。誰に文句を言われるわけでもないのですから。
あんまりではないですか。私が……。私が何をしたというのです。ただ、レオン様の婚約者というだけでエミリアに虐げられ、その上、婚約者まで奪われていくなんて。そんなのいくらなんでもあんまりです。
「何をやってるんだい?」
その時、教室に一人の男子生徒が入ってきました。
「ノア君……」
ノア君。最近学院に転校してきた転校生です。彼が転校してきた事で、エミリアの私に対するいじめはとりあえずは治まったのです。見かねたノア君が私を庇ってくれるようになったのです。
ノア君が転校してきてくれた事。強いて言うならそれが最近あった一番いいところでした。平穏な学生生活が戻ってきた、そう思えたのです。彼には大変感謝しております。
人当たりがよく、明るい少年でした。また飛びぬけて頭もよく、学業の成績は優秀、その上、スポーツでも他の誰も敵わないのです。
さらにはその秀麗な容姿で多くの人々の注目を集めております。彼に恋焦がれている女子生徒は数多くいるそうです。
僅かな期間に人望を集め、この学院の生徒会長へと皆が推薦している程です。
まさしく私にとっては完璧な、王子様のような方でした。
「どうしたんだい? ローラ」
「な、なにもしていません……ノア君」
「何もないなんてことあるか! 今、ローラ、君は泣いているだろう?」
ノア君が詰め寄ってきます。どうやらノア君相手では誤魔化しきれないようでした。
「何か辛い事があったんだろ、ローラ。言ってみてくれよ」
「はい。実は――」
私は起こった事を伝えます。エミリアに婚約者であるレオンを寝取られ、婚約破棄された事を。
「なんてひどいんだ……そんな事があったなんて」
「私のせいですよね……私が悪いから、こんなひどい目に合うんです」
「そんなわけあるか! ローラ。君がそんな目に合っていいわけがないじゃないか。どう考えても悪いのは彼等の方だ。ローラをこんなひどい目に合わせるなんて、僕はとても許せないよ」
温厚なノア君が随分と感情的になっているようでした。けど、どうして? そんな疑問が私には浮かんでくるのです。
「どうしてなんですか? ノア君。どうしてノア君がそこまで怒るんですか?」
「そんなの決まっているよ。それは――」
その次に紡がれる言葉は私が想像すらしていない、驚きの言葉だったのです。ノア君はその美しい青い瞳で私を見つめてきます。なんて真剣な表情でしょうか。こんな真剣な表情のノア君見た事がありません。
「君のことが好きだからだよ。ローラ」
「う、うそ……ノア君。そんな事が……」
で、でも。ど、どうして。そんな事が。ノア君が私を好きなんて。私はあまりに衝撃的すぎるその発言に、耳を疑いました。言葉を理解する事ができないでいます。
「……でも、なんで。ノア君。急に私の事を……好きだなんて」
「急にじゃない……ローラ。覚えているかい? 10年前の事」
「10年前?」
「そう……その時、僕たちはもう出会っていたんだよ」
私は思い出したのです。10年前のあの夏の日の事。僅か数日の事でしたが、男の子と遊んだ事があったのです。金髪をした雪のような肌をした美少年。
「……まさか、あの少年がノア君だったというのですか?」
「そうだ……10年前の僕だ。10年前僕はこの国に用事があってきたけど、子供ながらに退屈でね。思わず逃げ出してしまったんだ。そこでローラ、君と出会ったんだ」
なんと、実は私とノア君は幼馴染だったのです。
「嘘……そんな事が。で、でも、ノア君は隣国に住んでいたのでしょう。でもなんでわざわざこの国に学生として通うように」
「それは勿論……ローラ。君に会いたかったんだよ。10年前のあの日の約束を果たしたくて」
「約束……ですか」
