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6 ガンバってマルセル様をクドクよ!
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疲れ切った顔のマルセル様が、お店のお客さんがビールをあおるようにお茶を飲みほす。そこでわたしもジュースのことを思い出し、残りを飲んだ。わたしとマルセル様の飲み物がなくなった
ことを確認した使用人さんがチリンと鈴を鳴らすと、メイドさんが入ってきて、手早くだけど丁寧に飲み物を準備してくれる。
わたしもお店で給仕をするけれど、貴族相手ということもあってかここのメイドさんたちは、すごくすごい。わたしじゃ上手く言葉にできないけれど、とにかく速くて丁寧なのだ。
「そういえば、この者の紹介がまだだったな」
飲み物を取り換えたメイドさんたちが部屋から出た後、マルセル様が眼で使用人さんを指しながら言う。
「ハインツ、我が家の執事だ。君が私の幼女となれば、関わることも多くなるだろう」
ハインツさんは紹介にあわせて、キレイにおじぎする。
「ひつじ?」
わたしの頭には、お肉が美味しくて毛糸になる毛をもつらしい動物が浮かんでいるけど、あの動物の話をしていないことくらいは分かっている。
「使用人を統括し、屋敷を取り仕切る者だ」
つまり一番エライ使用人さん、ということだろうか。
「キルンベルガー家の方々の生活を整えるお役目を頂戴しております、ハインツでございます。
お嬢様も、何かご希望やご不便なことがございましたら、何なりとお申し付けくださいませ」
「どうも」
ハインツさんは、なんというか控えめで言ってしまえば存在感がなかった。でもそれは近くにいても落ち着けるということで、使用人として多分すごい人なのだろうと思う、さすが一番エライ使用人さんだ。
「君が今日から生活できるよう、準備は整える」
精霊の愛し子であることをバラした以上、わたしが今までの生活に戻るのは危険がついてくる。今までだってもちろん無かったわけじゃないけど、狙われる理由が増えたわけだからね、それも特大のやつが。
なので、今日から引き取られる感じらしい。
「部屋は……」
「二階のお部屋をご準備しておりますが」
「それで良い」
いつの間に。仕事が速いなぁ。
「さて、君が私の養女になることを勤め先の漆黒の荒鷲亭の者に伝えなくてはな。
他に話を通しておくべき者はいるか?」
そう訊かれて、わたしは首を横に振る。
今わたしは漆黒の荒鷲亭に住み込みで働かせてもらっているのだ、雇い主も大家さんも女将さんとダンナさんだ。
母さんが生きてた頃は別のお家に住んでたけど、母さんが死んでわたしが漆黒の荒鷲亭で働くことになった時、酒場からの夜道を女の子だけで帰すわけにはいかないと女将さんが住み込みさせてくれたのだ。
お店の常連さんや他の知り合いには、女将さんたちから事情が伝わるだろう。
今、わたしの保護者と呼べる人は、漆黒の荒鷲亭の二人だ。
マルセル様は一つ頷いて、
「なら、使いをやってこれから呼ぼう」
そんなこんなで、突然の領主様からの呼び出しに大急ぎでやって来た女将さんとダンナさんが体をカチンコチンにして座っている。ちなみにわたしはマルセル様のおとなりだ、うふふん嬉しい。
「二人がロッテの今の保護者だと聞いたが、間違いないか?」
質問というより、確認だ。
二人は顔を見合わせると、ダンナさんがコクリとツバを飲みこんでから返事をする。
「はい、この子が母親が亡くなってからは住み込み従業員として、うちで面倒を見ていました」
ダンナさんの方が話すなんて珍しいなぁと思いながら、二人を見る。いつもは無口なダンナさんの代わりに女将さんが話すのだ。
マルセル様は一つうなずく。
「使いの者が言っていたと思うが、ロッテは我が養女として今日からキルンベルガー家に迎えることになった」
「もちろん使いの方から伺いましたが、ど、どうしてそんなことに?」
女将さんが震える声を抑えて訊く。
そう、わたしは母さんとの約束を守って、今日まで精霊の愛し子であることを誰にも言わなかった、それは女将さんやダンナさんにしてもそうだった。
マルセル様がわたしを見て、わたしはそれにうなずく。どうせわたしが養女になったことが知られれば、分かることだ。
「この子は精霊の愛し子だ」
その言葉に、二人は驚く。
「ええっ!?」
「本当かい、ロッテ?」
わたしは二人にうなずく。
「今までだまってて、ごめんなさい」
「そんなことは気にしなくても良いんだよ」
精霊の愛し子であることを基本的には隠すというのは、平民の中では常識なのだ。
女将さんは「なるほど」とつぶやいて、わたしを見る。
「それで昨日、『マルセル様の奥様になる』って言ってたのかい?」
わたしは大きくうなずく。
「そう、だから今日『奥様にしてください』って言いに来たの!」
マルセル様がそっとわたしとは反対の方へ目をそらし、女将さんとダンナさんは同情した目を向ける。なんでよ。
マルセル様はせきばらいをして、また正面を向くと真剣な顔になる。
「不安もあると思うが、我が養女として迎えるからにはロッテに不自由をさせる気はない、当然弁えてもらうところはあるが。
だから、どうか私を信用してロッテを預けてはもらえないだろうか?」
そう言って頭を下げたマルセル様に、二人はあわてる。
「そんな、キルンベルガー伯爵ともあろう方が、俺たちみてぇな平民に頭を下げちゃいけねぇよっ!」
「そうですよ!
