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第五話「クライムアワー~都市伝説捜査譚~」

5-4.end

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【天子様へ
 奴の名は『質問テレフォン』
 電話に出てはいけない
 質問に答えてはいけない
 弱点があるはず
 僕は無事です他の人も   】

 二人は覗き込んだ姿勢のまま、息をのむ。
「『質問テレフォン』……。電話をかけられて、その相手の質問に答えると引っ張り込まれる都市伝説、というわけか」
「無事だと書かれてはいるが、文が途中で切れているようにも見えるのう」
「一刻も早く弱点を調べよう。今無事でもこれからどうなるか分からない」
「そうじゃな。急ぐとしよう」
 こうなっては落ち込んでいるわけにはいかない。駆けだそうとしたその時。

 トゥルルルル……。

「電話?わしのケータイか!」
「こっちもだ!それに、この番号は!」
 画面に表示されている番号は、あの公衆電話のものだ。つまりこの電話の通話先は、一連の事件の犯人。
「これは……、出なければ大丈夫なのか?今は何も準備が整っていない!」
 誠の指が携帯電話の通信切断ボタンに伸びる。
「いや、待つんじゃ!今この電話は犯人とつながっておる!犯人への唯一の手掛かりじゃ!」
「だったらどうしろってんだ!まさか都市伝説と綱引きでもしろってのか!」
「そのまさかじゃ!しかし、綱引きをするのはわしらではない!」
 天子は誠の手から携帯電話を奪い取り、通話ボタンを押して……。
「こうじゃ!」
 二つの携帯電話を向かい合わせにし……。
『天子の電話か?』『月岡誠の電話か?』
「そうじゃ!」
 二つの携帯電話から聞こえる相手の声に返事をする!
 すると、両方の受話口から青白い手が生えてきた。
「こいつが犯人か!?」
 そして、そのまま二本の手はお互いの手をつかむ。引っ張り合うが、同じ力で引っ張り続けるのでどれだけやってもお互い動かない。
「マコトよ!そっちのケータイを引っ張れい!」
「なんだよ。やっぱり綱引きするんじゃねえか」
 都市伝説の腕でつながれた二つの携帯電話を、天子と誠がそれぞれ思いきり引っ張る。
「おーえす!おーえす!」
「ふざけてんじゃねえぞ」
 だんだんと腕が、もう肘のところまで外に出てきた。
「もう少しじゃ!一気に行くぞ!」
 同時にグイと体を傾ける。すると一気に携帯電話から出ている腕がすっぽ抜けた。
 抜け出てきたのは腕だけ。その腕がビチビチと魚のように跳ねている。
 勢いのままに尻もちをついた天子の顔が青ざめる。
「うおお、なかなか不気味じゃな」
「それはともかく。正体を現したな。逮捕だ!」
 誠がいまだにつかみ合っている二本の腕に懐から出した手錠をかける。すると、観念したように腕は跳ねるのをやめた。
「さて、あとはいなくなった者たちじゃが……」
「おい、お前らが引っ張り込んだ奴らはどこにやった。今すぐ返すんだ」
 ドスの効いた声をかけると、腕はびくりと震えて、つかみ合っていた手を放し、パチンと指を鳴らした。
 すると、天子達が持っていた駆人と真紀奈の携帯電話から、二人がするりと飛び出してきた。
「おお、カルト!」
 急いで走り寄り、状態を確かめる。気を失ってはいるが、息はあるようだ。誠が確かめた真紀奈も、同様であるらしい。
「どうやら無事なようじゃな」

 呼んだ救急車を待つ間に、誠の携帯電話に連絡が入る。どうやら今までの被害者も保護されたようだ。その人たちも、同じように病院へ送られるという。

 一晩が経ち、目を覚ました駆人の病室の扉を誰かがノックする。
「起きちょるか~。入るぞ~」
「駆人君大丈夫ですか?」
 戸を開けて入ってきたのは天子と空子の姉妹だ。ベッドに寝ている駆人は体を起こして二人を迎える。
「はい、おかげさまでピンピンしてます」
「わしのおかげじゃからな。感謝しろよ!」
 天子がベッドの近くの椅子に座る。空子は持ってきた林檎をむいてくれるらしい。
「ええ、まさか力づくであいつを引っ張り出すとは思いませんでしたが」
「わしゃやる時はやる女なんじゃ」
「それで、あの都市伝説は僕たちをどうする気だったんですか」
「あの後警察署に連れて行ってペンを持たせてみたら動機やなんかを饒舌……、でよいのか?まあ、スラスラと書き始めてのう。異空間に人間を閉じ込めて生気を吸い取ろうとしておったようじゃ」
「生気を吸い取る……」
「そうじゃ。もちろん最終的にはすべて吸い尽くされて死ぬことになろうがの。二つに増えたのは力を身に着けたという証拠じゃろう」
 ゾッとする。あのまま囚われたままであれば、ミイラもかくやの死体になっていただろう。
「いやはや。本当に助かりました」
「うむ」
 くるしゅうない、などといいながらふんぞり返る天子をよそに、空子が剥いた林檎を皿に乗せて持ってきてくれた。
「はい駆人君、おリンゴ剥けましたよ。あーん」
「でへへ、いいんですか。あーん」
「そこまで重症じゃないじゃろうが!デレデレしおって!」
 ぷんすかと音をたてながら怒る天子。その時、またしてもノックの音が響く。
「駆人君今いいか?入るぞ」
「どもども~。あら、なにやらお楽しみのようで」
 今度入ってきたのは、誠と真紀奈の怪対課コンビだ。間の悪いところを見られた。
「あ、いや、これはその」
「元気そうでなによりだ」
「続けてもいいんですよ~」
 冷やかすような二人の目に、駆人は慌てて楊枝を受け取り林檎を一口かじる。
「あの、他の被害者の方たちは大丈夫なんですか」
「ああ、最初の方に連れ去られていた人は大分衰弱しているが、命に別状はないそうだ」
「携帯電話を保管室に並べておいたものだから、出てくるときに折り重なっちゃって大変だったみたいですけどね~」
「あの都市伝説を立ち会わせて確認したから、全員出てきていることは間違いない」
「真紀奈はもう動けるんだね」
「はい、私はロボットですから~、元々吸い取る生気がありません故に~」
「あ、そうか」
 そういうと真紀奈は元気をアピールするためにバタバタと動く。誠に病院だからと窘められるとその辺の椅子に座り、空子に林檎を『あーん』してもらっている。生気がないのに物は食べるのか。
「……。それで、あの都市伝説はどうするんですか」
「あいつはな、人の生気を吸い取って最終的に殺そうとしていたのは確かだが、今回は、ま、幸いなことに未遂に終わったわけだから、消しちまうって程までにはいかないな」
「え、逃がすんですか」
「そういうわけにもいかない。奴には社会奉仕で罪を償ってもらう。ペンを持たせてみりゃあなかなか達筆でな。聞き訳もあるんで、書き物をしてもらうことになるだろう」
「腕だけの書記、か。なかなか便利かものう」
「ああ、それに喋らないからな。うるさくなくていい」
 冗談めかしているが、目は本気に見える。
「まっ。今回は二人のおかげで事件が解決できた。また何かあれば力を貸してくれよ」
 そう言って、誠は右手を額のあたりにあげる。真紀奈もそれに倣った。
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
 駆人も同じポーズを返す。事件の解決に協力できたようで、少し誇らしい気分になった。
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