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第7話 縛られた肉
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「何ですかねこれ」
「さあ」
「これって不審死ですかね」
「かもしれないな」
アキと環は二人、ベルトコンベヤの上に寝そべった人型の前で立ち尽くしていた。
二人はこれを人間と言い切れる自信が無かった。形自体は成人男性、環とそう変わらないぐらいの背丈のマネキンのような何かだ。
然しながら、人と形容するには些か歪な形をしている。マネキンに血管……もっともアキも環も直接見たことはないが、赤い贓物の管をぐるぐると巻き付けて体の上から更にもう一枚人の形を成形したものがベルトコンベヤの上に仰向けにそべっている。
「だんだん難易度上げてきてる感じがなんだかちょっと嫌らしいですね」
「何が」
「ダメな人はダメじゃないですかこういうの」
確かにと環は頷いた。
普段新しい物や珍しい物が流れてくると触りたがるアキも今回ばかりは手を伸ばすこともなく環の隣でじっと人型を見下ろしていた。
管の大きさは均一ではないし、一見すると巻き方に法則性もない。ベルトコンベヤは液体や泥で汚れることはなく、この人型も体液で濡れているわけではない。呼吸もしていない。さながら作り物の趣味の悪い人形のようだ。
それでも何となくそれが人間だと分かるのは頭部、胴、両手足といったパーツの類がはっきりと区切られていたからだった。それでいて指や目のくぼみといった細部まで表現されている。
「こういうのスパゲッティシンドロームって言うんですっけ」
「何処かに繋がれているわけではないな」
「実物は見たことないけど、なんだかミイラみたいですね。これって死体ってことでいいんでしょうか。それとも趣味の悪い人形?」
「どちらでもいいんじゃないか」
これが不審死を遂げた遺体だとしたら、今までに目にした不審死は三体目になる。
先日の土と草に塗れた何かもカウントするのであれば四体目だ。アキは死体かもしれない何かと対面しているというのに驚きも緊張もしない、それどころか冷静なまま歩み寄ってそれが何であるのか気になってばかりいる自分に気付いた。
これが都会の人間特有の麻痺というものなんだろうか──死体と戦争では話が別?だとしたら自分も都会に染まってきていると言えるのかも。
アキが隣の環をちらりと盗み見ると彼は黙って人型を見下ろし、物思いに耽っている。想像通り彼にとってもこれは心を揺り動かすほどのものではないらしい。
「でも私、いつかこういうのが出てくるとは思ってたんですよ」
「悲観的だな」
「悲しんでいるわけではないですよ。あんだけお金が貰えて、現状目立った危険も無いというのに綺麗なものばかり出てきたら逆に怪しいです」
そういうものなのか──環は呟いて席に戻っていく。
環がこれは記録をすることにアキは少しだけ安心していた。レインコートや石のような一見して物が何か分かるもの、その上でその状態を言語化出来るものにはコレは到底当てはまらない。
赤い管が人間のようなものをぐるぐる巻きにして覆っている、とは書けそうになかった。環がこれに対してどのような文章を書いているかは分からないし、自分が書いたところで社員からダメ出しされるようなことは無いのだろうが……何となく恥ずかしいというのがアキの心境であった。
記録係でない時にすべきことがあるとすれば記録係にモノの状態を尋ねられたら確認する……という程度の仕事しかないが、環が記録を行う時に呼ばれた事は一度も無い。アキはふと自分が記録をする際に何度も彼に話しかけていることに気付いた。
本来であれば一々そこまで真面目にやる必要もないのだろうが、そうして彼に何度も話しかけるのは彼との話題が途切れるのが怖いと感じているから?沈黙が嫌いだから?
人型を覆う管の一本一本の分け目を数えながらアキは漠然と時間を潰していた。
「さあ」
「これって不審死ですかね」
「かもしれないな」
アキと環は二人、ベルトコンベヤの上に寝そべった人型の前で立ち尽くしていた。
二人はこれを人間と言い切れる自信が無かった。形自体は成人男性、環とそう変わらないぐらいの背丈のマネキンのような何かだ。
然しながら、人と形容するには些か歪な形をしている。マネキンに血管……もっともアキも環も直接見たことはないが、赤い贓物の管をぐるぐると巻き付けて体の上から更にもう一枚人の形を成形したものがベルトコンベヤの上に仰向けにそべっている。
「だんだん難易度上げてきてる感じがなんだかちょっと嫌らしいですね」
「何が」
「ダメな人はダメじゃないですかこういうの」
確かにと環は頷いた。
普段新しい物や珍しい物が流れてくると触りたがるアキも今回ばかりは手を伸ばすこともなく環の隣でじっと人型を見下ろしていた。
管の大きさは均一ではないし、一見すると巻き方に法則性もない。ベルトコンベヤは液体や泥で汚れることはなく、この人型も体液で濡れているわけではない。呼吸もしていない。さながら作り物の趣味の悪い人形のようだ。
それでも何となくそれが人間だと分かるのは頭部、胴、両手足といったパーツの類がはっきりと区切られていたからだった。それでいて指や目のくぼみといった細部まで表現されている。
「こういうのスパゲッティシンドロームって言うんですっけ」
「何処かに繋がれているわけではないな」
「実物は見たことないけど、なんだかミイラみたいですね。これって死体ってことでいいんでしょうか。それとも趣味の悪い人形?」
「どちらでもいいんじゃないか」
これが不審死を遂げた遺体だとしたら、今までに目にした不審死は三体目になる。
先日の土と草に塗れた何かもカウントするのであれば四体目だ。アキは死体かもしれない何かと対面しているというのに驚きも緊張もしない、それどころか冷静なまま歩み寄ってそれが何であるのか気になってばかりいる自分に気付いた。
これが都会の人間特有の麻痺というものなんだろうか──死体と戦争では話が別?だとしたら自分も都会に染まってきていると言えるのかも。
アキが隣の環をちらりと盗み見ると彼は黙って人型を見下ろし、物思いに耽っている。想像通り彼にとってもこれは心を揺り動かすほどのものではないらしい。
「でも私、いつかこういうのが出てくるとは思ってたんですよ」
「悲観的だな」
「悲しんでいるわけではないですよ。あんだけお金が貰えて、現状目立った危険も無いというのに綺麗なものばかり出てきたら逆に怪しいです」
そういうものなのか──環は呟いて席に戻っていく。
環がこれは記録をすることにアキは少しだけ安心していた。レインコートや石のような一見して物が何か分かるもの、その上でその状態を言語化出来るものにはコレは到底当てはまらない。
赤い管が人間のようなものをぐるぐる巻きにして覆っている、とは書けそうになかった。環がこれに対してどのような文章を書いているかは分からないし、自分が書いたところで社員からダメ出しされるようなことは無いのだろうが……何となく恥ずかしいというのがアキの心境であった。
記録係でない時にすべきことがあるとすれば記録係にモノの状態を尋ねられたら確認する……という程度の仕事しかないが、環が記録を行う時に呼ばれた事は一度も無い。アキはふと自分が記録をする際に何度も彼に話しかけていることに気付いた。
本来であれば一々そこまで真面目にやる必要もないのだろうが、そうして彼に何度も話しかけるのは彼との話題が途切れるのが怖いと感じているから?沈黙が嫌いだから?
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