それに」
そう言ってわたしの方を見ながら、女将さんが続ける。
「あたしらにとって、この子は確かに我が子も同然だけどね。それと同時に、本当のあたしらの子どもじゃないっていうのも、忘れない様にしてたからね」
女将さんがわたしの方に体の向きを変えて、
「ロッテ、あたしらにあんたを縛る権利はないよ。
本音を言えば、離れるのは淋しいけど、あんたが幸せになってくれるのが一番さ」
「女将さん……」
思わず目が熱くなってくる。
女将さんとダンナさんは、目を合わせてうなずき合うと、マルセル様に頭をさげた。
「マルセル様、この子のことよろしくお願いします」
「うむ」
マルセル様もうなずく。わたしも、女将さんたちを安心させられるように気合いを入れながら、言う。
「女将さん、ダンナさん、わたしも幸せになれるようにガンバる。ガンバってマルセル様をクドクよ!」
みんなの目が点になる。
「ロッテ、あんたマルセル様の養女になるんじゃないのかい?」
女将さんが訊いてきたので、わたしは元気に答える。
「うん、今は養女だけど、いつか奥様にしてもらえるようにクドクのっ!」
女将さんとダンナさんがマルセル様の方を向き、マルセル様の目が泳ぐ。
「なんて言うか……、この子は昔からこうと決めたら曲げない頑固なところと、強い行動力があるので、……その……頑張ってください」
女将さんの言葉に、マルセル様が頭を抱えた。なんでよ。
ことを確認した使用人さんがチリンと鈴を鳴らすと、メイドさんが入ってきて、手早くだけど丁寧に飲み物を準備してくれる。
わたしもお店で給仕をするけれど、貴族相手ということもあってかここのメイドさんたちは、すごくすごい。わたしじゃ上手く言葉にできないけれど、とにかく速くて丁寧なのだ。
「そういえば、この者の紹介がまだだったな」
飲み物を取り換えたメイドさんたちが部屋から出た後、マルセル様が眼で使用人さんを指しながら言う。
「ハインツ、我が家の執事だ。君が私の幼女となれば、関わることも多くなるだろう」
ハインツさんは紹介にあわせて、キレイにおじぎする。
「ひつじ?」
わたしの頭には、お肉が美味しくて毛糸になる毛をもつらしい動物が浮かんでいるけど、あの動物の話をしていないことくらいは分かっている。
「使用人を統括し、屋敷を取り仕切る者だ」
つまり一番エライ使用人さん、ということだろうか。
「キルンベルガー家の方々の生活を整えるお役目を頂戴しております、ハインツでございます。
お嬢様も、何かご希望やご不便なことがございましたら、何なりとお申し付けくださいませ」
「どうも」
ハインツさんは、なんというか控えめで言ってしまえば存在感がなかった。でもそれは近くにいても落ち着けるということで、使用人として多分すごい人なのだろうと思う、さすが一番エライ使用人さんだ。
「君が今日から生活できるよう、準備は整える」
精霊の愛し子であることをバラした以上、わたしが今までの生活に戻るのは危険がついてくる。今までだってもちろん無かったわけじゃないけど、狙われる理由が増えたわけだからね、それも特大のやつが。
なので、今日から引き取られる感じらしい。
「部屋は……」
「二階のお部屋をご準備しておりますが」
「それで良い」
いつの間に。仕事が速いなぁ。
「さて、君が私の養女になることを勤め先の漆黒の荒鷲亭の者に伝えなくてはな。
他に話を通しておくべき者はいるか?」
そう訊かれて、わたしは首を横に振る。
今わたしは漆黒の荒鷲亭に住み込みで働かせてもらっているのだ、雇い主も大家さんも女将さんとダンナさんだ。
母さんが生きてた頃は別のお家に住んでたけど、母さんが死んでわたしが漆黒の荒鷲亭で働くことになった時、酒場からの夜道を女の子だけで帰すわけにはいかないと女将さんが住み込みさせてくれたのだ。
お店の常連さんや他の知り合いには、女将さんたちから事情が伝わるだろう。
今、わたしの保護者と呼べる人は、漆黒の荒鷲亭の二人だ。
マルセル様は一つ頷いて、
