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第一章 その魔女はコーンスープが苦手

魔女 ラトナ・フレイア

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 ぼんやりと温かい微睡みの中で、私は目を開ける。
 柔らかな光の中に、一人の美しい女性が佇んでいた。

 腰まで伸びた水色の髪を手でもてあそびながら、彼女は私に声をかける。

「ラトナ・フレイア。……貴女を魔女の任から解放します」

 その言葉を聞いて、私はかつての兄の言葉を思い出していた。
「お前が諦めないで前を向き続ければ、いつかは絶対報われる。神様はきっと、見ていてくれている」

「貴女は……神様なんですか?」
「ええ。女神エミリス。それが私の名です」

 聞きたいことは山ほどあった。
 なぜ私は神様の元へいるのかだとか。魔女から解放とは何なんだとか。ふわふわとした思考の中で、ポコポコとわからないことばかり浮かんでくる。
 そんな私の疑問をくみ取ったのか、エミリスは答えをくれた。

「真実は、あの青年が知っています」

 そう言って私の後方を見る彼女。
 つられて振り向けば、そこには……。

 すやすやと穏やかな顔で眠る私と、そんな私を抱きかかえたまま困惑している赤茶色の髪の、優し気な青年。
 それは……私の大好きな恋人。

 顔が赤くなってしまうのを感じながら、私は壊れたゴーレムのような動きでエミリスの方を見た。

「私から話す事はただ一つ。これから生きる道を選べと言う事です」
「道を、選ぶ……?」

 やや姿が薄れてきたように見える彼女に、私は聞き返す。

「ええ。貴女が今後、何を成して生きていくのか……」

 そんなこと、決まっていた。

 私は、私を救ってくれた彼に恩返しをするのだ。
 冒険者として活躍したいと謳う彼を、最大限にサポートできるように……!

 それを伝えると、彼女は静かに頷いた。

「わかりました……。貴女の未来に、幸福が溢れますように」

 それだけを言い残し、彼女は姿を消した。
 なぜだろう。その表情には謝罪の念が窺えた。

 白い世界も、溶けるように崩れていく……。

 ★ 

「ああ、起きてくれてよかった」
 もう一度、目を開けると……。ハルは顔を赤らめながら明後日の方向を見て呟いた。
 こういう可愛いところも好きなのだ。と自分の中の好意を再認識して、私はそっと幸せに浸る。

「ごめんね。眠っちゃってたみたいで……。あのさ、ハル。女神エミリスって知ってる?」

 夢の中で起きた話を説明すると、ハルは私について。いや、魔女についての話を聞かせてくれた。

「でも、俺がお前に告白したのは、本当に好きだって思ってるからだよ。もちろん冒険には一緒に行きたいけど、それが全てじゃなくて、その……」
 なんてちょっと怯えたように伝えてくれるハル。
 必死に言葉を選ぶ姿からは、私に配慮してくれているのだと伝わってくる。
 それがたまらなく嬉しくて、私はもう一度彼に抱き着いた。

 職業が運び屋でも。冒険者としての力が無くても。スキルに恵まれなくても。
 それでも君は、何度だって剣を握るんだ。
 英雄を夢見る君はいつも全力で、いつか疲れてしまうんじゃないかって程に頑張ってるけど。
 
 君はとっくに……私にとっての英雄なんだよ。
 

 そんな言葉は、まだ私だけの物にしておこう。
 もう少しだけ、ゆっくり味わっていたいから。
 
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