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プロローグ
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ある日の事だった。俺達のクラスは突如、異世界に転生されたのだ。
そして俺達は女神から天職を授かる。天職、とはその世界で授けられる固有の力の事であった。チート天職を得た俺達のクラスは歓喜し、その力に酔い痴れた。
その慢心が後の大惨事を招くとも知らずに。
「うっ……ううっ……」
賢者である俺は横たわっている無数のクラスメイト達を見た。やがて俺も倒れ、段々と意識がなくなっていく。
見えるのは巨大な黒い竜の姿だ。
俺達は勘違いしていた。ただ女神から授かった力で無双できる程、この異世界は甘くなかったという事を。
「三雲君……」
俺の隣で……一人の少女が声をもらす。彼女もまた、息絶え絶えであった。
「北城さん……」
だめだった。もう意識が朦朧としている。俺もまた、長い事持たないかもしれない。
「もう、喋れないかもしれないからいうけど私、三雲君の事が――」
彼女は笑顔だった。笑顔のまま、息絶えたのだ。結局、彼女は言葉を紡ぐ事はできなかった。一体、彼女は何を話そうとしていたのか。話したかったのか。今ではもう、わからない事であった。
せめてもう一度やり直せたら、こんな結末にはならなかったのに。
薄れゆく意識の中で、俺はそんな事を考えていた。
◇
「三雲君って……ちょっと雰囲気違うよね」
「……ん?」
それは何気ない、いつも通りの出来事だった。普通の男子高校生である三雲来斗(みくもらいと)の何気ない日常。教室での出来事だった。
特別な事だと強いていうのならばクラス一、いや、学園一の美少女と言ってもいい、北城可憐(ほうじょうかれん)に話しかけて貰った、という事くらいか。整った顔立ちに長い黒髪はそんじょそこらのアイドルなんかよりもずっと魅力的であった。その上に学業成績に秀で、その優れた運動能力から、運動部からの勧誘がひっきりなしである。
その上、北城家は地元の名家でもあり、父親は大きな会社を経営している、立派な令嬢でもある。
そんな非の打ちどころのない、理想的な美少女。それが北城可憐であった。本人は否定するだろうが、少なくとも周りはそう思っている事であろう。
何気ない日常ではあったが、そんな可憐に話しかけられたという事は来斗にとっては幸運な事なのかもしれない。
「……なんでそう思うの?」
来斗は聞いた。
「だって……なんだか、落ち着いているじゃない。子供っぽくないっていうか……なんだか、年上のお兄さんみたいで」
「……別に、コミュ力のない根暗ってだけだろ」
そんな可憐に話しかけられているにも関わらず、来斗はそっけなく返す。普通の男子生徒であったのならば、可憐から話しかけられでもしたら、緊張のあまり上手く言葉を紡ぐ事すらできない事であろう。
「そんな事ないって……そういう事じゃなくて。なんか雰囲気違うんだよね……なんか」
そもそもの話、理想の女子を体現したかのような可憐に話かけられているのも関わらず、平然としていられいるところが、なんだか雰囲気が違うと思われた一要因でもあるのだが……。
「……そうか、雰囲気が違うか」
来斗はそっけなく言う。それはまるで独り言のように。可憐の指摘ではあるが、それなりに的を射た指摘ではあった。
なぜなら、普通の男子高校生にしか、ぱっと見えない来斗にはある秘密があったのだ。
それは来斗には異世界に行った記憶がある事だった。異世界。ここではない、別の次元の世界だ。その世界に来斗は召喚された。正確にいえば、クラス丸ごと異世界に召喚されたのだ。
その異世界でクラスメイト達と闘い、最初は順調であった。だが、順調だったのは最初だけだ。途中で歯車が狂い、そして最後には破滅的な終局を迎えた。
なぜかその時の記憶が来斗には鮮明に残っていたのだ。だが、他の生徒達にはなぜか、その時の記憶が残っていないようだった。これはなぜかはわからない……。だが、心当たりが一つあった。
(もしかしたら……女神の仕業かもしれない)
来斗はそう思った。あの時……死にゆく直前に、自身はやり直しを祈った。そしてその祈りは通じたのかもしれない。女神は来斗の願いを叶えた。そして、時が遡り、来斗だけはその時の記憶を残された。
そんなところだろう。来斗が落ち着いて見えたのも、その時の記憶があるからだ。だからどこか斜に構えてしまう。これから起きる出来事を知っているのだから、知らない人間に比べたら落ち着いてしまうのは当然と言えよう。
来斗にとっては未来の出来事は未知の出来事なのではなく、既知の出来事なのだから。
そしてだから当然のように、これから何が起こるかを来斗は知っていた。
「なっ!? なんだ!!」
「な、なによ! これはっ!!」
突如、教室がパニックに陥った。光の魔法陣が教室を包み込んだ。
「何これ!? 三雲君!」
当然のように可憐も慌てていた。
突如として現れた光の魔法陣に飲み込まれ、クラスメイト40人が姿を消す事になる。
突然の事に茫然としていたその他のクラスメイト達ではあったが。来斗だけは違っていたのだ。
二週目の異世界召喚。今度こそ、上手くやってやる。来斗はそう誓った。そして今度こそ、君を救ってみせる。来斗は隣にいる彼女に対して、そう誓ったのだ。
こうして、来斗にとって二度目の異世界生活が始まるのであった。
