上 下
88 / 116

第88話 ブティックへ。

しおりを挟む
「じゃぁまずは、買い物に着ていく服ね。クローゼットにいろいろあるから、持ってくるわ。でもサイズが合わないかしらね。」

 うん、僕の魔法の出番だ。

「あ、あの茜さん、僕の魔法で服のサイズ直せます。」

「あら、便利ね。それじゃぁ好きな服選んでもらってから、あとであたるくんにサイズ直してもらいましょう。」

「あの、あとですね。物の複製ができるので、元の服はそのまま置いておけます・・・。それと・・・服とか新品に戻せます。」

 流石にこれらの魔法には茜さんも口をポカンと開いている。ですよね~、チート過ぎますよね。というか僕的には異世界と日本を転移しているほうがよほどチートだと思うんだけど、そこらいは茜さんあまり気にしてないようだ。

「わ、わかったわ。それっていろいろ直せるわけ?」

 なにかいろいろ直してほしいものがあるのかな、人間関係は無理だからね。物品はほぼすべて直せることを説明した上で、茜さんが着ている服に<リペア>をかけて確認してもらう。驚いてる驚いてる。でもせっかくのチート魔法で衣服修理ばかりとかないよなぁ。もっと派手に使ってもいいんだけどな。

 茜さんはさっさとエレナとスベトラを連れてクローゼットのある寝室に行ってしまった。こういう時は待つしかないね。

 かれこれ30分ほど経つ。ただ買い物するのに着ていく服に、なぜこんなに時間がかかるのだろうか。しかも買うものは服。寝室の方からは、『これ可愛いわよ~』とか『うんうん、これなら似合う』とかの声が漏れては来るのだけれども、決めて出てくる気配が無いんだよね。可愛かったり似合うのならもうそれでいいのではないだろうか。

「おまたせ~。」

 彼女たちが出てきたのは結局1時間が経った頃だった。手にはそれぞれ数着の服を持ち、さらに茜さん以外はサイズの合わない服を着用してる。この人たち、今から服を買いに行くのを忘れているのか・・・。いや、言わないでおこう。しかしこの女性の部屋特有の香りというか、姉の部屋もこんな香りがしてたな。いい香りと言えばいい香りなんだけど、香っているだけで気恥ずかしくなるよな。まあ今はそのことはいいや。

「それじゃ複製する服はどれですかね?」

 というか茜さんも持っているんだけどそれは何?

「それじゃまずすべてを<リペア>で直してね。それから複製しなくていいから、<リペア>とサイズ合わせお願いね。私の持っている服もリペアで。サイズ合わせは・・・あとでいいかな。」

 まあ服着てもらわないとサイズ合わせは難しいからね。まさか男性である僕の目の前で次々着替えるわけにもいくまい・・・エレナとスベトラは気にしないかもしれないけど。

「ではまず、<リペア>する服を適当に並べてください。広げなくても大丈夫です。僕が一着の服と認識出来れば問題ありませんから。」

 畳んだ状態の服が床に並べられる。ひとり当たり5着ずつ、計15着か。一気にやって失敗すると後が怖そうなので、ひと山を一気に<リペア>するのは今回は避ける。一着ずつ順に魔法をかけていくと、あきらかに服の状態が変わっていく。色褪せとかだけでなく服のよれやシワも消えていく。もちろんそれぞれが着ている服にもかける。

「終わりました。サイズ合わせはまた機会があるときに。今は着ている服だけサイズ合わせますから、いい感じになったら言ってください。えっと・・・茜さん、その、ふたりの服、どういうサイズがいいのかわからないので、指示してもらえますか。」

「わかったわ。ふたりとも少しタイト目のワンピースだから・・・スカートはフレアだから尻尾も目立たないわ。え~と、それじゃまずはエレナちゃんからね。スカート部分を少し短くして、あとは・・・」

 茜さんの指定通りに長さや肩幅、ウエスト、ヒップ周りなどのサイズを合わせていく。けっこうスムーズだ。模様もいびつにならないということは、単なる伸縮じゃないのかな、この魔法。

 ほんの数分でエレナとスベトラの服と帽子の調整が終わる。ものすごく満足そうだ。女の子は生まれとか関係なく服装に対してはやはり可愛いとか綺麗なのが好きなのだろうか。茜さんの服は特にサイズ合わせは必要ないらしい。そのかわり、また寝室に行っていくつかのバッグとかあとは時計を持ってきた。

「あたるくん、このバッグに<リペア>かけてくれる。気に入っていたのだけれど、いつも使っていたからよれよれになっちゃって・・・。あと、この腕時計と・・・あとねこのスマホもよろしく。」

 はいはい。もう何でも持ってきてください。目の前に並べられたそれぞれに<リペア>をかけ、一瞬で新品状態になる。スマホに至っては、バキバキに割れたガラス面が奇麗になっていてわかっていても驚きだ。茜さんもエレナとスベトラもみんな満足そう。

「あの、複製はしなくてもいいの?」

「さすがにそれは気が引けるわ。エレナちゃんとスベトラちゃんにも私の服をプレゼントしてあげたいじゃない。複製しちゃうと、なんだか有難味がなくなるでしょう。」

 まあ、それは僕もそう思う。

「それじゃせっかくの服だから、<セーブ>かけておくね。これで破れたり汚れたりしないからね。汚れだけならエレナも<クリーン>で綺麗にできるだろうけど。」

「なによそれ、ものすごく便利じゃない。それに洗濯代が浮くわ。」

 一応身体にも使えるけどこれも今は言わない。じつはさっきエレナとスベトラにはかけておいた。しかし茜さんの着眼点は庶民的でこういうところは安心できて好きかも。

「あとは靴かしら。それじゃ出かけるからみんな、付いてきてね。玄関で靴だけ合わせるわよ。」

 ものすごく茜さんノリノリだけど、まだ言語の問題があるからね。茜さんに説明して、異世界組に<トランスレート>をかけておく。<リーディング>は技術的な異世界にとってのオーバーテクノロジーな本などにふたりが興味を持たないよう、今回はかけない旨を茜さんにも伝えておいた。外でも、見た目は外国人だから、話せても読み書きできなくても違和感はないだろう。

