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不埒
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廊下の突き当たりにあるドアを押し上げると同時に鼻腔をくすぐるよい香りがした。
「懐かしいな」
リビングに足を踏み入れた直後に俺はそう言葉を零した。
「懐かしいって、そりゃ当たり前でしょ。一年もここにきてないんだから、懐かしくて当然よ」
背後から声がしたと思ったら次の瞬間なぜか尻をげしっと蹴られていた。
「人の父をぎっくり腰にして放っておくなんてアンタ最低ね」
「そう言うお前だって放ってんだろうが。今も隆弘さんの呻き声が向こうから聞こえるぞ」
「娘だからいいのよ、私は」
どういう理屈だ。
「そもそも、ぎっくり腰にさせたのは俺じゃなく彼方だ。咎められる理由がねえよ俺には」
「彼方はしないわよねそんなこと」
「はいっ」
満面の笑みで嘘を吐く彼方。悪魔のような奴だ。
「というか何でお前らそんな馬が合うようになってんだよ。初対面の時なんかお前怖い怖い言ってた癖して」
「人のこと言えないでしょうがアンタも」
「は? 何で俺が人のこと言えねえんだよ。わけわかんねえ」
「まさか自覚してないの? はぁ~ほんっと最悪な奴」
「露骨にため息吐かれちゃ温厚な俺でも怒るぞ」
「アンタのどこに温厚の要素があるのよ。温の字も当てはまらないでしょ」
酷い言われようだ。ちょっぴり涙が出そうになったぞ今。
そんな風に、俺と遠江がくだらない口論を繰り返していると、ひょっこりと台所から一人の女性が顔を覗かせた。
「ねぇ~。ちょっと料理運んでくれない?」
彼女の名前は遠江昇華。この遠江家の唯一のおっとり系といっても過言ではない女性であり、遠江の母親である。
やはり親子というべきか、昇華さんの髪色は娘たちと同じで黒色である。その鮮やかな黒髪は腰まであり、可憐で清楚な印象を持たせる。
少し垂れ下がった目もまた印象的で、その黒髪と見事にマッチングしている。
おそらく昇華さんについて何も知らない人がいれば間違いなく彼女のことを二十歳前半、もしくは後半と言うだろうが、実際彼女の年齢は四十五でいい年頃の叔母さんと言える。しかしそんな年でも未だこのように若く見させているのは凄いと言わずにはいられない。
過去に一度突然昇華さんに告白して玉砕し、さらには隆弘さんに追いかけ回された男がいたが、あの人はまだ生き続けているだろうか。
「あ、柚季君じゃない~。こんばんは~」
その場で手を振りながらジャンプを繰り返す昇華さん。
この人はいわゆるおっとり天然タイプという奴だ。遠江家の唯一の癒しと言ってもいい。
それに……。
たゆんっ、たゆんっ。
揺れる揺れる。二つの山がジャンプの弾みで揺れるに揺れる。
流石は遠江の母親というべきか、胸のサイズは凄い。娘を超え、爆乳の域に達している。
そういえば、あいつはなぜか昇華さんの遺伝を受け継ぐことが出来なくて、貧乳だったなぁ。
ま、そんなことはいいか。久しぶりの昇華さんのお山さんだ。しっかりと脳に保存をしとかなくては。
「……ふん!」
ズゴンっ!
