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穴を抜けた先は、城の立つ丘の下、城壁の外。雑木林になっている場所だ。なるほどここならだれにも見つからずに外に出ることができる。
「や。無事に出られたみたいだね」
穴から出てすぐ、木の陰から声を掛けられた。思わず体が竦む。
「なに驚いてんの。私だよ、私」
「あ、メリカさん……。何故ここに」
木立から現れた見知った顔に安堵する。しかし、彼女がここにいる理由までは見当がつかない。
「何故って、あなたと一緒に逃げるためよ。こっちも大変だったんだから」
「あ、そうか。メリカさんも一緒に遺跡に行ったから」
「そ。あなたが捕まったあの日にシグちゃんの所にも教皇親衛隊が来てね、一緒に夕飯食べてた私諸共捕まえようとしてきたってわけ」
「それでどうしたんですか」
「明らかに不当な理由で拘束してこようとしてきたから、シグちゃんに伸してもらった。まずいことしちゃったな~、って思ったけど、すぐに王女の使いって人が来て、クリフ君が捕まったから一緒に脱出する用意を、ってね」
「なるほど……。悪いタイミングで呼んでしまいましたね」
「いやいやいや。多分あいつらは私の所にも来るつもりだったでしょ。そしたら私一人じゃ逃げ切れなかったから、むしろラッキーだったかも」
「それなら……」
ひとまずメリカの無事にほっと一息。しかし、ここにいるのは彼女だけだ。
「ところで、シグは? 一緒じゃないんですか」
「城門の前で大騒ぎしてるよ」
「な、なんで」
「そりゃもちろん、あなたの所に王女様を通すためよ。聞いてなかったの?」
「あ」
そういわれれば、タリド達がそのような事を言っていたような気もする。あれは陽動作戦のことを言っていたのか。
「って、それじゃあシグは一人で城の兵を引き付けてるんですか!?」
「いや、王城近衛兵とか王都警備兵の協力者が顔を隠して一緒に騒いでるはず。それでも多くないことは確かだけど。無事だったらそろそろここで合流することになってる」
心配だ。いくらシグと言えど、今の王城には教皇親衛隊が詰めているはず。確かに陽動なら捕縛対象であるシグ本人がやるのが一番効果的だとは思うが、それにしても敵の本拠地で暴れるというのは……。
その心配は、こちらに近寄ってくる軽い足音によって頭から弾き飛ばされた。
「あ、クリフ君! 無事に抜け出せたんだね」
「シグ! そっちこそ」
現れたいつもの軽装の鎧に身を包んだシグは特に怪我もなく、至っていつも通りの雰囲気で近づいてきた。さっきまで命がけの大捕り物を演じていたはずなのだが。
「ちょっと危なかったけど、まあ、なんとかなったよ。協力してくれた人達も鎧とかつけてなかったしバレてないはず」
「それはよかった。けど……」
「そうだね。ここからが一大事だよね」
見事牢からの脱獄には成功したわけだが、本題はここからだ。この王都を脱出するまでは安心も何もありはしない。だが、とてもではないが簡単に外に出られるとは思えない。内郭内は深夜とは言え隠れながら移動できる場所などほとんどないし、外に出るまでには二つの城門を通り過ぎなければならない。
「あ、外郭の東城門が第二の集合場所になってるからそこまで行けば大丈夫だよ」
「そうなんですか」
「うん。協力者はまだいる。外郭門に比べれば内郭門は手薄なはずだから、まだやりようはありそうだよね」
「確かに。それなら通るべき内郭城門は……、近い北かな」
行き先は決まった。計画は立てている時が一番楽しい。実行するのは面倒くさいものだ。
一行は林を抜け、路地裏を用心深く進んでいた。あえて裏をかき、大通りを堂々と歩くという手もなくはないが、如何せん今は深夜だ。しかも、国王が死んだことはすでに国民の知る所となっており、戒厳令が敷かれている。通りには人っ子一人いやしない。
シグが前を、クリフが後ろを警戒し、メリカを挟んでじりじりと進む。
「……。案外、総動員で草の根分けて、って感じじゃないんだな。通りの兵士も時々通るくらいだ」
「そうなんだよね。兵士以外にはまだ国王が殺されたことは伝えられていないから」
「そうなのか」
「うん。だからあんまり大仰に騒ぐわけにはいかないのかも」
それは好都合だ。殺されたことが知らされていないという事は、クリフが犯人扱いされていることも公にされていないという事。巡回の兵士に見つからなければ済むことになる。住民全員の目を逃れなければいけないというわけではなさそうだ。
「なら、少し急ごう。日が昇ればあちらも動きやすくなるはずだ」
居間までよりは少し大胆に、足を速めて内郭北門へ向けて針路をとる。
そしてたどり着いた城門。平時であれば二十四時間常駐している見張りは王都警備兵のはずだが……。
「ダメだね。教皇親衛隊に見える」
流石に抜かりはないと言った所か。流石に教皇親衛隊ともなれば顔を隠した程度ですんなり通してくれるとは思えない。
「壁をよじ登るとかは」
「勘弁してよ……」
そんなことができるのはシグだけだ。クリフも時間と道具があれば何とかなるかもしれないが、メリカにそんな芸当はできない。
「どうしたものか……」
「見つかっちゃダメだと考えるからいけないんじゃない?」
「え? シグ、お前まさか……」
