都合のいい男

美浪

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ボディーガードミッション

忘れていた記憶

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朝、起きるとボス不在。
やはりシアンの部屋で寝たんだなあ。フフっと何か微笑ましくてニマっとしてしまう。
まだ6時か起こすには早いかな。
先に朝食行こう。
ボスが朝食付きにしてくれていた。
こう言うスタイルは日本的でわかり易くて助かる。

エレベーターで1階レストランに向かうとサラリーマン風の人でそこそこ賑わっていた。
しまった。武闘着が目立つ?!
が、しかし視線集まらないもんだ。まあ、色んな人種がいるし民族衣装みたいな人も居た。
自然振る舞えば大丈夫みたいだな。

ビュッフェスタイルだったので好きな物を取る。ご飯、味噌汁!!あるんだあ。卵焼きにウインナー。こんなもんかな。
連れもいないし外の見えるカウンター席に座る。

いただきますっと。
パクっと1口食べた所だった。

「隣、良いかな?」
そう言って座って来た男性。チラっと見た瞬間。

心臓がバクんとなった。

此奴・・・。この前の博物館でリュートと一緒に生き残った警察官だ!!
ボスー!!安全じゃなかったです!!居る!居た!

戦う?逃げる?
勝てる気がしない。逃げきれる気もしない。ボスとシアンに電話するか?
ダメだ。他に応援呼ばれたら終わる。

脳内はグルグルで考えが纏まらない。

「安心して。俺、謹慎中だから。」
警察官の男はボソッと呟いた。

「それに。脳内チップ入ってないし。」
俺は無言で食べ続けるが男は勝手にボソボソと喋り始めた。
脳内チップ入ってない?
謹慎中?いや、信じちゃダメだ。冷静に。

「君、日本人だよね?俺の名前は外海そとめ誠。30歳。職業は漫画家。ペンネーム海誠かいせい。」

海誠だと?!

忘れていた記憶。思い出した方が良い記憶はこれかあ!!

漫画の表紙裏にあった著者の写真だ!
この顔!
JUSTICE&の作者だよ!!

「俺さあ。知らない?デビュー作のビーストバスターって話で7巻も単行本出たんだけど。」

知ってる。結構、有名な漫画。

ちょっと待て。時間軸がやっぱりズレているよね?
まだJUSTICE&を書いていない?
そうだ。俺がこの世界に来た時点で何年か不明だがズレていた。カプリス全員生きていたし。

「俺。スランプでね。デビュー作の連載修了後から全く描けなくてさ。この世界に来た時は感動した。ネタがある。これで漫画が描けるって。」
話しかけたい。でも落ち着け。敵だから。

「契約したんだ。召喚した政府のお偉いさんに俺の漫画の大ファンが居たから。元の世界に戻ったらこの世界の事を漫画に描く。」

「勿論、政府や警察が主役。ヒットしたらこの世界に召喚された人間が喜んで政府のお役に立てる様に働くだろうって。丸め込んだ。」

聞いてる?と海誠先生は俺の方を見る。

「・・・。」
黙って頷いた。

「聞いてるか。それで脳内チップは埋められずに済んだ。契約は3年。その間に死んだら終わりだけど。」
死なない様に頑張らねばならないんだけど本当にこの前の君達とのバトルはヤバかったよとケラケラと笑う。

何を考えてこんな事俺に話すんだ?解らない。

「俺の異能は完全記憶メモリー。見た事、見た人物、発した言葉、必殺技とか地形や何かも全て100%記憶出来るって漫画家にとっては有難い異能なんだけど戦闘向きじゃ無いからしんどいんだよねぇ。」
海誠先生は溜息を付いた。

「まあ、お陰でチラっと見た君の事も覚えていたんだよ。ねえ。何で政府に所属せずにカプリスに居るんだ?召喚されたんだろ?」
海誠先生は良く喋る。
答える?答えない?
さっきから本当に焦る。怖い。この人のファンだけど信用してはならない。

「言えないか・・。別に警察や政府に話す気は無いんだけどね。漫画用のネタにしたら面白いかなあ?と思っただけで。」
海誠先生は少し話を止めて味噌汁を啜っている。

「あー。でも漫画を異世界転移にするのはNGだったな。そこは機密事項。聞いても上手くは描けないかも。」
独り言のように呟く。

俺は食べ終わった。
どうするべきか。逃げるんだけどどう逃げる?ホテルから脱出出来るのか?