子供の頃の約束なのに覚えていてくれたなんて、嬉しすぎます。そんなの子供の言っていた戯言だと思っていたのに。そのためにわざわざ隣国の学院にまで通ってきてくれるなんて。
「けど、僕にとっては幸運だったかもしれない。ローラ、君とそのレオンさんとの婚約関係が解消されたのは」
「え? ……それはどういう事です?」
「ローラ、僕と婚約して欲しい」
「え? こ、婚約」
いきなりの告白に、私の心臓の鼓動がドキドキと高まり、治まらなくなります。
「無論、すぐにじゃなくていいんだ。じっくりと考えた上で。まだ僕も君に打ち合えていない事があるんだ。段々とお互いを知り合って、それから決めて欲しいんだ。
ローラ、とりあえず僕の恋人になって欲しい」
「恋人ですか?」
「だめかい? ……僕に君の心の傷を癒させて欲しいんだ」
ノア君は真摯に私に訴えかけています。もう、私は決まっています。
私は黙ってノア君にキスをしました。誰もいない放課後の教室。夕暮れ時のロマンチックな風景が脳裏に残ります。これが私のファーストキスの瞬間でした。
私は慈しむように長く、ノア君と唇を交わします。そしてどれほど長い時間が過ぎたでしょう。惜しむように私は唇を離すのです。
「これが答えです……伝わりましたか?」
「ああ。十分に伝わったよ。ローラ」
こうして私のノア君はひとまず恋人同士になりました。
地獄のように苦しい心境がノア君のおかげで一転、天国にいるかのように幸せな気持ちになれたのです。
泣いていたのが嘘のよう。最終的に私は笑顔で教室を出るのです。
「じゃあね、またノア君。学校で」
「ああ……また明日会おうね。ローラ」
こうして私はノア君と別れます。
しかし、私はその時まだ、ノア君に秘められた秘密に気づいていなかったのです。
――その秘密は後々明かされる事になるのでした。
それは放課後の誰もいない教室での出来事でした。授業が終わった後、私は一人涙を流します。
もう、我慢しなくてもいいのです。誰にも見せなくてもいい涙なら。誰に文句を言われるわけでもないのですから。
あんまりではないですか。私が……。私が何をしたというのです。ただ、レオン様の婚約者というだけでエミリアに虐げられ、その上、婚約者まで奪われていくなんて。そんなのいくらなんでもあんまりです。
「何をやってるんだい?」
その時、教室に一人の男子生徒が入ってきました。
「ノア君……」
ノア君。最近学院に転校してきた転校生です。彼が転校してきた事で、エミリアの私に対するいじめはとりあえずは治まったのです。見かねたノア君が私を庇ってくれるようになったのです。
ノア君が転校してきてくれた事。強いて言うならそれが最近あった一番いいところでした。平穏な学生生活が戻ってきた、そう思えたのです。彼には大変感謝しております。
人当たりがよく、明るい少年でした。また飛びぬけて頭もよく、学業の成績は優秀、その上、スポーツでも他の誰も敵わないのです。
さらにはその秀麗な容姿で多くの人々の注目を集めております。彼に恋焦がれている女子生徒は数多くいるそうです。
僅かな期間に人望を集め、この学院の生徒会長へと皆が推薦している程です。
まさしく私にとっては完璧な、王子様のような方でした。
「どうしたんだい? ローラ」
「な、なにもしていません……ノア君」
「何もないなんてことあるか! 今、ローラ、君は泣いているだろう?」
ノア君が詰め寄ってきます。どうやらノア君相手では誤魔化しきれないようでした。
「何か辛い事があったんだろ、ローラ。言ってみてくれよ」
「はい。実は――」
私は起こった事を伝えます。エミリアに婚約者であるレオンを寝取られ、婚約破棄された事を。
「なんてひどいんだ……そんな事があったなんて」
「私のせいですよね……私が悪いから、こんなひどい目に合うんです」
