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第二話「スピードアワー~都市伝説暴走譚~」
2-1.スピードアワー~都市伝説暴走譚~
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七月も下旬に入り、太陽が容赦というものを前の季節に置き去りにしたのではないかというほどの暑さが連日続く。それは│駆人《かると》の自宅の近くに突然出現した、この神社の中も例外ではない。しかし、あの訳の分からない自己紹介の後、天子と空子の化け狐姉妹に連れられて入った拝殿のわきにある二人の自宅に入ると、その中は日が当たらない分か、いくらか涼しかった。
「ささ、こちらへどうぞ」
そう言って、妹であるらしい空子が引き戸を開け、駆人を部屋に中に招いた。中を見やると、大きめのちゃぶ台に、テレビや棚がいくつか。どうやらこの家の居間のようだ。
「そこに座るとよい。楽にしていいぞ」
次に声をかけたのは、姉の天子だ。導かれるままに駆人は敷かれてある座布団に腰を下ろした。その駆人は、まだ先ほどの難解な自己紹介を理解しきれておらず、少し目がうつろだ。
「それじゃあ、お茶を入れてきますね」
「おう。わしも買ってきたものをしまわんといかんな」
そうして、姉妹二人は居間の奥の、おそらく台所の方の戸を開け、それぞれの用を済ませに行く。
少々間を置き、部屋の中を通り抜けた涼しい風が駆人の頬を撫で、不意に我を取り戻す。ハッと息をつくと、自分の置かれている状況を再確認しようと周りを見渡した。なかなか広い部屋だ、縁側に続く障子が開けられていて、そこから風が入ってきたのだろう。そこから見える庭も広く、木々が生い茂っているため、この涼しい風が入ってくるのだろうか。いやいや、何を不動産品評をしているのだ。あの狐だかハンターだかの二人が住んでいるのだろう。なにか、そういうものはないのか、と部屋の中に目を向ける。
大きなテレビに、何かのプレイヤー。近代的だ。隣の本棚にはマンガやファッション雑誌の本、実用書などが並んでいる。怪しいところはない。上の方に目線をやると、なにか賞状が額に入れられている。『オカルト検定一級』?なんだそりゃ。
そうこうしているうちに、お茶の入った湯のみをのせたお盆をもって、空子が先に部屋に戻ってきた。湯呑を一つ駆人の前に置くと、ちゃぶ台を挟んで駆人の反対側に座った。
「ごめんなさいね。急にこんなところに連れてきちゃって、まだ混乱してるでしょう?」
「あ、いや。神社に入ったのは僕の方なんで」
「まあ、そうね。でもそのことなんだけれど……」
「おうおう、そこじゃ。本題は」
一言二言かわしていたところに天子が滑り込むように部屋に戻ってきた。湯呑を手に取り、やはり駆人の反対側、空子の隣に腰を下ろした。二人の頭に耳はない、しまっているのか、駆人の見間違いだったのか。
「単刀直入に聞くが、お主、霊感、あるじゃろ?」
「れいかん?な、何の話ですか?そもそもここは…」
「いいから答えるんじゃ、話が進まんから」
天子がずいと身を乗り出しすごむ。少し圧倒され、駆人は素直に答えるしかなくなった。
「霊感……、ある、のかもしれません。暗がりとか、奥まったところとか。気のせいかもって思う程度ですけど。見えることはありました」
答えたように、駆人には霊感があった。生まれた時から幽霊や、お化けの類を視界の端にとらえることがあった。物心ついた時には、割と理解の早い子供だった駆人は、見えるだけで害はなく、ほかの人には見えないこともあって、他人に話すことはなかった。
「そうじゃな。霊感のある人は極少ないし、あっても見えるか見えないか、そんなものじゃ。幽霊の方から人間に危害を加えることもほとんどないしの」
「ええ。でもこの神社は、その霊感がある人間にしか見えないようになってるんです。それは、私たちが霊感のある人間を探していたから何ですけど……」
「そうじゃ、そこでさっき言ったわしらの職業が出てくるんじゃが……」
二人の職業。先ほど、二人に耳と尻尾が生えた時に言っていたはずだ。確か……。
「怪奇ハンター……、ですか?」
「そうじゃ!その仕事に、お主、手を貸してはくれんかのう」
「いや……、そもそも怪奇ハンターってなんなんですか?」
「ふむ。確かにそこからじゃな」
そう言って天子は一口お茶を飲む。それに続いて駆人もお茶を口に含んだ。よく冷えた緑茶だ。涼しい風が通るのもあって、エアコンがなくとも部屋の中は比較的快適だ。
「まず、あまり信じられないことじゃろうが、この世にはお化けとか妖怪のような超常的な怪奇存在が数多くおる!わしらも化け狐じゃしな。そのなかでも人間や他の生物に害をなすようなものもたくさんおるんじゃ」
「ほとんどの人間にはその怪奇存在は見えませんから、何らかの被害として役所や警察に話がいくわけです。でも、役所や警察にいるのは普通の人間ですから、そういった怪奇存在に対抗することはできないんです」
「じゃから、そこでわしらのような怪奇ハンターの出番というわけじゃ。警察などから依頼を受け、怪奇存在を見つけ、懲らしめ、やっつける!そういう仕事じゃ」
二人の話は、今まで怪奇現象など関係ない、普通の暮らしをしていた駆人にとっては少々受け入れがたいものだったが、昨日の大捕り物とこの神社を見た後では、むしろその方が納得がいく。しかし、だからこそ二人の説明に疑問を抱く。
