都合のいい男

美浪

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1週間

覚醒

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夢だけど夢じゃない。これは記憶の同期だ。
寝ている俺はそう思える程冷静。
でも、身体は重くまだ目は開かない。

鮮明にあの日の出来事が録画された物を見る様に蘇る。
何時もの様にアルバイトに行く前にコンビニに寄るのが日課。目的は立ち読みとお茶を買う事。
漫画大好き。特に『JUSTICE&』と言う漫画にもう6年ハマりまくっている。主人公は政府と警察組織の人間でタッグを組んでいる。敵はマフィアだ。
うぉ!表紙が『JUSTICE&』のカプリス!!しかも全員と言う。

俺はお恥ずかしながら二次元の男性キャラが好きと言うオタだ。
男性が好きだけど二次元限定。生身の男性はカッコいいとは思うけど現実に踏み込むのは怖い。

この数週間は政府と大バトル勃発と言う展開だったよなあ。そう思いながら立ち読みを続ける。
カプリスは登場してからずっと箱推し。でも!でも!ウェン・ムーン様!尊い!

「えっ・・。死んだ?」
嘘!嘘?!嘘?えっ?
たかが漫画。されど漫画。もう涙出そうなのを必死で堪えてお茶を買ってコンビニを出た。

カプリス皆、無惨に死んでた。
嘘だろ?まだ時間があったので近くの公園のベンチに腰掛けた。
スマホ検索。カプリス。
Twitterもカプリス全員の死亡に政府ファンとマフィアファン、カプリスファンで討論の様になり炎上しまくっていた。

本当に死んだんだ。改めて実感するとこの6年の思いが溢れる。
ダメだ。バイト行かなきゃいけないのに。
俺のウェン様。6年越しの片思い・・。
恥ずかしながらベンチで泣き出してしまっていた。

この政府との大バトルを勃発させた原因はカプリスの元メンバーのシアンの裏切りと手引きに寄る物だった。
シアンは登場の時は好きなキャラの1人だったけど。結局は殺人鬼の本質は変わらなかった。

もし出来るならカプリスを護りたい。
馬鹿げている思いだろう。でも6年越しの俺の片思いは深い。


心底そう思っていた時だった。


――召喚機能の不具合発生――
脳内に響く機械音。

「何?」
周りを見渡すが誰も居ない。

――召喚エラー。シャットダウンしますか?――

「え?何?」
また聞こえた。
カプリスメンバーの死亡で頭がおかしくなったんだろうか?

――システムエラー。召喚を開始します――
次の瞬間から脳が支配されていた。

――身分証や本人確認出来る物全て消去または破棄して下さい――

俺は財布を捨て、スマホを初期化した。

そして何故か荒野で寝てたんだなあ。
召喚はシステムエラー?

そう言う事もあるのか。無いのか。



ゆっくりと目を開ける。
いや!!閉じる!!


待て待て!俺はシアンと・・。

最悪だ。カプリスの裏切り者とエッチしてしまった!!!!

あぁ。二次元が三次元になるとああ言う風になるんだ。確かにシアンはカッコいいや。
でも。ウェン様・・・。

これからどうしたら良いんだろう。勿論カプリスに入るのは確定だ。その為に来たんだし。

暴露する?

シアンを早めに・・・殺す?

能力的に無理だが気持ち的にも無理だ。
俺の気持ちはシアンの事も。

俺って浮気者だったんだなあ。心が揺らぐ。

今っていつ頃の話なんだろう?
確かめないと。
本当に『JUSTICE&』の世界なのかも。
まだ記憶が全部戻って居ない気もするし。
直近は思い出したけどもっと前とか。

起きる?
あー。そう言えばハーミット様にも会えたんだったなあ。
凄く優しそうに見えるけど彼は結構、怖い人だ。アルージャ・ハーミットも好き。
やっぱり俺は気が多い。


決めた。起きよう!様子を見て考える!


薄らと辺りの様子を伺いながら目を開ける。

「おはよう。」
リビングの椅子に座ったテレビを見ているシアンに話しかけた。

「起きたか!!」
シアンはニヤっと微笑んで俺の傍に寄って来てベッドに腰掛けた。

「改めて。初めまして。名前は香焼こうやぎ 皆輝みなき。ミナキ・コウヤギ。ミナキって呼んで。」
    
「宜しく。シアン・ワールド。この苗字はカプリスのコードネームで嘘なんだけどね。俺やメンバーの様なこの世界で生まれた異能者は大抵、苗字が無いんだ。」

そうだったのか・・。
カプリスメンバーはタロットから苗字を付けただけだとばかり思っていた。

そう言う設定だったのか。

「で?どうやってこの世界に来たの?」
シアンは興味津々と言った顔で聞いて来た。

「召喚システムエラーって言ってた。」
そこはきちんと答えないとな。

「エラー?なるほど。そう言う事もあるのか。」
うんうんと頷いて彼は行こうか?と手を差し出す。
カプリスに会える!!改めて全員の顔を思い出す。
ウェン様居た。居たよ。アジトに居たぁ。

「どうしたんだい?凄く笑顔だ。」
顔に出まくっていた。
「気分が良いんだ!モヤモヤが無くなったし。」

それは良かったとシアンが微笑む。

もう・・・。お前、殺人鬼だろ?裏切り者になるんだろ?何でそんなに優しいんだ。
心がチクリと痛む。

起き上がってテーブルを見ると市販のパンが置いてあって。見た途端腹が鳴る。

「先に食べてから行こうか?」
シアンは苦笑しながら座るように促す。
珈琲まで入れてくれて。とことん優しい。

「シアンは何歳?俺は19歳。」
シアンは首を捻りながら

「多分?22歳。生年月日不明なんだよね。」
と言った。
そう、カプリスメンバーって年齢設定無かったんだよね。そうかシアンは多分22歳か。

「ちょっと年上だね。」
「そうだねぇ。実際はもう少し上かもね?」
と言う。

話を聞いて居るとこの世界で生まれた異能者って殆ど政府に無理矢理拉致され働かされるかその前に親に捨てられると言う悲しい現実だった。

そうやって彼も心が屈折していったのかと思うと少しいたたまれなくなった。
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