「なら、使いをやってこれから呼ぼう」
そんなこんなで、突然の領主様からの呼び出しに大急ぎでやって来た女将さんとダンナさんが体をカチンコチンにして座っている。ちなみにわたしはマルセル様のおとなりだ、うふふん嬉しい。
「二人がロッテの今の保護者だと聞いたが、間違いないか?」
質問というより、確認だ。
二人は顔を見合わせると、ダンナさんがコクリとツバを飲みこんでから返事をする。
「はい、この子が母親が亡くなってからは住み込み従業員として、うちで面倒を見ていました」
ダンナさんの方が話すなんて珍しいなぁと思いながら、二人を見る。いつもは無口なダンナさんの代わりに女将さんが話すのだ。
マルセル様は一つうなずく。
「使いの者が言っていたと思うが、ロッテは我が養女として今日からキルンベルガー家に迎えることになった」
「もちろん使いの方から伺いましたが、ど、どうしてそんなことに?」
女将さんが震える声を抑えて訊く。
そう、わたしは母さんとの約束を守って、今日まで精霊の愛し子であることを誰にも言わなかった、それは女将さんやダンナさんにしてもそうだった。
マルセル様がわたしを見て、わたしはそれにうなずく。どうせわたしが養女になったことが知られれば、分かることだ。
「この子は精霊の愛し子だ」
その言葉に、二人は驚く。
「ええっ!?」
「本当かい、ロッテ?」
わたしは二人にうなずく。
「今までだまってて、ごめんなさい」
「そんなことは気にしなくても良いんだよ」
精霊の愛し子であることを基本的には隠すというのは、平民の中では常識なのだ。
女将さんは「なるほど」とつぶやいて、わたしを見る。
「それで昨日、『マルセル様の奥様になる』って言ってたのかい?」
わたしは大きくうなずく。
「そう、だから今日『奥様にしてください』って言いに来たの!」
マルセル様がそっとわたしとは反対の方へ目をそらし、女将さんとダンナさんは同情した目を向ける。なんでよ。
マルセル様はせきばらいをして、また正面を向くと真剣な顔になる。
「不安もあると思うが、我が養女として迎えるからにはロッテに不自由をさせる気はない、当然弁えてもらうところはあるが。
だから、どうか私を信用してロッテを預けてはもらえないだろうか?」
そう言って頭を下げたマルセル様に、二人はあわてる。
「そんな、キルンベルガー伯爵ともあろう方が、俺たちみてぇな平民に頭を下げちゃいけねぇよっ!」
「そうですよ!
それに」
そう言ってわたしの方を見ながら、女将さんが続ける。
「あたしらにとって、この子は確かに我が子も同然だけどね。それと同時に、本当のあたしらの子どもじゃないっていうのも、忘れない様にしてたからね」
女将さんがわたしの方に体の向きを変えて、
「ロッテ、あたしらにあんたを縛る権利はないよ。
本音を言えば、離れるのは淋しいけど、あんたが幸せになってくれるのが一番さ」
「女将さん……」
思わず目が熱くなってくる。
女将さんとダンナさんは、目を合わせてうなずき合うと、マルセル様に頭をさげた。
「マルセル様、この子のことよろしくお願いします」
「うむ」
マルセル様もうなずく。わたしも、女将さんたちを安心させられるように気合いを入れながら、言う。
「女将さん、ダンナさん、わたしも幸せになれるようにガンバる。ガンバってマルセル様をクドクよ!」
みんなの目が点になる。
「ロッテ、あんたマルセル様の養女になるんじゃないのかい?」
女将さんが訊いてきたので、わたしは元気に答える。
「うん、今は養女だけど、いつか奥様にしてもらえるようにクドクのっ!」
女将さんとダンナさんがマルセル様の方を向き、マルセル様の目が泳ぐ。
「なんて言うか……、この子は昔からこうと決めたら曲げない頑固なところと、強い行動力があるので、……その……頑張ってください」
女将さんの言葉に、マルセル様が頭を抱えた。なんでよ。
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