「えへへ」
その不敵な笑顔からは、いつものあどけなさが消えていた。
「や。無事に出られたみたいだね」
穴から出てすぐ、木の陰から声を掛けられた。思わず体が竦む。
「なに驚いてんの。私だよ、私」
「あ、メリカさん……。何故ここに」
木立から現れた見知った顔に安堵する。しかし、彼女がここにいる理由までは見当がつかない。
「何故って、あなたと一緒に逃げるためよ。こっちも大変だったんだから」
「あ、そうか。メリカさんも一緒に遺跡に行ったから」
「そ。あなたが捕まったあの日にシグちゃんの所にも教皇親衛隊が来てね、一緒に夕飯食べてた私諸共捕まえようとしてきたってわけ」
「それでどうしたんですか」
「明らかに不当な理由で拘束してこようとしてきたから、シグちゃんに伸してもらった。まずいことしちゃったな~、って思ったけど、すぐに王女の使いって人が来て、クリフ君が捕まったから一緒に脱出する用意を、ってね」
「なるほど……。悪いタイミングで呼んでしまいましたね」
「いやいやいや。多分あいつらは私の所にも来るつもりだったでしょ。そしたら私一人じゃ逃げ切れなかったから、むしろラッキーだったかも」
「それなら……」
ひとまずメリカの無事にほっと一息。しかし、ここにいるのは彼女だけだ。
「ところで、シグは? 一緒じゃないんですか」
「城門の前で大騒ぎしてるよ」
「な、なんで」
「そりゃもちろん、あなたの所に王女様を通すためよ。聞いてなかったの?」
「あ」
そういわれれば、タリド達がそのような事を言っていたような気もする。あれは陽動作戦のことを言っていたのか。
「って、それじゃあシグは一人で城の兵を引き付けてるんですか!?」
「いや、王城近衛兵とか王都警備兵の協力者が顔を隠して一緒に騒いでるはず。それでも多くないことは確かだけど。無事だったらそろそろここで合流することになってる」
心配だ。いくらシグと言えど、今の王城には教皇親衛隊が詰めているはず。確かに陽動なら捕縛対象であるシグ本人がやるのが一番効果的だとは思うが、それにしても敵の本拠地で暴れるというのは……。
その心配は、こちらに近寄ってくる軽い足音によって頭から弾き飛ばされた。
「あ、クリフ君! 無事に抜け出せたんだね」
「シグ! そっちこそ」
現れたいつもの軽装の鎧に身を包んだシグは特に怪我もなく、至っていつも通りの雰囲気で近づいてきた。さっきまで命がけの大捕り物を演じていたはずなのだが。
「ちょっと危なかったけど、まあ、なんとかなったよ。協力してくれた人達も鎧とかつけてなかったしバレてないはず」
「それはよかった。けど……」
「そうだね。ここからが一大事だよね」
見事牢からの脱獄には成功したわけだが、本題はここからだ。この王都を脱出するまでは安心も何もありはしない。だが、とてもではないが簡単に外に出られるとは思えない。内郭内は深夜とは言え隠れながら移動できる場所などほとんどないし、外に出るまでには二つの城門を通り過ぎなければならない。
「あ、外郭の東城門が第二の集合場所になってるからそこまで行けば大丈夫だよ」
「そうなんですか」
「うん。協力者はまだいる。外郭門に比べれば内郭門は手薄なはずだから、まだやりようはありそうだよね」
「確かに。それなら通るべき内郭城門は……、近い北かな」
行き先は決まった。計画は立てている時が一番楽しい。実行するのは面倒くさいものだ。
一行は林を抜け、路地裏を用心深く進んでいた。あえて裏をかき、大通りを堂々と歩くという手もなくはないが、如何せん今は深夜だ。しかも、国王が死んだことはすでに国民の知る所となっており、戒厳令が敷かれている。通りには人っ子一人いやしない。
シグが前を、クリフが後ろを警戒し、メリカを挟んでじりじりと進む。
「……。案外、総動員で草の根分けて、って感じじゃないんだな。通りの兵士も時々通るくらいだ」
「そうなんだよね。兵士以外にはまだ国王が殺されたことは伝えられていないから」
「そうなのか」
「うん。だからあんまり大仰に騒ぐわけにはいかないのかも」
それは好都合だ。殺されたことが知らされていないという事は、クリフが犯人扱いされていることも公にされていないという事。巡回の兵士に見つからなければ済むことになる。住民全員の目を逃れなければいけないというわけではなさそうだ。
「なら、少し急ごう。日が昇ればあちらも動きやすくなるはずだ」
居間までよりは少し大胆に、足を速めて内郭北門へ向けて針路をとる。
そしてたどり着いた城門。平時であれば二十四時間常駐している見張りは王都警備兵のはずだが……。
「ダメだね。教皇親衛隊に見える」
流石に抜かりはないと言った所か。流石に教皇親衛隊ともなれば顔を隠した程度ですんなり通してくれるとは思えない。
「壁をよじ登るとかは」
「勘弁してよ……」
そんなことができるのはシグだけだ。クリフも時間と道具があれば何とかなるかもしれないが、メリカにそんな芸当はできない。
「どうしたものか……」
「見つかっちゃダメだと考えるからいけないんじゃない?」
「え? シグ、お前まさか……」
「えへへ」
その不敵な笑顔からは、いつものあどけなさが消えていた。
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