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第一章 その魔女はコーンスープが苦手

束の間の癒し。

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「えぇ、治りきらないのかよ……」

 安いものはやはり性能が悪いのか。はたまたいつもの魔女の回復魔法が異常なのか。とにかく手にかけたポーションが傷を完璧に癒すことはなかった。
 うっすらと一本の切傷跡を残し、それはじくじくとした痛みを伴う。

 動けないほどではないが、目的のものが手に入った以上無理をする必要はないだろう。
 拾い上げた魔石を丁寧に袋へと入れて、出口へと向かった。



 慎重に帰り道を進んだから、迷宮を出てこれたのは昼過ぎ頃。
 迷宮入り口で冒険者用に出されていた屋台によって昼飯を済ませると、馬車に乗って街へと戻る。

 一時間ちょっとの移動を終えて帰宅すると、ようやく一つの山場を越えた実感がわいてきた。

 初めての迷宮、ちょっと焦った部分もあったが無事に戻ってくれてよかった。活躍してくれた相棒を大切に棚へと並べつつ、一日を振り返る。

 最後に取り出して机へと置いた二つの魔石。そのうちラトナが望んだ青色の魔石をつまんで魔力灯の明かりに透かすと、魔力同士が共鳴したのかほんのりと内部に明かりが灯った。

「これならきっと、喜んでくれるだろう……」

 ひとつ頷いて息を吐く。

「あとは仕上がりを待つだけだな……」

 ★

 翌朝はいつもよりも大層目覚めがよかった。モンスターを倒すと身体能力が向上したり、体内魔力が増えたりすることがあると聞くが、これはその表れだろうか。
 なんにせよ自分にプラスになるなら良い。今日なんかは早く仕事を終わらせなければならないから、なおさら都合がよかった。

 職場に行って荷物を積み込むとき、まだ痛む右手をかばっているのをアルカに見られてしまった。

「怪我したの?喧嘩?」
「いや、ちょっと迷宮に」
「ああ、巡回期デビューね。仕事に支障がないようにしてよ?」
「はい、気を付けます」

 休みを取ったのはそのためか。と勝手に納得しているアルカ。反応を見るにそういう奴は少なくないのだろうな……。

 二輪車をいつもより早めに走らせて道を急ぐ。
 しかし、荷物を壊してしまうといけないので荒い運転は許されない。

 毎日毎日白い木箱を運ばされるものだから、ある時ラトナに「この荷物はなんなのか」と聞いたことがあった。
 すると調合に使う試験管などの容器類だとの返答が返ってきて、こんな大量に必要なのかと不思議に思ったのだが「魔力の調整ができなくてすぐに壊してしまう」と言われれば返す言葉もなかった。

 まあ、仕事をくれるのは有難いが。

「告白がうまくいったら、そんな頻繁に運ぶ事もなくなるのか……?」 

 その時は、普通に会いに来てもいいのだろうか。


 魔女の城につくと、ちょうどラトナが庭の木々に水をやっているところだった。
 魔法でやったら大洪水が起きてしまうから、わざわざジョウロを使って広い庭に水を撒いているのだとか。俺だったら数日で枯らしてしまいそうだと思ってしまう。

「おはよう。荷物置いてもいいか?」

 最近じゃ荷物を置くのは家の中になっていたから、声をかけて玄関へと向かう。

「あ、おはよう!鍵は空いてるから、いつものところにお願い」
「わかった」

 甘い香りと薬っぽい香りの混ざった部屋の一角に荷物を置いて外へ出ると、ラトナがジョウロ片手に寄ってくる。

「お疲れ様。用事の方は順調?」

 そう聞いてくる彼女に、俺は親指を立てて答えた。

「順調。完璧なくらいだ」

 しかしラトナはそんな俺の手を見て声を上げる。

「そっかそっか。……って、怪我してるじゃん!」
「え?あ、ああ」

 そういえば傷の残ってる手はこっちだったか……。

「ちょっと貸して」

 そう言って俺の手を取った彼女は傷跡を指でなぞる。
 効果はすぐさま表れて、傷も痛みもまるで無かったかのように消し去った。

「無理しちゃだめだよ?」
「ありがとう。でも後は危険もないはずだから」
「なら、良いんだけどさ……」

 大事な告白前に心配をさせてしまったのは失敗だったが、その分を取り返せるようにと自分に発破をかける。

「明日、晴れると良いね」
「そうだな……。雨じゃ白竜をのんびり見れない」

 心配そうに空を見上げる彼女。
 だがまあ、この時期は雨が降ることが少ないから安心していいだろう。

「明日は思いっきり遊ぶからな」
「うん!楽しみに待ってるね!」

 最後に手を振って魔女の元を離れると、いよいよリングの作成だ。
 家から魔石を持ち出すと、駆け足でシエルの元へと向かった。

 
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