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帰ってくるフランス人形
1-4.
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水無月家から歩いて十分程度、睦実の祖父の家にたどり着いた。
立派な庭付きの平屋建ての日本家屋。奈菜の目には豪邸に映った。
「この家にはよく遊びに来てたの?」
「よく、というかはわかりませんが、一月に二回ほどですかね。お祖父ちゃんがうちに来ることも多かったですが」
睦実が錠を開く。数週間前にここに住んでいた祖父が亡くなったということなので今はだれも住んでいない。
家というものは人が住まなくなると、とても早く劣化する。人の生気が家を守るなんて言うのは眉唾だろうが、それでも、この家もなにかすでに寂しげな雰囲気が漂っている。
「主のいなくなった家を探るってのはいい気持ちしないけど。ま、かわいい孫のためだ。許してくれるでしょ」
奈菜は睦実より先に、ズカズカと家の中に入り込む。人の家に入るのが慣れているのはそうだが、それ以上にただ無遠慮なだけである。
家の中はあまり散らかってはいない。家族が片づけたのだろう。
「お祖父さんの部屋はこっちかな?」
「はい。私はあまり入ったことありませんけど」
奥の方の板敷きの部屋がそうらしい。
中に入ってみれば、机などの最低限の家具のみがあるばかり。
「ここってお爺さんが亡くなる前からこんなものだったの?」
「たぶんそうだと思います。まだそこまで本格的に片づけてはいないので」
「なるほどねえ。確かにアンティークは他にはなさそうだ。……ごほっ」
あちこち調べていた奈菜がむせた。舞い上がったほこりが宙に舞っている。
「ちょっとほこりっぽいですね。窓を開けてきます」
睦実は小走りで部屋を出た。その隙に奈菜は机の引き出しを開ける。理由があるとはいえ、あまりいい顔はされないだろうという判断だ。
「大したものは入ってないな。ん?これは、アルバム……」
下の方の大きな引き出しに、豪華な装丁のアルバムがしまってある。
奈菜はやはり無遠慮にそのアルバムを開く。
並んでいる写真は家族の写真だが、先に進むにつれ睦実の物が多くなる。丁寧に並べられ、ページにはいつ撮った物かが分かるようにタイトル付けもされている。
生誕、七五三、小学校の入学式……。しかし高校の入学式のページから先には写真が収められていない。
ただ、タイトルはあらかじめ入れられているようだ。真っ白のページが、どこかものがなしい。
そこで小走りでこちらへ向かってくる足音がしたので、素早くアルバムを元の場所に戻した。こんなことばかりしている気がする。
「開けてきました。これで少しはましになると思います」
「ありがとうね。後この机の上にあるこれって」
奈菜が示す机の上には仰々しい台座がある。この大きさは。
「あ、お人形さんを飾っていた所ですかね」
「多分そうだね。お祖父さんが大事にしてたって話ならこっちに戻ってくるのが自然だと思ったんだけどなあ」
広い家の中をざっくりとではあるが見て回ったものの、やはりこれといった手掛かりはない。
「あのお人形は私のことが嫌いなんでしょうか」
広い畳敷きの部屋で二人で休んでいた所、睦実が口を開いた。
「もしかしたら燃やそうとしてしまったことで私たちを恨んでいるのかも」
「……。そんなことないって」
「じゃあもしかしたらお祖父ちゃんが?本当は私の事が嫌いだったんじゃ」
「……」
立ち上がった奈菜は、涙声の睦実の頭にぽんと手を乗せた。
「そんなこと言っちゃだめだよ。大好きなお祖父さんだったんでしょ?」
「でも……」
「手掛かりはまだある。さっきあの人形の元々の持ち主である友人さんの連絡先が書いてあるメモを見つけた。こっちに当たってみるよ」
「私も……」
「いや、もう遅くなるし、こっちは一人で行くよ」
祖父宅の前で元々の持ち主の下へ向かう奈菜と別れた睦実は、一人家路につく。
自宅につくと、まだ家族は帰ってきていないようだ。戸締りした玄関を開けて、中に入る。
自室に入ると、洋服箪笥の上にはあの人形。祖父の家に向かう時にダイニングテーブルに置きっぱなしにしたはずなのに。
奈菜は悪いものではないとは言っていたが、不気味は不気味だ。布でもかけて目隠しにしようとも思ったが、それはそれでなんとなくかわいそう。
この人形が動いていることは事実だが、善悪はまだ分からない。もしかしたらチャンスを狙って待っているのかも。
