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英雄の帰還

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 地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』の完全攻略を果たした来斗は久しぶりに外界に出てきた。

 ……とはいえ、地下迷宮(ダンジョン)でかなりの長期間封印されていたティアとは年季が違うが。

「すぅーはぁー、ああー、久々の外の空気はおいしいですー」

 ティアは深呼吸して、外の空気を吸っていた。朝日が差し込んでくる。晴れ晴れとした気分に来斗もなってきた。

「ライトさんは……これからどうするんですか?」

「どうするって言われてもな……まだ考えてなかったな」

 地下迷宮(ダンジョン)を攻略する事に夢中で、来斗はその後の事を考えていなかった。

「……とりあえず、ゆっくりと飯でも食うか。それから考えればいい」

「はい。そうですね。そうしましょうか」

「……そんな事より、ティア、お前はこのままでいいのか?」

「何がですか?」

「地下迷宮(ダンジョン)はクリアしたんだ……。そしてこうして外の世界にまで来たんだ。何もこれ以上、俺に付き合う必要はない。ティアは自由に生きていいんだ」

「何を言っているんですか……ライトさん。私に自由を与えてくれたのはあなたです。私はあなたと一緒にいたい……私に自由を与えてくれたあなたに、恩を返したいんです」

 ティアはそう語り掛けてくる。

「そうか……協力してくれるならそれに越した事はない」

 ティアの力は強力だ。だから協力してくれるのなら戦力になりうる。来斗は地下迷宮(ダンジョン)での経験からティアにある程度の信用をおけるようになった。少なくとも今では他の召喚者達よりも余程信用がおける存在になった。パートナー、なんて言えるような関係になるのはまだまさ先の事になるとは思うが。

「それじゃあ、飯の支度でもするか……腹減ったし」

「ええ、そうですね」

 二人は食事の支度をする事にした。

 ◇

「おいしいですー」
「ああ……おいしいな」

 二人は食事をしていた。そこら辺で狩猟した野生生物を火炎魔法(フレイム)で炙っただけの、野性的な料理ではあるが。それでもこれまでの事でクタクタで、その上にハラペコだったのだ。
 
 そんな時は何でもおいしいものであった。

「あの時の事、忘れてくださいね……」
 
 食事中にティアがそう、語り掛けてきた。ティアの頬が赤く染まっている。

「あの時の事? ……ああっ」

 忘れていたのに、その言葉により来斗は逆に思い出していしまった。

 ウロボロスとの闘いの際に、来斗は一度死にかけた――もとい死んだのだが。その際、ティアが霊薬エリクサーを口移しで飲ませてくれたおかげで、何とか蘇生したのだった。

 性的な味方をすれば二人はあの時、キスをしたと言っても過言ではない。

「せっかく忘れてたのに、ティアの言葉で思い出してしまった」

「ええっ!? 私……墓穴掘りましたか。忘れてくれたのなら、そのまま忘れてくれてればよかったです……でもそんなあっさりと受け流されてしまうと、それはそれでショックなような……」
 
 ティアは言葉を濁す。乙女心は何かと複雑なようであった。

「よし……そろそろ行くか」
「そうですね……行きましょうか」

 それは二人が食事を済ませた時の事であった。二人は再び歩き出そうとしていた……と、その時の事であった。

「「「はぁ……はぁ……はぁ」」」

「ん? なんだ……あれは」

 数名の兵士達が来斗達に向かって、駆け寄ってきた。相当に急いでいる様子で、息を切らせていた。

「もしや、あなた達ですか……危険な地下迷宮(ダンジョン)である『ウロボロス』を治めてくれたのは……」

 兵士のうち、一人がそう話かけてくる。

「まあ……そうなりますが」

 来斗は答える。

「地下迷宮(ダンジョン)からの邪悪な気が無くなった事を不思議に思い、我々が国王陛下から派遣されてきたのです……」

「はぁ……そうですか」

 彼等は王国アルヴァートゥアから派遣されてきた兵士団のようだ。

「一体、どのようにしてあの危険な地下迷宮(ダンジョン)を攻略されたのでしょうか。それも見たところ僅か二名で……」

 兵士達は王国を救った英雄の思わぬ姿に目を丸くしていた。どんな英雄が国を救ったのかと思っていたが、それが僅か二名だとは予想だにしていなかったようだ。

「どうって言われても……色々あってとしか」

 来斗もまた、一概には言えなかった。紆余曲折あって、あの地下迷宮(ダンジョン)を攻略したとしか言いようのない事であった。

「ともかく、是非、我等の王国までお越しください。あなた達は私達の英雄です。我が国で持たなさばなりません……」

「えっと……それはあの」

「いかがされたのですか?」

 王国アルヴァートゥアには来斗を除く、召喚者の面々がいる。彼等は来斗の事を死んだと思っているだろう。その死んだと思っていた来斗が英雄面をして帰ってきたらどう思うだろうか。恐らくはそれを嫉妬心や猜疑心から快く思わない者も存在するだろう。
 そして軋轢が生まれるかもしれない。

「どうしたんですか? ライトさん」

 ティアが心配そうに聞いてくる。

 ――だがまあいい。とも来斗は考えを改めた。このまま雲隠れするわけにもいかないだろう。召喚者と連中。クラスメイト達と今後顔を合わせないというわけにもいかない。

 やがて訪れる最悪の災厄に立ち向かう為には、他の連中の力も必要だ。

 そろそろ頃合いかもしれない……本題を切り出す必要性もあった。だから、来斗は兵士団の望みに従う事にした。

「いや、なんでもない……いいでしょう。同行します。もう既に、他の召喚者達も王国には帰っている事ですよね?」

「ええ……そうだと伺っています」

 こうして来斗達は王国アルヴァートゥアに帰還する事となった。

 一部の人間達からすれば、望まれない英雄として。彼等が僅かばかりの予想すらしていなかった再会を果たす事となる。


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