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第49話 領都ジャジル。

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 空路とはいっても、一旦サルハ近郊までは転移、そのあと空路なので、ジャジルへの飛行は思ったより短時間だ。のんびり飛んでも、1時間ほどなので散歩気分で飛ぶ。高度も50mほどに落としているので、地上はすぐそこ。それでも高いけどね。僕が先日通ったときには出会わなかった商人や冒険者も行き来している。ジャジル近郊では、透明化解除するところを人に見つからない着陸地点を探さないとな。

 眼下には盗賊も居ないし、魔物に襲われている人もいない。平和だ。街道の真上を飛んでいるからだろうけどね。そういや、あの盗賊さんたちはどうしただろう。無事にお亡くなりになっただろうか。飛行中はほぼ会話もないし、透明化によって猫耳も窺えない。ぎゅっと握り返される手だけ離さないようにしながら、あとは景色を眺めるだけ。

 のんびりとした飛行で予定通り1時間ほど飛んだ頃、ジニム辺境伯領の領都ジャジルの街壁が見えてくる。でかい。顔が見えて居れば、きっとエレナさんはあんぐりと口を開けているだろう。街壁から4kmほどの距離になったので、

「そろそろ下に降りますよ。」

 と、声をかけて街道からちょっと離れた人気のない場所に降りた。ここからは徒歩となる。街から距離を取ったのは、本で読んだ、魔力を感じることができる高位魔法使いへの念のための対策。ここから1時間はのんびり歩く。飛ぶのも歩くのものんびり。だけど、数百キロの距離が転移と飛行で2時間程度というあまりのチート具合に、エレナさんの口はやはりあんぐりと開いていた。

「空では、アタールさんの顔が見えなかったので、とても不安でした。」

 気をとり直すなり、エレナさんはそんなことを言う。練習のときは短時間だったからね。それで握り返す手が力強かったのか。

「空から見ましたが、あんなに大きな街に行くのは初めてです。」

 何かと興奮している感じかな。矢継ぎ早に、飛行の感想や、遠目に空から見たジャジルの街への感想を語っているけど、僕も大きな街はこっちの世界では初めてだし、ジャジルの街も初めて。そもそも、ついこないだまでサルハの街の中しかほとんど知らなかったし、今でも知っているのは上空から見た景色だけだし。

 街門が近づいてきたので、冒険者のギルドカードを首にかけ、革鞄の中に依頼の書類と念のために結界守の村の紹介状を用意しておく。入門待ちの最後尾はもうすぐそこ。並んでいるのは、ほとんどが商人さんの馬車のようだ。時折、馬車の付き沿うように冒険者の恰好をした方々が居るけれど、護衛だろう。

 手持無沙汰になるかなと思っていたけれど、列の進みは思ったより早い。数分で僕たちの番が回ってきそうだ。相変わらずエレナさんは珍しそうに辺りをきょろきょろと見回している。もうちょっと落ち着こうか。というか、なぜずっと手を繋いでいる?あまりの違和感のなさに、僕も今気づいたわ。はっ、僕の免疫力が高まっているのか?エレナさんはワクチン?あ、手を離した・・・。

「あの、アタールさん、順番のようですよ。」

 いかんいかん。僕は冒険者ギルドカードを提示して、依頼の件を告げる。

「アタール様、こちらへどうぞ。」

 また様付け・・・。門番さんが、すごく丁寧に詰め所に案内してくれているのだけど、普通に通してくれればいいのだけど。そしてエレナさんも何の説明も必要とせず、一緒に詰め所に案内された。

「申し訳ありません。先ぶれに伝令を出す必要がありますので、こちらに一旦ご案内させて頂きました。」

 あの、門番さん丁寧すぎるって。僕がエレナさんにジト目で見るれてるからね。きっと、何様?みたいな感じで思われてるよ。

「ありがとうございます。しかしすぐ赴くわけではなく、衣服を整えますので、買い物も必要なのです。」

「それも存じております。アタール様が、その、何と言いますか、簡素な装いで出立なされたというのもお聞きしておりましたので。それに領主様よりアタール様と御一行様には便宜をはかるようにと承っておりまして、今から担当のものが、服屋にご案内させていただきます。」

 御一行様ってなんだよ。サルハの街を出るときひとりだったの知ってるよね。あ、代官様が気を利かせて、スラム地区の冒険者の同行の可能性も知らせてたのかな。まあ・・・いいや。