しかし、一人で考えていても始まらない。ここは奈菜を信じて待ってみることにしよう。そう考えて睦実はなんとか人形のことは気にしないことにした。
立派な庭付きの平屋建ての日本家屋。奈菜の目には豪邸に映った。
「この家にはよく遊びに来てたの?」
「よく、というかはわかりませんが、一月に二回ほどですかね。お祖父ちゃんがうちに来ることも多かったですが」
睦実が錠を開く。数週間前にここに住んでいた祖父が亡くなったということなので今はだれも住んでいない。
家というものは人が住まなくなると、とても早く劣化する。人の生気が家を守るなんて言うのは眉唾だろうが、それでも、この家もなにかすでに寂しげな雰囲気が漂っている。
「主のいなくなった家を探るってのはいい気持ちしないけど。ま、かわいい孫のためだ。許してくれるでしょ」
奈菜は睦実より先に、ズカズカと家の中に入り込む。人の家に入るのが慣れているのはそうだが、それ以上にただ無遠慮なだけである。
家の中はあまり散らかってはいない。家族が片づけたのだろう。
「お祖父さんの部屋はこっちかな?」
「はい。私はあまり入ったことありませんけど」
奥の方の板敷きの部屋がそうらしい。
中に入ってみれば、机などの最低限の家具のみがあるばかり。
「ここってお爺さんが亡くなる前からこんなものだったの?」
「たぶんそうだと思います。まだそこまで本格的に片づけてはいないので」
「なるほどねえ。確かにアンティークは他にはなさそうだ。……ごほっ」
あちこち調べていた奈菜がむせた。舞い上がったほこりが宙に舞っている。
「ちょっとほこりっぽいですね。窓を開けてきます」
睦実は小走りで部屋を出た。その隙に奈菜は机の引き出しを開ける。理由があるとはいえ、あまりいい顔はされないだろうという判断だ。
「大したものは入ってないな。ん?これは、アルバム……」
下の方の大きな引き出しに、豪華な装丁のアルバムがしまってある。
奈菜はやはり無遠慮にそのアルバムを開く。
並んでいる写真は家族の写真だが、先に進むにつれ睦実の物が多くなる。丁寧に並べられ、ページにはいつ撮った物かが分かるようにタイトル付けもされている。
生誕、七五三、小学校の入学式……。しかし高校の入学式のページから先には写真が収められていない。
ただ、タイトルはあらかじめ入れられているようだ。真っ白のページが、どこかものがなしい。
そこで小走りでこちらへ向かってくる足音がしたので、素早くアルバムを元の場所に戻した。こんなことばかりしている気がする。
「開けてきました。これで少しはましになると思います」
「ありがとうね。後この机の上にあるこれって」
奈菜が示す机の上には仰々しい台座がある。この大きさは。
「あ、お人形さんを飾っていた所ですかね」
「多分そうだね。お祖父さんが大事にしてたって話ならこっちに戻ってくるのが自然だと思ったんだけどなあ」
広い家の中をざっくりとではあるが見て回ったものの、やはりこれといった手掛かりはない。
「あのお人形は私のことが嫌いなんでしょうか」
広い畳敷きの部屋で二人で休んでいた所、睦実が口を開いた。
「もしかしたら燃やそうとしてしまったことで私たちを恨んでいるのかも」
「……。そんなことないって」
「じゃあもしかしたらお祖父ちゃんが?本当は私の事が嫌いだったんじゃ」
「……」
立ち上がった奈菜は、涙声の睦実の頭にぽんと手を乗せた。
「そんなこと言っちゃだめだよ。大好きなお祖父さんだったんでしょ?」
「でも……」
「手掛かりはまだある。さっきあの人形の元々の持ち主である友人さんの連絡先が書いてあるメモを見つけた。こっちに当たってみるよ」
「私も……」
「いや、もう遅くなるし、こっちは一人で行くよ」
祖父宅の前で元々の持ち主の下へ向かう奈菜と別れた睦実は、一人家路につく。
自宅につくと、まだ家族は帰ってきていないようだ。戸締りした玄関を開けて、中に入る。
自室に入ると、洋服箪笥の上にはあの人形。祖父の家に向かう時にダイニングテーブルに置きっぱなしにしたはずなのに。
奈菜は悪いものではないとは言っていたが、不気味は不気味だ。布でもかけて目隠しにしようとも思ったが、それはそれでなんとなくかわいそう。
この人形が動いていることは事実だが、善悪はまだ分からない。もしかしたらチャンスを狙って待っているのかも。
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