 玄関でそれぞれ選ばせた靴のサイズ合わせを終え、いよいよ街に繰り出す。エレナとスベトラがカルチャーショックを受けないように、事前に寝室で茜さんがレクチャーはしたそうだ。エレナは写真で都会の空撮見たことあるしな。

 4人並んで行進というわけにはいかず、僕と茜さんが並んで、その前を異世界組の少女たちが歩く。歩道の人たちだけでなく、車道の車からもみんなエレナとスベトラを見ている。そりゃそうか。ふたりとも外国人モデルのように可愛いからな。異世界側ってなぜか美形が多いからあまり気にしてなかったけど、日本で見ると段違いだ。腰の高さも全然違うし。

 ついニヤニヤして周りをきょろきょろと珍しそうに見回しながら歩く二人を後ろから眺めていたら、茜さんから肘鉄を食らった。

「あたるくん、あなた隣に女性が居るんだから、ちゃんとエスコートしなさいよ。それい彼女たちは妹でしょ。そんな顔で見ないの。」

 いやいや、どんな顔してたんですか僕。想像ではこう、お父さんのような包容力のある笑みだと思うんだけど。肘鉄食らうような顔してたわけ?

「まるでこの前テレビで見たメイドカフェでメイドさんに『おいしくな~れ』ってオムレツにケチャップでハートマークをかいてもらってた中年のおじさんのような顔してたわよ。」

 どういう具体的な例えだよ・・・。22歳の青年に中年のおじさんって・・・。僕マジでそういう顔してたの?・・・スベトーラ地区でコンデジで写真撮っているときとか・・・。いや今は考えるのはよそう。こんどエレナに判定してもらおう。

「ひどいですよ、茜さん・・・。」

「だって、他に表現する言い方が無かったのだもの。」

 そんなこんなでじゃれているうちに、駅前に到着。もうここからは茜さんに全権委任して、僕は財布に徹する。エレナは店員さんを伴って試着は流石に出来ないだろうから、サイズ合わせとかは家に帰ってからでいいし、今回はなるべく時短でお願いしたい。

「それじゃ僕は店の前で待っているから、会計の時に声かけてください。」

 あ、茜さんだけじゃなく、エレナとスベトラもむくれている・・・。これはあれか、茜さんが言ってたように、『似合うよ』とか『かわいいよ』とか選ぶたびに言わなきゃいけないやつか・・・。もう店の商品全部インベントリの中に複製して帰りたいよ。

「それじゃこのお店が、中高生に人気のブティックらしいから、行くわよ。あたるくんの大切な妹たちの服選びなんだから、ちゃんと見てあげなさい。私も手伝うから。」

 再び1時間を少し超える服選びとなった。まあ、ほんとに二人は可愛いから良いんだけど、男ひとりが女の子というか女性ばかりの店の中を3人の女性に連れまわされるのは、拷問でしかない。

 せめて可愛いお姉さんと二人っきりというシチュエーションならば、まだ許せるというか、体験したいくらいなんだけど。茜さん、睨まないで・・・なぜ考えていることが見透かされている気がするんだろうか。いや、見透かされてるよこれ。

「どうせ空想で可愛い女の子とデートならいいなぁ、とか思ってたでしょ。ふたりともものすごく可愛いじゃないの。」

 はい。見透かされてました。でも二人はどの服着ても茜さんの言う通り可愛いからいいじゃないですかね。似合ってると可愛いしか言いようがないし。ふたりがそれぞれ選ぶ服に茜さんの指摘通りのセリフを投げかけた結果、それぞれ10着の服を購入することとなった。あと靴3足ずつとバッグと帽子2つずつ。

 エレナはけっこう清楚な感じで、スベトラは僕っ娘らしく、ボーイッシュな服をそろえている。試着もせずに豪胆に買い物をする僕たちを店員さんたちが驚きをもって見ているけど、もうそんなのはどうでもいいわ早く退散したい。

 結局お会計で大金貨1枚分の出費だった。いやそう考えると安いのか?いやいや、ここでは大金貨じゃないからね。日本円だから。とにかく僕のカードですべて支払い、インベントリも使えないから大荷物まで持たされることになった。

 さらに・・・クレープやらアイスクリームやらさまざまなスイーツの食べ歩きに発展して、茜さんのマンションに帰ったのは午後6時過ぎ。まあ、夏場だからぜんぜんまだ陽は高いけどさ。肉体も疲れたけど、精神が最も疲れたよ。

 帰って早々に二人が購入したバッグにインベントリを付与して、魔石をキーホルダーに加工して取り付け、購入した服や茜さんに頂いた服を収納させる。なんだかとても便利なんだけど、今までのどんな魔法の使い方より間違っている気がする。
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

ダンジョン・ホテルへようこそ! ダンジョンマスターとリゾート経営に乗り出します!

彩世幻夜
ファンタジー
異世界のダンジョンに転移してしまった、ホテル清掃員として働く24歳、♀。 ダンジョンマスターの食事係兼ダンジョンの改革責任者として奮闘します!

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

処理中です...