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第七話「バケーションアワー~都市伝説甲殻譚~」
7-3.
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またもゾンビ達の群れをかき分け、何とか天子の立つ岩の下までたどり着いた。とりあえずぽん吉達は声をかけてみることにした。
「おーい!天子ー!なにやってんだー!」
「姉さん!降りてきてください!」
「今のぼります……、うわ!」
天子のもとに近づこうとした瞬間、足元が大きく揺らいだ。
「なんだ!?地震か!?」
「いや、これは!岩自体が動いてます!」
揺れはなおも大きくなり、岩に上っていた三人を力強く吹き飛ばす。砂浜まで吹き飛ばされた三人は折り重なるように砂地に激突した。下になったぽん吉が苦しそうな声をあげる。
「いたた、あ。大丈夫ですか、ぽん吉君」
「大丈夫だから早く降りてくれ……」
「何が起きて……、あ!あれを見てください!」
先ほどまで三人がいた磯の方で、フジツボが大量についた岩が、まるで意思を持っているかのように動き、何かの形を成すように積み重なっていく。
二本の足。太い胴体。その胴体から伸びる腕。最後に胴体の上に大きな岩が頭のようにがガシリとはまり、岩はビルのように大きな巨人の形に組みあがった。その巨人の額に当たる部分には天子が上半身を出して埋め込まれてしまっている。
「おいおい。なんの冗談だこれは」
「フジツボでできた巨人……。まさにこれはフジツボゴーレム!」
「知っているんですか、駆人君!」
「いえ、今名付けました」
海の中をこちらに向かって歩いてきたフジツボゴーレムは、三人に向けてその太い岩の腕を振り下ろした。海をも割らんばかりの勢いで振り下ろされた腕は、狙いを外し、ぽん吉たちには当たらなかったものの、砂浜を大きくえぐる。
あまりの迫力にしばらく硬直していたが、後ろからのうめき声で我に返る。
前には巨大なフジツボゴーレム、後ろからは大量に迫るフジツボゾンビ。絶体絶命だ。
「……。お二人にあのゴーレムの相手をお願いしていいですか」
「そりゃあそうしたいところだが……。あのゾンビどもはどうするんだよ。後ろから襲われたらたまらんぜ」
「あのゾンビどもは僕が引きつけます!うおおおお!」
勇ましい叫び声と共に駆人はフジツボゾンビの群れに飛び込む。なんとか攻撃をかわしつつ、反対側から脱出すると、ぽん吉たちとは反対側に向かって走り出した。フジツボゾンビ達は、駆人の方に興味が向いたようで、すべてのゾンビが、そちらに向かってゆっくりと動き出した。
「……。よくやるよな、アイツ」
「ええ。でもゾンビの動きはゆっくりとはいえ、いつまでも逃げ続けられるとは思いません」
「ああ。さっさとこのゴーレムを倒して、天子を成敗しねえとな」
ぽん吉と空子はゴーレムに向き直り、戦闘態勢を取る。
ゴーレムが天に向かって咆哮をあげる。それを合図に、怪奇ハンターコンビとフジツボゴーレムの戦いの火蓋が切られた!
「狐火ーム!」
まずは小手調べという風に、空子が手のひらから光線を放った。光線はゴーレムに直撃するも、まるで効果がないという風に微動だにせず、その太い腕を空子に向かって振り下ろす。
空子は横に大きく飛びのいて攻撃をかわす。砂浜に直撃した攻撃の衝撃で砂が大きく舞いあがった。空子はその腕から距離を取りながら、次の攻撃の準備をする。
その時、舞いあがる砂の中から、何かが伸びてきて空子の体に巻き付いた。
「きゃああああ!」
砂ぼこりの向こう、ゴーレムの腕の側面から伸びたそれは、イソギンチャクの触手のようにウネウネと動きながら、空子を締め付け、宙に持ち上げた。
「な、なんだありゃあ」
「ああ!あれはフジツボの『蔓脚』です!フジツボは水中で殻の間からあの『蔓脚』を伸ばして水中のプランクトンを取って食べるんです!」
駆人はゾンビに追い立てられながら、必死に解説する。
「フジツボってあの見た目でそんなにアグレッシブなのかよ」
「フジツボは、貝の仲間ではなく、甲殻類。つまり、エビやカニに近い生き物なんですって!」
そこまで言い切ると、ゾンビを率いて、砂浜の反対側へ駆けて行った。
「なるほどな。しかし、今は感心してる場合じゃないぜ」
ぽん吉は体に力を入れ、妖力を開放する。狸の耳と尻尾も同時に出現した。
「出でよ!ぽん刀!」
掛け声とともに、どこからか細身の日本刀を取り出し、空子を捕らえる蔓脚に切りかかる。
ズバッ!バシッ!
