未来の貴方にさよならの花束を

まったりさん

文字の大きさ
上 下
4 / 13

関わらないでくれ

しおりを挟む
「……はぁ」
 散々な目に遭った。こんなに疲れる一日は久々だと、僕はいつものように桜の木に寄っかかりながら思った。
「……なんなんだあの女は」
「小夜曲ユキだけど?」
「名前は知ってるんだよ、でも行動からなにまで謎過ぎ……る……って」
「ん? どうしたの?」
 右を向けばすぐそこに小夜曲がいた。
「ストーカーかお前は!」
 流石にびっくりした僕は少し距離を取ってそう叫んだ。
「別に、私もお気に入りの場所に来てるだけだよ?」
「お気に入りの場所、ねぇ……。一ヶ月くらい前に見つけたばかりの奴がよく言えるよ」
「私が見つけたのは一ヶ月前くらいじゃないよ、もっともっと前」
「少なくとも僕はここに毎日のように来てる。それも五年前から。そうしてここに誰かがやって来ることは殆どなかった。……小夜曲は来てなかったはずだよ」
「だろうね」
 そうして彼女はくすくすと笑った。
「ちなみに私がこの場所を見つけたのは十年前だよ」
「十年前……?」
「そうだよ」
 小夜曲は頷いて、言葉を続けた。
「この桜の木は、春桜が咲き誇り、夏は緑が生い茂り、秋になると緑は赤に染まって、冬になると全て散る。この場所でその光景を見るのは凄く幻想的で美しい、違う?」
「その通りだ」
 この場所は、あらゆる季節でも美しく見える。春夏秋冬、どんな時でも美しい。
「でも、どうしてあんまり有名じゃないんだろう……こんなにも綺麗なのに」
「そりゃあ整備もされてない森の向こう側にある場所なんだから、行くのも面倒だし見つけるのも一苦労だ。僕はたまたま歩いてたら見つけた」
「私は、教えてもらったんだよね、優しい男の人から」
「優しい男の人……?」
「うん! まぁでもこの話はプライベート、詮索はしないようにね」
「はいはい、別に興味もないからいいよ」
「少しくらい興味持ってくれてもいいのに……」
 ぼそぼそとなにか言ってたが僕は無視する。
「なぁ、小夜曲」
「ん? なにー?」
 僕は落ちている桜の花を拾って手で弄ぶようにしながら言った。
「最後の忠告だ、僕に関わらないでくれ。関わって、結果損をするのはお前だ」
「なんで決めつけるの?」
「……そう思うからだよ」
「根拠のない理論だなぁ……でも私は君と関わるのをやめることはないよ」
「なんで」
 尋ねると小夜曲は僕に微笑みかけて、
「私は過去、君に助けられたから」
「お前の過去に……僕が?」
「うん、君の記憶には残ってないんだろうけどね」
「むぅ……」
 確かに記憶にない。よっぽど昔のことだったんだろう。
「ごめん」
「あはは、いいよ。別に覚えてないのは無理ないし。それにしても誠から謝罪の言葉が聞けるとは意外だなぁ」
「……悪かったなもう言わないよ」
「あーごめんごめんごめん。別にそう言ってるわけじゃないんだよ」
「……まぁ、昔会って僕に本当に恩があるなら関わってきたことに合点はいくな。嘘って可能性もあるけど」
「疑いすぎ、こういう時くらい信じてよ、誠」
 手をギュッと握ってくる。
「うわ、めっちゃ嫌そう」
「そう見える?」
「ゴキブリを素手で触るような感じの顔をしてるよ」
 しまった、条件反射で顔に出てしまっていたらしい。
「あっ……」
 僕がその手を振りほどくと、小夜曲は少し悲しそうな声を上げた。
「……悪いけど僕にとって君は一ヶ月前に一度だけ会っただけの女だ。距離感も掴めないし、だから僕と話しててもなにも楽しくないと思う」
「楽しい、楽しくないじゃないよ」
 すると僕の手をまた小夜曲は自分の手で包み込む。
「傍にいたいからいるんだよ、私は誠に恩義がある、だから傍にいる、いたいからいるんだよ」
「……小夜曲……」
「それに私は誠といて楽しいよ、誠はそんなことなかった?」
「僕は……」
 少し考えて、僕はその場から離れた。
「帰るの?」
「……帰る、もう良い時間だしな」
「質問に答えてくれないの?」
 再度問い質してくる小夜曲。僕は笑いながら、
「疲れる時間だったよ」
 あと、と僕は付け加えて、ぼそりと呟く。
「僕が本当に君を助けて、君は恩義を感じてるのなら……」
 呆然と空を見上げて、こう言った。
「……君は尚更、僕から離れた方がいいと思うけどね」
「え……?」
「うぅん、なんでもない。一言多かった」
 僕は桜の木から数歩歩いて振り返り、
「それじゃあね、小夜曲。また学校かこの桜の木で」
 そうして僕はその場を立ち去った。
 ……疲れた一日だった。でもなぜか、苦痛な時間ではなかった。
 つまり、小夜曲と関わった今日一日を僕は……。
「楽しんでいたってことか……」
 帰路を辿りながら僕は一人そう呟くのだった。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...