都合のいい男

美浪

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決戦

ユウヤ

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見事な蹴りが入って俺は床に吹っ飛んだ。
はは。ミナキの結界がこんなに一瞬で破壊されたのは初めてかも。それも恐らく本気では無い蹴りでだ。


――四神結界――
ミナキは漫画家さんを護る様に結界を張った。
先ずはそれで良い。
先ずは此奴を弱らせなければ。


「流石ナンバー3だね?」
アルージャも珍しくやる気になっていて剣を抜き、シアンも嬉しそうに殺人鬼の顔になった。
そしてウェンもヴェガもオーガも。
連携を取りながら体術を仕掛ける。

少々この部屋はバトルには狭い。

しかしオーガの異能発動と追い詰めるには調度良い。

Sランク異能者はレイ、アラン、ベイクの3人。
これは任せて何とかなるか。


さて、問題はユウヤが初見なのが失敗だった。下調べ不足だ。
異能が召喚だけでは無い。
こいつ・・。張さんと同じこの世界内の転移も使える。しかも張さんより発動が早い。

と言う事は何時でもエメリヒとトールを呼べると言う事になる。

漫画家さんの洗脳は何度もかけられていなかったから簡単に解けたと見る。

此奴の洗脳は常時継続されていたであろう。

となると・・・半殺しかな。

死にかけてもミナキが何とかしてくれると期待して本気を出すか。

「こりゃあ大鎌装備だねぇ。」

さあ、皆で追い詰めようか?

加減をしながら攻撃を加えていては拉致があかないぞ。

「うーん。面倒な奴らだねぇ。」
ユウヤは何度か転移を試みているがオーガが何とか防いでいる。

「ミナキ!!部屋全体に結界!転移されない様にしろ!」
転移をさせない。勿論、エメリヒ達を呼ばせない。
その為の結界だ。

ミナキは理解が早い。

――九芒星鉄壁ノナグラム――

部屋全体に張りつめた。

「最悪。何だこの結界?!」
ユウヤは益々不機嫌そうな顔になり体術を仕掛けて来た。
一撃がバックスレー並に重い。
近距離戦は不利だ。


「ウェン!加減するな!」
「了解。」

――光の爆破ライトエクスプロージョン――

結界で護られた空感にウェンの光弾が発射された。

爆風と爆音が凄まじい。

「クソ!痛えじゃねーか!」
ユウヤはダメージは受けているが。やはり簡単には死なないね。

「シアン!」

――拘束の剣の鞭ソードオブウィップ――

シアンの剣が鞭状になりユウヤを捕らえた。

「へえ?斬れないね?鍛えているのかな?」
シアンの鞭が掴んだ腕は切り落とされず血は滲むがそれをユウヤはグッと引き寄せ耐え此方を睨み付ける。

「このくらいじゃねえ?」
ユウヤは更にシアンの鞭を手繰り寄せようとする。

気を取られている隙にアルージャがユウヤの背後に回り込んだ。

気配はさほどしなかった筈なのにアルージャの剣は受け止められた。
「チッッ!!」

此処で畳み掛けなきゃ話にならない!

俺もウェンもヴェガもアルージャに続いて攻撃を仕掛けた。

ウェンの剣は目くらましの牽制。
その一瞬の隙を付く。

――臓器摘出サージカルオペレーション――
ヴェガの右手がユウヤの腹を掠った。

「うがっ!!!」
臓器摘出とはなら無かったが見事に腹から血が飛び散った。

――地獄の大鎌ヘルサイス――

大鎌を大きく振り被りユウヤに振り下ろした。

ザッシュッッッ!!

と大鎌はユウヤの肩に食い込んだ。

地獄の大鎌は傷口から侵食して黒焦げにし死体の判別も付かなくする。

だがこのユウヤはどうだ。

傷口からの侵食は腕半分で止まった。
悔しいがマジで強い。

「クソッ!!!」
大声でユウヤは叫んだ。

そしてユウヤの動きも止まった。


はぁ。はぁ。はぁ。はぁ。

荒い息遣いでシアンの剣の鞭を腕に巻かれたままポタポタと血を流し此方を奴は見渡す。


はぁ。はぁ。はぁ。はぁ。

腹からも血が流れ、左腕は動かなくなった。

ユウヤは唾をゴクッと飲んだ。


はぁ。はぁ。はぁ。はぁ。

荒い息遣いで見ていた目が変わった?

ゼットが言っていた様に瞳孔の大きさかもしれない。


「あぁ。俺、何やってんだか。」
ユウヤはそう言ってヘタり込む様に座った。

「めちゃくちゃ痛いんだけど。」
座った状態から此方をまだ睨み付けてくる。


洗脳は?解けたのか?
油断は出来ない。


「痛え。痛えよ。」
ユウヤの目に薄らと涙が滲んで居た。

「榎津さん?」
漫画家さんが声をかけた。

「まだだ。おい!お前達。後、一撃食らわせてくれ。」
ユウヤは荒い息遣いのまま俺達を見た。

「解けてないんだな?」
俺が確認するとあと少しだとユウヤは頷いた。

解けかけか・・・。

気の毒だがやるしか無いんだろう。

「軽くね?」
アルージャが剣を構えた。

無抵抗の相手を斬りつけるのは気が引ける。

洗脳はこんなにも強い物なのか。

アルージャが剣を振り下ろす。
「あーー!!!」
ユウヤは苦痛の叫びを上げて顔を伏せた。

痛みに耐える様に震えながらゆっくりと顔を上げた。
彼は何か喋った。
あっ。向こうの世界の言葉か!彼はピアスをしていない。

「榎津裕也。日本人だ。海誠先生?オーガ?ミナキもそうなんだろ?」
と言ってます。とミナキが通訳してくれた。

「エメリヒの洗脳は強過ぎだろ。ちょっと、傷がかなり痛えんだが。」
ユウヤの日本語とやらを今度はオーガが通訳してくれた。

「こちらの世界の言葉は話せますか?」
ミナキがそう聞くと彼は軽く頷いた。

「申し訳無い。痛みで頭が回らなくて。」
苦笑しながらユウヤはこちらの世界の言葉で話した。

「治して良いですか?」
ミナキが聞く。少々不安もあるが許可をした。

心得てるなあ。ミナキは痛みを取る異能だけを使用。

「ミナキ、ありがとう。かなり楽になった。洗脳を解いてくれて感謝と言いたいが。」
ユウヤは苦笑しながら俺達の顔を見た。

「ガチでエメリヒとトールはヤバい奴らだぞ?巻き込みやがって。」
大きく溜息を付きながらもその表情は柔らかく人間らしい。

うん。人間らしい。その言葉がしっくりときた。
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