鋭い切れ味で絡みつく蔓脚をすべて切り落とすと、解放されて落ちてきた空子を見事にキャッチした。
「大丈夫か?」
「ええ。助かりました、ぽん吉君」
「よし。今度はこっちの番だ!」
ぽん吉は腕に抱えていた空子を下ろすと、ゴーレムの腕に飛び乗り、腕を駆け上がる。肩まで登るとそこから跳躍し、ゴーレムの頭頂部に切りかかった。
しかし、固いフジツボの殻で守られているゴーレムの頭には刃が通らない。体勢を崩したところを蔓脚ではたき落され、海面にたたきつけられた。
「ぐおお。なんてこった。狐火ームも俺のぽん刀も効かねえのか」
「都市伝説なら、何か弱点があるのかもしれません。どうにか探さないと」
そこに、またもゾンビから逃げ続ける駆人が近づいてきた。
「フジツボは海中の生物です!もしかしたら乾燥に弱いかもしれない!」
「そりゃそうかもしれんが。乾燥ったってどうするんだ。砂浜に打ち上げて日光浴でもさせるか?」
「僕にいい考えがあります!もうちょっと時間を稼いでください!」
ひとしきり言い終わると、ゾンビと共に海の家の方角に駆けていく。
「何か考えがあるみたいですね」
「ああ。アイツの言う通りこっちは防御に徹しよう」
二人は作戦を変え、距離を取りながら、慎重に戦う。
「おーい!天子ー!なにやってんだー!」
「姉さん!降りてきてください!」
「今のぼります……、うわ!」
天子のもとに近づこうとした瞬間、足元が大きく揺らいだ。
「なんだ!?地震か!?」
「いや、これは!岩自体が動いてます!」
揺れはなおも大きくなり、岩に上っていた三人を力強く吹き飛ばす。砂浜まで吹き飛ばされた三人は折り重なるように砂地に激突した。下になったぽん吉が苦しそうな声をあげる。
「いたた、あ。大丈夫ですか、ぽん吉君」
「大丈夫だから早く降りてくれ……」
「何が起きて……、あ!あれを見てください!」
先ほどまで三人がいた磯の方で、フジツボが大量についた岩が、まるで意思を持っているかのように動き、何かの形を成すように積み重なっていく。
二本の足。太い胴体。その胴体から伸びる腕。最後に胴体の上に大きな岩が頭のようにがガシリとはまり、岩はビルのように大きな巨人の形に組みあがった。その巨人の額に当たる部分には天子が上半身を出して埋め込まれてしまっている。
「おいおい。なんの冗談だこれは」
「フジツボでできた巨人……。まさにこれはフジツボゴーレム!」
「知っているんですか、駆人君!」
「いえ、今名付けました」
海の中をこちらに向かって歩いてきたフジツボゴーレムは、三人に向けてその太い岩の腕を振り下ろした。海をも割らんばかりの勢いで振り下ろされた腕は、狙いを外し、ぽん吉たちには当たらなかったものの、砂浜を大きくえぐる。
あまりの迫力にしばらく硬直していたが、後ろからのうめき声で我に返る。
前には巨大なフジツボゴーレム、後ろからは大量に迫るフジツボゾンビ。絶体絶命だ。
「……。お二人にあのゴーレムの相手をお願いしていいですか」
「そりゃあそうしたいところだが……。あのゾンビどもはどうするんだよ。後ろから襲われたらたまらんぜ」
「あのゾンビどもは僕が引きつけます!うおおおお!」
勇ましい叫び声と共に駆人はフジツボゾンビの群れに飛び込む。なんとか攻撃をかわしつつ、反対側から脱出すると、ぽん吉たちとは反対側に向かって走り出した。フジツボゾンビ達は、駆人の方に興味が向いたようで、すべてのゾンビが、そちらに向かってゆっくりと動き出した。
「……。よくやるよな、アイツ」
「ええ。でもゾンビの動きはゆっくりとはいえ、いつまでも逃げ続けられるとは思いません」
「ああ。さっさとこのゴーレムを倒して、天子を成敗しねえとな」
ぽん吉と空子はゴーレムに向き直り、戦闘態勢を取る。
ゴーレムが天に向かって咆哮をあげる。それを合図に、怪奇ハンターコンビとフジツボゴーレムの戦いの火蓋が切られた!
