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第一章 その魔女はコーンスープが苦手

とある宗教上の禁書制約。それと名前

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 急な来客に読みかけの本を奪われ、それが禁書指定されていたものだった衝撃。その上百年以上前の本の作者を名乗る人物が目の前に現れるサプライズ。

「なんか、疲れましたよ」
「すみません。禁書流出なんてバレたらとんでもない事になりますので……」
「……堅苦しいわね、もっと柔らかくできないの?」

 そんなサプライズを持ってきた張本人達と、俺はティーカップ片手に円卓を囲んでいた。

「……そういうの、当人同士が言うんじゃないですか?普通。ってか、なんであんたが椅子座って俺は立ってるんですか」

 やたらと偉そうに俺の椅子を占領する元フードの女は、なんの悪びれも感じさせずに言った。

「いや、私が一番年上だし、偉いじゃん」 

 見た目は大して変わらないじゃないか。
 自称魔女日記の作者である彼女。それが本当なら百歳は超えているはずだが、せいぜい俺の二つ上くらいにしか見えない

 そんな彼女は頼んでもないのにその場を仕切り始める。

「んで、ハルだっけ?あんたは魔女日記をなんで読もうと思ったの?」

 足を組み替えながらそんなことを尋ねてくる彼女。

「俺、冒険者になりたいんです。それで仲間として魔女を」
「あーあーあー。待って待って」

 しかし彼女はそれを遮る。

「硬いっての。あと長そう。簡潔に頼むわね」

 そう言われていら立つがぐっと抑えて、俺は続きを語った。

「簡単に言うと、魔女を連れて冒険しても大丈夫なように魔力制御の練習をしてるんだ。それで魔法や魔女についての本を探してたら見つけたってだけだよ」

 それを聞くと彼女は続けて質問を投げてくる。

「ふぅん・・・じゃあ、魔女についてはどう思う」

 その眼に真剣さを感じた俺は、しっかりと彼女に目を向けつつ答える。

「素晴らしいと思う。使いこなせれば魔法系統最強の職業なんだって」
「好きか嫌いかで言ったら?」 

 それには少し照れくささを感じなくもないが、迷わず「好き」だと答えた。

 するとひとしきり考え込むような態度を取った後。

「そうか……。明日は暇?」

 などと聞いてきた。
 明日は普通に仕事があるが、明後日なら初の休日だったから、その旨を伝える。

「わかった。なら、明後日ここに来なさい。時間は早朝と深夜でなければ何時でもいいわ」
「え?ああ。なにこれ、地図?」
「そう。私の家で魔女について教えるから。もちろん、日記に関することもね」

 この少しの問答で、彼女はそれを決めたのだろう。教えてもらえることになって良かったのはそうなのだろうが……

 それだけ言うと、彼女はエクスを連れて部屋を出ていく。

「お、お邪魔しました……!」「じゃー」

 各々の背中を見送るが……。

「ああ、言い忘れてたわね」
「ん?」
 彼女は閉まりかけた扉から半身をのぞかせる。

「私の名前よ。フレン・エイビー。家に来るのに名前も知らないなんて変でしょ?」

 なんて言ってから、今度こそ本当に帰っていった。

「その状況であんたはお茶飲んでたじゃん」

 その呟きには、誰も答えてはくれなかった。

 ★

「じゃあ、今日も頑張ってこう」

 見慣れてきた桟橋で、見慣れぬエストックを片手に今日も訓練を始める。

「何それ……」
「昨日買ったんだよ。まあ、使えるかは分からないんだけど」 
「使えないのに、買ったの……?」

 そう言われると頷くしかできないが……。

 今日も今日とて特大質量の水を生み出すラトナの横で、俺はエストックを振り始めた。
 刺突や基本的な振り。ステップを織り交ぜたオリジナルの技っぽい何かを一人楽しく作っていると、横から声が投げかけられた。三回ほどびしょぬれになった時のことである。

「そういえば、名前……」
「名前?昨日約束したじゃんか」

 制御ができるようになったらって話だったと思うが。
 というか、こちらのタイミングで呼ぶならもうなんの抵抗もない。でも、せっかくやる気を出してくれてるのだからそのままにしておこうと思っていた所だった。

「うん。そうじゃなくて、君の名前。教えてもらってない」
 そういえば、すっかり教えるタイミングを逃していた。ラトナも自分から話してくることはほとんどなかったし、話すとしてもそこには二人しかいないから、ねえ、とか、あの、とかで事足りたのだ。

「ハルだよ。でもなんで、急に?」
「友達は、名前で呼び合うから」

 昨日も聞いたセリフだった。まあ、普通はそうなんだろうが。

「ハル……。もうちょっと待ってて」
「あ、ああ」

 名前を呼ばれるのってこんなに恥ずかしいんだっけ?


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