「それでは、あちらが担当になりますので。」

 示された先には、女性の衛兵らしきお姉さんがいらっしゃった。凛々しくて部分鎧がめちゃめちゃカッコイイ。ボンキュッボンだし。ビキニアーマーとかではないけれど、エレナさんが居なかったら、写真撮影させていただきたかった・・・。エレナさんそんなジト目で見ないで・・・。

「こちらがアタール様だ領主様のお客人だから、決して失礼の無いようにな。」

 いや、書類のお届け依頼だから。お客様はご領主様だから。詰所の中だったから目立たなかったけれど、外では絶対やめてくださいね。

「それではご案内します。案内役を務めさせていただく、アナスタシアと申します。」

 どこのお姫様だよ、と、心の中での突っ込みも誰にも気づかれることなく、お姉さん衛兵が案内してくれることになった。僕たちはその後を付いて行く。あ、外でももうひとり待っていた。ふたりも案内いらないのでは?あ、今度は服屋からの先ぶれ要員か。もう、ジニム辺境伯領に来てからとうもの厚遇がとまらない。ほんと結界守の村のご威光は半端ない。アワアワしているエレナさん可愛い。

 けっこう高級そうな服屋に案内され、服を選ぶ。アナスタシアさんによると、既製服なので、そんなに高くないとのことだったが、それって金持ち基準じゃね?まあ僕、金持ちだけども。エレナさんは最初遠慮していたけど、僕に同行するのだから、身だしなみは大切と説得すると、今度は積極的に店員さんと服選びを始めたので、最低でも3着は選ぶように言っておいた。店員さんに小さな声で「本人が気づかないようなら下着も買うよう言ってください。」と耳打ちするのも忘れなかった。

 僕の服は店員さんのセレクトにより、平民というより、ちょっと金持ちの商人が着るような洒落た服が2着となった。既にエレナさんの合格も貰っている。エレナさんも店員さんたちに着せ替え人形にされながら、3着が決まったようだ。あっちの袋は下着だろうな。その中からそれぞれ1着、領主様訪問のために今の服と着替えておく。エレナさん、どこのお嬢様かな?僕も何とか、馬子にも衣裳程度にはなっている・・・と思う。微妙?

 アナスタシアさんが、もうひとりの衛兵さんを先ぶれに出したので、会計しようと店員さんにお願いすると、既に領主様からあとで請求するよう言われているとのこと。再びエレナさんのジト目。お嬢様がそんな目をするんじゃありません。

「私はここまでで失礼させていただきます。」

 店を出るとなんかすごく高そうな馬車が待っていた。アナスタシアさんとは世間話することもなく、お別れすることになり、今度は馬車で領主菅に向かう。走ること十数分。領主館というか、お城に到着し、そのまま門を馬車のまま通過。今、エレナさんだけではなく、僕もアワアワしている。

 正面玄関らしきところで、馬車から降ろされたんだけど、お城の正面玄関で迎えられちゃってもいいの?というか、ものすごい数の使用人さんというか召使いっぽい方々が並んでいらっしゃるのだが・・・。もう、開き直って、流れに身を任せるしかないよね。僕たちはふたりしてアワアワがとまらない状態。あ、本物っぽいセバスチャンが来た。

「アタール様にエレナ嬢、お待ち申し上げておりました。それでは、謁見室にご案内する前に、控室にお通しさせていただきます。私、家令のアンドレイと申します。どうぞこちらへ。」

 エレナの名前までもう伝わってる。まあ、服屋から先ぶれが出たから、あたりまえか。さすがにこういう状況の基礎知識は、僕は当たり前に持っていないし、エレナにも無い。この待遇はなんだ、罠か?罠なのか?

「アタール様、こちのお部屋へどうぞ。あとは控室の召使に説明させます。何か気になるようなことがあれば、召使にお申し付けください。それでは失礼します。」

 豪華な調度品に彩られた控室で、疑念を抱きながらアワアワする僕たちふたり。今日は普段の謁見とは違いますから、普段通りで結構と賜っております。との召使さんの謁見の説明を聞いたけど、いや、頭に入らないし。

「コンコン」

 僕たちが入ってきた扉とは違う扉がノックされたので、召使さんの案内でその扉に向かう。ドキドキが止まらない。いや、アワアワが止まらない。開き直りという心の準備もできないまま、目の前の扉が開かれた。
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