「そんなわけあるか! ローラ。君がそんな目に合っていいわけがないじゃないか。どう考えても悪いのは彼等の方だ。ローラをこんなひどい目に合わせるなんて、僕はとても許せないよ」
温厚なノア君が随分と感情的になっているようでした。けど、どうして? そんな疑問が私には浮かんでくるのです。
「どうしてなんですか? ノア君。どうしてノア君がそこまで怒るんですか?」
「そんなの決まっているよ。それは――」
その次に紡がれる言葉は私が想像すらしていない、驚きの言葉だったのです。ノア君はその美しい青い瞳で私を見つめてきます。なんて真剣な表情でしょうか。こんな真剣な表情のノア君見た事がありません。
「君のことが好きだからだよ。ローラ」
「う、うそ……ノア君。そんな事が……」
で、でも。ど、どうして。そんな事が。ノア君が私を好きなんて。私はあまりに衝撃的すぎるその発言に、耳を疑いました。言葉を理解する事ができないでいます。
「……でも、なんで。ノア君。急に私の事を……好きだなんて」
「急にじゃない……ローラ。覚えているかい? 10年前の事」
「10年前?」
「そう……その時、僕たちはもう出会っていたんだよ」
私は思い出したのです。10年前のあの夏の日の事。僅か数日の事でしたが、男の子と遊んだ事があったのです。金髪をした雪のような肌をした美少年。
「……まさか、あの少年がノア君だったというのですか?」
「そうだ……10年前の僕だ。10年前僕はこの国に用事があってきたけど、子供ながらに退屈でね。思わず逃げ出してしまったんだ。そこでローラ、君と出会ったんだ」
なんと、実は私とノア君は幼馴染だったのです。
「嘘……そんな事が。で、でも、ノア君は隣国に住んでいたのでしょう。でもなんでわざわざこの国に学生として通うように」
「それは勿論……ローラ。君に会いたかったんだよ。10年前のあの日の約束を果たしたくて」
「約束……ですか」
子供の頃の約束なのに覚えていてくれたなんて、嬉しすぎます。そんなの子供の言っていた戯言だと思っていたのに。そのためにわざわざ隣国の学院にまで通ってきてくれるなんて。
「けど、僕にとっては幸運だったかもしれない。ローラ、君とそのレオンさんとの婚約関係が解消されたのは」
「え? ……それはどういう事です?」
「ローラ、僕と婚約して欲しい」
「え? こ、婚約」
いきなりの告白に、私の心臓の鼓動がドキドキと高まり、治まらなくなります。
「無論、すぐにじゃなくていいんだ。じっくりと考えた上で。まだ僕も君に打ち合えていない事があるんだ。段々とお互いを知り合って、それから決めて欲しいんだ。
ローラ、とりあえず僕の恋人になって欲しい」
「恋人ですか?」
「だめかい? ……僕に君の心の傷を癒させて欲しいんだ」
ノア君は真摯に私に訴えかけています。もう、私は決まっています。
私は黙ってノア君にキスをしました。誰もいない放課後の教室。夕暮れ時のロマンチックな風景が脳裏に残ります。これが私のファーストキスの瞬間でした。
私は慈しむように長く、ノア君と唇を交わします。そしてどれほど長い時間が過ぎたでしょう。惜しむように私は唇を離すのです。
「これが答えです……伝わりましたか?」
「ああ。十分に伝わったよ。ローラ」
こうして私のノア君はひとまず恋人同士になりました。
地獄のように苦しい心境がノア君のおかげで一転、天国にいるかのように幸せな気持ちになれたのです。
泣いていたのが嘘のよう。最終的に私は笑顔で教室を出るのです。
「じゃあね、またノア君。学校で」
「ああ……また明日会おうね。ローラ」
こうして私はノア君と別れます。
しかし、私はその時まだ、ノア君に秘められた秘密に気づいていなかったのです。
――その秘密は後々明かされる事になるのでした。
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