「怪奇ハンターはわかりましたけど、ならなぜそこに僕が必要になるんですか?確かに霊感はあるけど、お化けと喧嘩なんかできませんよ」
「そこじゃ」
天子はびしっと駆人を指さす。
「ささ、こちらへどうぞ」
そう言って、妹であるらしい空子が引き戸を開け、駆人を部屋に中に招いた。中を見やると、大きめのちゃぶ台に、テレビや棚がいくつか。どうやらこの家の居間のようだ。
「そこに座るとよい。楽にしていいぞ」
次に声をかけたのは、姉の天子だ。導かれるままに駆人は敷かれてある座布団に腰を下ろした。その駆人は、まだ先ほどの難解な自己紹介を理解しきれておらず、少し目がうつろだ。
「それじゃあ、お茶を入れてきますね」
「おう。わしも買ってきたものをしまわんといかんな」
そうして、姉妹二人は居間の奥の、おそらく台所の方の戸を開け、それぞれの用を済ませに行く。
少々間を置き、部屋の中を通り抜けた涼しい風が駆人の頬を撫で、不意に我を取り戻す。ハッと息をつくと、自分の置かれている状況を再確認しようと周りを見渡した。なかなか広い部屋だ、縁側に続く障子が開けられていて、そこから風が入ってきたのだろう。そこから見える庭も広く、木々が生い茂っているため、この涼しい風が入ってくるのだろうか。いやいや、何を不動産品評をしているのだ。あの狐だかハンターだかの二人が住んでいるのだろう。なにか、そういうものはないのか、と部屋の中に目を向ける。
大きなテレビに、何かのプレイヤー。近代的だ。隣の本棚にはマンガやファッション雑誌の本、実用書などが並んでいる。怪しいところはない。上の方に目線をやると、なにか賞状が額に入れられている。『オカルト検定一級』?なんだそりゃ。
そうこうしているうちに、お茶の入った湯のみをのせたお盆をもって、空子が先に部屋に戻ってきた。湯呑を一つ駆人の前に置くと、ちゃぶ台を挟んで駆人の反対側に座った。
「ごめんなさいね。急にこんなところに連れてきちゃって、まだ混乱してるでしょう?」
「あ、いや。神社に入ったのは僕の方なんで」
「まあ、そうね。でもそのことなんだけれど……」
「おうおう、そこじゃ。本題は」
一言二言かわしていたところに天子が滑り込むように部屋に戻ってきた。湯呑を手に取り、やはり駆人の反対側、空子の隣に腰を下ろした。二人の頭に耳はない、しまっているのか、駆人の見間違いだったのか。
「単刀直入に聞くが、お主、霊感、あるじゃろ?」
「れいかん?な、何の話ですか?そもそもここは…」
「いいから答えるんじゃ、話が進まんから」
天子がずいと身を乗り出しすごむ。少し圧倒され、駆人は素直に答えるしかなくなった。
「霊感……、ある、のかもしれません。暗がりとか、奥まったところとか。気のせいかもって思う程度ですけど。見えることはありました」
答えたように、駆人には霊感があった。生まれた時から幽霊や、お化けの類を視界の端にとらえることがあった。物心ついた時には、割と理解の早い子供だった駆人は、見えるだけで害はなく、ほかの人には見えないこともあって、他人に話すことはなかった。
「そうじゃな。霊感のある人は極少ないし、あっても見えるか見えないか、そんなものじゃ。幽霊の方から人間に危害を加えることもほとんどないしの」
「ええ。でもこの神社は、その霊感がある人間にしか見えないようになってるんです。それは、私たちが霊感のある人間を探していたから何ですけど……」
「そうじゃ、そこでさっき言ったわしらの職業が出てくるんじゃが……」
二人の職業。先ほど、二人に耳と尻尾が生えた時に言っていたはずだ。確か……。
「怪奇ハンター……、ですか?」
「そうじゃ!その仕事に、お主、手を貸してはくれんかのう」
「いや……、そもそも怪奇ハンターってなんなんですか?」
「ふむ。確かにそこからじゃな」
そう言って天子は一口お茶を飲む。それに続いて駆人もお茶を口に含んだ。よく冷えた緑茶だ。涼しい風が通るのもあって、エアコンがなくとも部屋の中は比較的快適だ。
「まず、あまり信じられないことじゃろうが、この世にはお化けとか妖怪のような超常的な怪奇存在が数多くおる!わしらも化け狐じゃしな。そのなかでも人間や他の生物に害をなすようなものもたくさんおるんじゃ」
「ほとんどの人間にはその怪奇存在は見えませんから、何らかの被害として役所や警察に話がいくわけです。でも、役所や警察にいるのは普通の人間ですから、そういった怪奇存在に対抗することはできないんです」
「じゃから、そこでわしらのような怪奇ハンターの出番というわけじゃ。警察などから依頼を受け、怪奇存在を見つけ、懲らしめ、やっつける!そういう仕事じゃ」
二人の話は、今まで怪奇現象など関係ない、普通の暮らしをしていた駆人にとっては少々受け入れがたいものだったが、昨日の大捕り物とこの神社を見た後では、むしろその方が納得がいく。しかし、だからこそ二人の説明に疑問を抱く。
「怪奇ハンターはわかりましたけど、ならなぜそこに僕が必要になるんですか?確かに霊感はあるけど、お化けと喧嘩なんかできませんよ」
「そこじゃ」
天子はびしっと駆人を指さす。
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