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入学式

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 そうして、入学式の日。桜はまだ現役で、本当に全部散るのかと思うくらいには満開だ。
 ちなみに僕の通う高校は学力は低すぎず高すぎず、普通といったところだ。中学生時代そこまで勉強しなかったし、僕の力ではこのくらいが限界だろう。
 まぁなぜ僕がこの高校を通うことにしたのか。それは先ほども言った通り学力的にもここが限界だったって言うのもあるが、他にももちろんある。
 それは、あの桜の木が近いからだ。この高校はあの桜の木の一番近い位置にある、だからこの高校を選んだんだ。
「……急ぐか」
 そろそろ時間的にも危うい。僕は急ぎ足で通学路を辿ったのだった。


 入学式が終わり、指定されたクラスで待機していた。
 席は自由らしい。なんて自由な学校だ。ぐれる奴絶対いるだろ。そのぐれる奴のいじめの対象にならないことを祈るのみだ。
 そんなことを考えながらぼーっとしていると、がらりと教室のドアが開いた。
 年齢は三十代前半、にこにこしながら入ってきた。この先生あれだ、生徒みんなと仲良くする系のタイプだ。つまり僕の苦手なタイプだ。ぼっちはぼっちを好んでぼっちしてるんだから僕のテリトリーを邪魔しないでほしいものである。
 まぁ……考え過ぎか。人を外見だけで判断してはならないと愛しのママンに耳を引き裂かれるくらいには何度も何度も聞かされた。
 さぁ担任の話を聞いてやろう。性格を判断するのはそのあとだ。
『初めまして、担任の中川です。みんなとは下の名前で呼び合うくらいには仲良くなりたいので、仲良くしてくださいね! 相談でもなんでも言っていいから、ね?』
 年を考えてほしいものである。
 どう考えてもこの担任は三十路だ。そんな三十路と今を生きる学生が仲良くできるはずがないだろう。
 仮に仲良くなったとしてもそこには確実に媚びが入っているはずだ。
 ……と、こんなひねくれた考え方をしてるから友達が出来ないんだろうなぁ。
「ん?」
 気が付けば出席番号一番から自己紹介をしていた。僕は奈羅なので、自己紹介は中盤辺りか。
 自己紹介はこれといって考えなくていいだろう。なにせ、僕は誰とも仲良くする気なんてないんだから。
「小夜曲ユキです」
「……え?」
 その名前は、僕の耳の中にスッと入ってきた。
 聞いたことがある。あまりにも珍し過ぎる名前。印象的すぎてずっと頭に残ってた名前だ。
 視線を上げる……そこに、小夜曲ユキという少女が映りこんだ。
 綺麗な女性だった。肩くらいまでにしかない短い金髪の髪。窓から風が吹く度にその金髪の髪がふわりと揺れる。
「へぇ……」
 感嘆の声を漏らす。
 僕が前話していた女の子はこんなにも可愛らしい女の子だったのかと素直に感心した。
 にしても同じ高校だったとは、妙な縁もあるものだ。しかも同じクラスときた。偶然って本当に凄いものである。
『次は……誠君!』
「っ……!?」
 突然ファーストネームで呼ばれびくりと体を震わせる。
 なんだこの担任、初対面なのに馴れ馴れし過ぎるだろ、と思いつつ僕は教壇に上がってクラスメイト達を見渡した。
 真面目そうな子もいるが、不良っぽい子もいる感じだなぁ……。学力そこまでいらないから仕方ないと言えば仕方ないんだが。
 ……まぁ、ありきたりな自己紹介をして終わるか。
「奈羅誠です。よろしく」
「はい!」
「えっ……」
 自己紹介を終えたと思ったら誰かが声を上げながら挙手をした。
 その挙手したクラスメイトというのが……小夜曲ユキだった。
「えっと……なにしてんの?」
「なにって、質問だよ質問。自己紹介した後には必ず質問タイムがあるんだよ? もしかして聞いてなかったの?」
 小馬鹿にするような態度で言いながら、小夜曲は質問を僕に投げかけた。
「誠は彼女とかいるの?」
「いませんけど」
 なにこの女喧嘩売ってるの?
 つかなんでもうファーストネーム? 担任といいこいつといい馴れ馴れしい奴が多くないかこのクラス。
「……ふぅ」
 自己紹介も終わり、僕は席に座るや否や息を吐いた。
「お久しぶり」
「前の席だったのか……」
 全然気が付かなかった。
「偶然と偶然が重なって一緒の学校、さらには一緒のクラスになったね」
「そうだなー」
「ちょっと、なんでそんなめんどくさそうに言うのよ」
 事実面倒臭いしね。
「悪いけど僕はあんまり人とは仲良くなるつもりはないんだよ。友達を作ったところで何の意味もないしね」
「そう? 友達いないと嫌じゃない? 寂しくない?」
「感性の違いって奴だよ。僕と君は違う。僕は好き好んで一人でいるんだ、ほっといてほしいな」
「もしかしてぼっち?」
「ぼっちだよ、別に否定しない」
「じゃあ今日からぼっちじゃないね、良かったじゃんぼっち脱却」
「僕は好き好んでぼっちでいるって言ってるのに……」
 はぁ、とこれ見よがしにため息を吐く。小夜曲はそんな僕をちっとも気にせずにこにこと僕の顔を見ている。そんなに僕の顔がブサイクで面白いかこの野郎。
「というか今授業中、前向いときなよ」
「大丈夫だよ、多分あの先生怖くないし」
「そうやって雰囲気だけで判断する思考苦手だな、僕」
「そうかな、誰だって外見や雰囲気で判断するよ。この人は優しそうだ、怖そうだ、とか。そういった思考は外見や雰囲気で決まる。そして、そうやって考えて外れることは殆どない。結局誰しも外見で結構判別がつくものだよ」
「……時には違う場合だってあるよ」
「ごく稀にね」
 そう言って彼女はウインクをした後前を向いた。これから学校に行くたびにこいつに絡まれるんだと考えると結構憂鬱だ。
 ほんっと……。
 窓から見える空を見ながら僕は心中で言葉を零す。
 ……どうなっても知らないぞ、まったく。
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