「狐火ーム!」
まずは小手調べという風に、空子が手のひらから光線を放った。光線はゴーレムに直撃するも、まるで効果がないという風に微動だにせず、その太い腕を空子に向かって振り下ろす。
空子は横に大きく飛びのいて攻撃をかわす。砂浜に直撃した攻撃の衝撃で砂が大きく舞いあがった。空子はその腕から距離を取りながら、次の攻撃の準備をする。
その時、舞いあがる砂の中から、何かが伸びてきて空子の体に巻き付いた。
「きゃああああ!」
砂ぼこりの向こう、ゴーレムの腕の側面から伸びたそれは、イソギンチャクの触手のようにウネウネと動きながら、空子を締め付け、宙に持ち上げた。
「な、なんだありゃあ」
「ああ!あれはフジツボの『蔓脚』です!フジツボは水中で殻の間からあの『蔓脚』を伸ばして水中のプランクトンを取って食べるんです!」
駆人はゾンビに追い立てられながら、必死に解説する。
「フジツボってあの見た目でそんなにアグレッシブなのかよ」
「フジツボは、貝の仲間ではなく、甲殻類。つまり、エビやカニに近い生き物なんですって!」
そこまで言い切ると、ゾンビを率いて、砂浜の反対側へ駆けて行った。
「なるほどな。しかし、今は感心してる場合じゃないぜ」
ぽん吉は体に力を入れ、妖力を開放する。狸の耳と尻尾も同時に出現した。
「出でよ!ぽん刀!」
掛け声とともに、どこからか細身の日本刀を取り出し、空子を捕らえる蔓脚に切りかかる。
ズバッ!バシッ!
鋭い切れ味で絡みつく蔓脚をすべて切り落とすと、解放されて落ちてきた空子を見事にキャッチした。
「大丈夫か?」
「ええ。助かりました、ぽん吉君」
「よし。今度はこっちの番だ!」
ぽん吉は腕に抱えていた空子を下ろすと、ゴーレムの腕に飛び乗り、腕を駆け上がる。肩まで登るとそこから跳躍し、ゴーレムの頭頂部に切りかかった。
しかし、固いフジツボの殻で守られているゴーレムの頭には刃が通らない。体勢を崩したところを蔓脚ではたき落され、海面にたたきつけられた。
「ぐおお。なんてこった。狐火ームも俺のぽん刀も効かねえのか」
「都市伝説なら、何か弱点があるのかもしれません。どうにか探さないと」
そこに、またもゾンビから逃げ続ける駆人が近づいてきた。
「フジツボは海中の生物です!もしかしたら乾燥に弱いかもしれない!」
「そりゃそうかもしれんが。乾燥ったってどうするんだ。砂浜に打ち上げて日光浴でもさせるか?」
「僕にいい考えがあります!もうちょっと時間を稼いでください!」
ひとしきり言い終わると、ゾンビと共に海の家の方角に駆けていく。
「何か考えがあるみたいですね」
「ああ。アイツの言う通りこっちは防御に徹しよう」
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