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「あっ、私、あのマンションに住んでるの」
里菜先輩が少し離れたところに見えるマンションを指差す。

落ち着きのある外装のマンション。結構高級そうに見える。

「里菜」と背後から女性の声がした。

振り返ると小柄の女性がいた。30代の女性で顔が里菜先輩に似ている。

既視感を感じる。回想に出てきた女性だ。陽菜の母親だ。

「お母さん」

「どうしたの?」

「ちょっとね、腰抜かしちゃったの」

「腰を抜かした・・・」
母親はどういうこと?という感じで僕を見る。

「こんにちわ」

「こんにちわ」

「お久しぶりです。鮎川光です」

「・・・あっ、あのとき、ひ・・・里菜を助けてくれた男の子」
母は思い出して言う。

「そうです」

「ありがとう。また里菜を助けてくれて」
母親は微笑む。

「いえ」

「光くんにはお礼をしなくちゃいけないわね」

「お礼なんていいですよ」

「そうはいかないわ。2度も娘を助けてくれた恩人に何もお礼もしないなんてバチが当たるわ。ねっ、里菜」

「うん。光くん。ぜひ私の家に寄っていって。お礼がしたいの」

「・・・」

「光くん、お願いよ。私達にお礼をさせて。ねっ」
母親が懇願するように言ってくる。

「・・・わかりました」

「光くん。ありがとう」
母親が本当に有り難いという感じで言う。

「ありがと。光くん。これでやっとお礼ができるよ。ずっとお礼したいと思ってたから」

「そうなんですか?」

「うん。子供の頃からずっとお礼したいと思っていたの。じゃあ、私の家に行きましょうか。このままおんぶされて」

「里菜は甘えん坊ね」
母親が笑う。

「まだ腰が抜けてるのよ」

「本当かな?」
母親が疑う。

「お母さん。娘を疑うなんて酷い」

「ごめんごめん。光くん、重かったら言ってね。代わるから」

「大丈夫です」

「そうよ。光くんは体力あるし、私を軽いと思っているから大丈夫なの」

「子供みたいな体だもんね」

「お母さんに言われたくないよ。大人なのに子供みたいな顔と体のお母さんだけには」

「光くん、こんな子供みたいな女の子をおんぶしていても面白くないでしょ?」

「そんなことないですよ」

「そうよ。光くんはロリコンだからそんなことないんだよ」

「ロリコン・・・」
母親の動きが止まる。

里菜先輩!何言ってんだよ!母親の前で!

「そうなんだ。光くん、ロリコンなんだ。私の夫と同じだね」
母親は笑って言う。

夫がロリコンだと・・・。

「私みたいな幼児体型の童顔を好きになったんだよ。夫は。ロリコンでしょ。まあ、私以外の女の子は好きにならなかったけどね。光くんもそういうタイプのロリコンでしょ?」

「・・・」

「まさか、女の子なら見境なく好きになるロリコンじゃないよね」
母親は疑惑の目を僕に向ける。

「まさか。僕も里菜先輩のお父さまと同じタイプのロリコンですよ」
僕は慌てて言う。

「そうよね」
母親は笑顔を浮かべる。

「私は光くんがどんなロリコンでも愛する自信あるけどね」

「・・・」

「里菜は本当に光くんが好きなのね」
母親が微笑む。

「うん。大好きだよ。だって私を助けてくれた王子さまだもん。大好きになるのは自然な流れでしょ?」

「そうね。光くん。娘をよろしくね」

「えっ?」

「娘を幸せにしてね」

「えっ?えっ?」

「冗談よ」
母親は笑う。

里菜先輩も笑う。

「止めてくださいよ」

「ごめんなさい」
母親は笑いながら言う。

高橋家はマンションの3階にあった。

広いリビングに案内され、椅子に座る。

里菜先輩が料理を始める。

リビング・キッチンなので里菜が料理をしている姿が見える。

手料理が里菜のお礼だった。いつか僕にお礼として手料理をご馳走するために子供の頃から料理の勉強をしていたという。勉強していたというだけあって里菜の手際はよかった。あっという間に料理を作ってしまう。

里菜が作ってくれた料理はオムライスだった。僕がオムライスが食べたいと言ったのだ。里菜が何が食べたいと聞いてきたとき、頭に浮かんだのがオムライスだったのだ。

里菜のオムライスを食べる。

里菜が期待と不安の入り混じった表情で僕を見ている。

「美味しい」
本当に美味しい。プロが作ったみたいだ。

「ホント?」

「ホントです。すごく美味しいです」

「よかった。マズイって言われたらどうしようって思ってたから」

「このオムライスを食べてマズイなんて言う人いませんよ」

「そう?」

「そうです」

「へへっ。将来、お店でも開こうかな」
里菜先輩は照れくさそうに言う。

「きっと人気店になりますよ」

「人気店か・・・人気店じゃなくてもいいからお店は開いてみたいな。私ね、憧れがあるの」

「どんな憧れですか?」

「夫婦でお店を経営すること。人気店じゃなくてもいいから大好きな人とお店を経営すること。それが私の憧れよ」

「素敵な憧れだと思います」

「ありがと」里菜先輩は微笑む。「ごめんね。重荷になるような話をして。私はね、光くんに私の思いを覚えておいてほしいだけなの。どんなときでも私は光くんを好きだってことを。光くんが人生に失敗しても私だけは光くんのことを好きだってことを。ただそれだけなの」

「はい」

僕のことを一途に愛してくれる里菜先輩の気持ちが嬉しかった。女の子にこんなにも愛されるのは初めてだったから本当に嬉しかった。

できるなら僕も里菜先輩だけを一途に愛したいと思う。でも、杉浦さんを好きな気持ちとさっきの回想が気掛かりで里菜先輩だけを愛することができない。

回想に登場した陽菜。陽菜が里菜先輩の妹ならこのマンションで一緒に暮らしているはずだ。

僕は陽菜のことを聞きたかった。でも聞けなかった。聞いてはいけないことのような気がしたからだ。聞けないまま帰る時間になってしまった。

結局、聞きたいことを聞けないまま自宅に帰った。もちろん陽菜に会うこともできなかった。


次の日。僕はいつもどおり学校に行く。

校門のところで里菜先輩に出会う。

「里菜先輩、おはようございます」

「里菜先輩?光くん、何言ってるの?私は陽菜だよ。陽菜先輩だよ」

「・・・」

里菜先輩は笑う。「光くん、寝ぼけてるのね。夜ふかししたんでしょ。夜ふかしして何してたの?」

冗談を言っているのか?でも冗談を言っているようには見えない。

「陽菜、おはよう」

「あっ、美晴、おはよう」

里菜・・・いや、陽菜先輩の友達のようだ。文学少女のような女生徒だ。陽菜先輩よりも背が10センチぐらい高い。

「光くん、紹介するね。この子は私の幼馴染の飯島美晴」

「よろしく」
美晴はクールに言う。

「よろしくです。僕は一年の鮎川光です」

「知ってるわ。陽菜にうんざりするほどあなたのことを聞かされたからね」

「うんざり・・・羨ましいの間違いじゃないの」
陽菜先輩はからかうように言う。

「先行くわ。2人の時間を邪魔したくないから」

「あっ、待ってよ。光くん、先行くね。バイバイ」
陽菜先輩は美晴先輩の後を追いかける。

確かに陽菜と言った。美晴先輩も里菜先輩のことを陽菜と言った。

どういうことなんだ?

わからない。
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