股間から、嫌な音。
恐る恐る視線を下げ、自分の股間を注視する。
――見事に、めり込んでいた。
何がかって? わかるだろう。そう、彼方の足が、俺の股間に見事にめり込んでいるんだよ。
「ふぎぅおっ!?」
股間を押さえて倒れ込む。今の俺は間違いなく無様としか言いようがないだろう。
「不埒です」
「男の股間蹴る奴が言う台詞じゃねえ……ッ!?」
つか痛い! 痛いというか苦しい! 流石は男の最大の急所。少女の蹴り一つで地に伏すことになるとは。
「何してんのよ、アンタは」
見上げれば、まるでゴミを見るような目で遠江が俺を見ていた。
それに俺は放っておいてくれ、と俺は小さな声で言ったのだった。
「懐かしいな」
リビングに足を踏み入れた直後に俺はそう言葉を零した。
「懐かしいって、そりゃ当たり前でしょ。一年もここにきてないんだから、懐かしくて当然よ」
背後から声がしたと思ったら次の瞬間なぜか尻をげしっと蹴られていた。
「人の父をぎっくり腰にして放っておくなんてアンタ最低ね」
「そう言うお前だって放ってんだろうが。今も隆弘さんの呻き声が向こうから聞こえるぞ」
「娘だからいいのよ、私は」
どういう理屈だ。
「そもそも、ぎっくり腰にさせたのは俺じゃなく彼方だ。咎められる理由がねえよ俺には」
「彼方はしないわよねそんなこと」
「はいっ」
満面の笑みで嘘を吐く彼方。悪魔のような奴だ。
「というか何でお前らそんな馬が合うようになってんだよ。初対面の時なんかお前怖い怖い言ってた癖して」
「人のこと言えないでしょうがアンタも」
「は? 何で俺が人のこと言えねえんだよ。わけわかんねえ」
「まさか自覚してないの? はぁ~ほんっと最悪な奴」
「露骨にため息吐かれちゃ温厚な俺でも怒るぞ」
「アンタのどこに温厚の要素があるのよ。温の字も当てはまらないでしょ」
酷い言われようだ。ちょっぴり涙が出そうになったぞ今。
そんな風に、俺と遠江がくだらない口論を繰り返していると、ひょっこりと台所から一人の女性が顔を覗かせた。
「ねぇ~。ちょっと料理運んでくれない?」
彼女の名前は遠江昇華。この遠江家の唯一のおっとり系といっても過言ではない女性であり、遠江の母親である。
やはり親子というべきか、昇華さんの髪色は娘たちと同じで黒色である。その鮮やかな黒髪は腰まであり、可憐で清楚な印象を持たせる。
少し垂れ下がった目もまた印象的で、その黒髪と見事にマッチングしている。
おそらく昇華さんについて何も知らない人がいれば間違いなく彼女のことを二十歳前半、もしくは後半と言うだろうが、実際彼女の年齢は四十五でいい年頃の叔母さんと言える。しかしそんな年でも未だこのように若く見させているのは凄いと言わずにはいられない。
過去に一度突然昇華さんに告白して玉砕し、さらには隆弘さんに追いかけ回された男がいたが、あの人はまだ生き続けているだろうか。
「あ、柚季君じゃない~。こんばんは~」
その場で手を振りながらジャンプを繰り返す昇華さん。
この人はいわゆるおっとり天然タイプという奴だ。遠江家の唯一の癒しと言ってもいい。
それに……。
たゆんっ、たゆんっ。
揺れる揺れる。二つの山がジャンプの弾みで揺れるに揺れる。
流石は遠江の母親というべきか、胸のサイズは凄い。娘を超え、爆乳の域に達している。
そういえば、あいつはなぜか昇華さんの遺伝を受け継ぐことが出来なくて、貧乳だったなぁ。
ま、そんなことはいいか。久しぶりの昇華さんのお山さんだ。しっかりと脳に保存をしとかなくては。
「……ふん!」
ズゴンっ!
股間から、嫌な音。
恐る恐る視線を下げ、自分の股間を注視する。
――見事に、めり込んでいた。
何がかって? わかるだろう。そう、彼方の足が、俺の股間に見事にめり込んでいるんだよ。
「ふぎぅおっ!?」
股間を押さえて倒れ込む。今の俺は間違いなく無様としか言いようがないだろう。
「不埒です」
「男の股間蹴る奴が言う台詞じゃねえ……ッ!?」
つか痛い! 痛いというか苦しい! 流石は男の最大の急所。少女の蹴り一つで地に伏すことになるとは。
「何してんのよ、アンタは」
見上げれば、まるでゴミを見るような目で遠江が俺を見ていた。
それに俺は放っておいてくれ、と俺は小さな声で言ったのだった。
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