「行って良いよ。言っただろ。俺は謹慎中。働く気は無い。元々、ネタの為に働いているから謹慎中じゃ無くても危ない事はしない。」

「でもねー。面白い話の為には事件に参加したり、リュートに付いて行かなきゃネタが拾えないからダメなんだよね。」
はぁー。そう言って溜息を付かれた。

「良い事教えてあげるよ!今、この前君らが戦った子達は修行中なんだ。場所はこのホテルから10キロ程離れた政府が作ったジ・パング闘技場。そこには近づかない方が良いよ。」

漫画と時系列が合ってる。闘技場はこの辺だったんだ!

「今から俺はふらっと彼等を取材と言うか見学。これも全てネタの為さ!」
聞きたい。色々と。でも、怖い。

ちょっと待ってねとメモ帳とペンを出して何やら書き出した。

「はい。携帯番号。脳内チップ入っていない日本人って他に居ないから。友達になれたら嬉しい。それとネタをくれ!」
そう言われてメモを渡された。

「あの。この前の日本人2人、オーガってやつとリュートは脳内チップ入っているんですか?」

「うん。入っている。」
海誠先生は悲しそうに頷いた。

「でも、取り出せる可能性もある。脳内チップ埋め込むのは政府のお偉いさんの異能なんだ。機械と異能の融合みたいな奴。」

入れれるんだから取り出せると思っているだけの俺の推測だけど。とそこは念を押された。

「全てはネタの為!敵じゃないよ!何か話たくなったら電話してね。」

海誠先生は立ち上がった俺に笑顔で手を振った。
俺はペコっと頭を下げてレストランを出た。

着いてきてないか?
他に仲間が居ないか?シアンの部屋に直行は不味いな。
自室に行こう。階段がベスト。
念の為に階段で5階へ。
気配無し。明らかに自分のレベルは上がっているんだがまだまだ危険察知力が足りない。

部屋に入ってもまだ心臓がドキドキしている。
電話!!大丈夫だよな?
何もかも怖い。
えーと!これがボスの名前の筈。
「もしもし!ボス!大変です。」
「あれ?あー。ごめんね。戻らなくて。今、7時かあ。」
それどころじゃ無い!とレストランでの出来事を急いで話す。

「異能が完全記憶ね。あー!解った。」
ボスは異能で人を覚えているようだ。

「昨夜このホテルに入った時はそんな気配は無かったんだけどなあ。後から来たのかな?取り敢えず気を付けてチェックアウトしようか。」
ボスは俺と比べて能天気。

ボスにとっては敵じゃないのかな・・。
マフィアの半分を倒したのって海誠先生だったんじゃないの?

「じゃ15分後に階段に集合ね。」
そう言われて電話を切った。

特に荷物は無いし何時でも出られる。

あれ?海誠先生って3年契約って言ってたよね。元の世界に帰れるのか?帰れるから漫画が描けたんだよな。
俺は帰るつもりは無い。でも、脳内チップも抜けるなら色んな転移者を助けられるんじゃないのか?

詳しく聞きたかった。だけど信用出来ない。
俺と海誠先生は敵だから。

「あ!やべ!時間だ!」
急いで部屋を出て階段に向かった。
階段にボスとシアンが居てホッとした。

「大丈夫だから。俺とシアンならこのホテル全体の把握くらい出来る。」
ボスに言われて頷く。

1階に降りるともう海誠先生の姿は無かった。
俺達はチェックアウトを済ませて車に乗り込んだ。
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