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作者からのお願い。この作品はカクヨムコン7に参加しています。選考通過及びモチベアップの為に皆様のご協力が必要なんです。
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そして俺達は女神から天職を授かる。天職、とはその世界で授けられる固有の力の事であった。チート天職を得た俺達のクラスは歓喜し、その力に酔い痴れた。
その慢心が後の大惨事を招くとも知らずに。
「うっ……ううっ……」
賢者である俺は横たわっている無数のクラスメイト達を見た。やがて俺も倒れ、段々と意識がなくなっていく。
見えるのは巨大な黒い竜の姿だ。
俺達は勘違いしていた。ただ女神から授かった力で無双できる程、この異世界は甘くなかったという事を。
「三雲君……」
俺の隣で……一人の少女が声をもらす。彼女もまた、息絶え絶えであった。
「北城さん……」
だめだった。もう意識が朦朧としている。俺もまた、長い事持たないかもしれない。
「もう、喋れないかもしれないからいうけど私、三雲君の事が――」
彼女は笑顔だった。笑顔のまま、息絶えたのだ。結局、彼女は言葉を紡ぐ事はできなかった。一体、彼女は何を話そうとしていたのか。話したかったのか。今ではもう、わからない事であった。
せめてもう一度やり直せたら、こんな結末にはならなかったのに。
薄れゆく意識の中で、俺はそんな事を考えていた。
◇
「三雲君って……ちょっと雰囲気違うよね」
「……ん?」
それは何気ない、いつも通りの出来事だった。普通の男子高校生である三雲来斗(みくもらいと)の何気ない日常。教室での出来事だった。
特別な事だと強いていうのならばクラス一、いや、学園一の美少女と言ってもいい、北城可憐(ほうじょうかれん)に話しかけて貰った、という事くらいか。整った顔立ちに長い黒髪はそんじょそこらのアイドルなんかよりもずっと魅力的であった。その上に学業成績に秀で、その優れた運動能力から、運動部からの勧誘がひっきりなしである。
その上、北城家は地元の名家でもあり、父親は大きな会社を経営している、立派な令嬢でもある。
そんな非の打ちどころのない、理想的な美少女。それが北城可憐であった。本人は否定するだろうが、少なくとも周りはそう思っている事であろう。
何気ない日常ではあったが、そんな可憐に話しかけられたという事は来斗にとっては幸運な事なのかもしれない。
「……なんでそう思うの?」
来斗は聞いた。
「だって……なんだか、落ち着いているじゃない。子供っぽくないっていうか……なんだか、年上のお兄さんみたいで」
「……別に、コミュ力のない根暗ってだけだろ」
そんな可憐に話しかけられているにも関わらず、来斗はそっけなく返す。普通の男子生徒であったのならば、可憐から話しかけられでもしたら、緊張のあまり上手く言葉を紡ぐ事すらできない事であろう。
「そんな事ないって……そういう事じゃなくて。なんか雰囲気違うんだよね……なんか」
そもそもの話、理想の女子を体現したかのような可憐に話かけられているのも関わらず、平然としていられいるところが、なんだか雰囲気が違うと思われた一要因でもあるのだが……。
「……そうか、雰囲気が違うか」
来斗はそっけなく言う。それはまるで独り言のように。可憐の指摘ではあるが、それなりに的を射た指摘ではあった。
なぜなら、普通の男子高校生にしか、ぱっと見えない来斗にはある秘密があったのだ。
それは来斗には異世界に行った記憶がある事だった。異世界。ここではない、別の次元の世界だ。その世界に来斗は召喚された。正確にいえば、クラス丸ごと異世界に召喚されたのだ。
その異世界でクラスメイト達と闘い、最初は順調であった。だが、順調だったのは最初だけだ。途中で歯車が狂い、そして最後には破滅的な終局を迎えた。
なぜかその時の記憶が来斗には鮮明に残っていたのだ。だが、他の生徒達にはなぜか、その時の記憶が残っていないようだった。これはなぜかはわからない……。だが、心当たりが一つあった。
(もしかしたら……女神の仕業かもしれない)
来斗はそう思った。あの時……死にゆく直前に、自身はやり直しを祈った。そしてその祈りは通じたのかもしれない。女神は来斗の願いを叶えた。そして、時が遡り、来斗だけはその時の記憶を残された。
そんなところだろう。来斗が落ち着いて見えたのも、その時の記憶があるからだ。だからどこか斜に構えてしまう。これから起きる出来事を知っているのだから、知らない人間に比べたら落ち着いてしまうのは当然と言えよう。
来斗にとっては未来の出来事は未知の出来事なのではなく、既知の出来事なのだから。
そしてだから当然のように、これから何が起こるかを来斗は知っていた。
「なっ!? なんだ!!」
「な、なによ! これはっ!!」
突如、教室がパニックに陥った。光の魔法陣が教室を包み込んだ。
「何これ!? 三雲君!」
当然のように可憐も慌てていた。
突如として現れた光の魔法陣に飲み込まれ、クラスメイト40人が姿を消す事になる。
突然の事に茫然としていたその他のクラスメイト達ではあったが。来斗だけは違っていたのだ。
二週目の異世界召喚。今度こそ、上手くやってやる。来斗はそう誓った。そして今度こそ、君を救ってみせる。来斗は隣にいる彼女に対して、そう誓ったのだ。
こうして、来斗にとって二度目の異世界生活が始まるのであった。
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