戒めの銀時計

ふじゆう

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三。

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『皆さん、お食事中に失礼します』
高鳴る鼓動を抑えることができないでいた。額からは、冷や汗が流れてくる。俺は放送室のマイクの前で座り、口元を押えて小さく咳をした。背後には、担任教師が腕組みをしている。
『少しだけで良いので、俺の話を聞いて下さい』
 職員室で必死になって懇願し、担任教師が一緒に、学年主任・教頭・校長と説明し許可を取り付けてくれた。
『俺の大切にしていた銀時計が、無くなってしまいました。それは、亡くなった祖父が大切にしていた時計です。どうか、心辺りがある人は、返して下さい』
 俺は、少しマイクから離れ、俯いた。そして、小さく息を吐く。
『俺は犯人探しがしたい訳ではありません。大切な銀時計を返してくれさえすれば、それで十分なんです』
 心臓が警鐘を鳴らすかのように、大暴れしている。制服の左胸を掴んで、目を閉じた。
『俺は、嘘をつきました。祖父や親友そして、多くの友人に。俺が大切にしている銀時計は、俺の物じゃありません。俺が祖父から、盗んだんです。大切な銀時計がなくなって、悲しんでいる祖父を見ながら、嘘をつき続けました。そして、正直に打ち明ける前に、祖父は亡くなってしまいました』
―――マサキ・・・じいちゃんの懐中時計を知らないか?
 祖父の最後の言葉が頭の中を駆け回る。祖父の悲しそうな顔が、刻印のように張り付いている。
祖父のあの悲しそうな顔は、銀時計がなくなったからでは、ないのかもしれない。
祖父は大切な銀時計を、俺が盗んだことを知っていたのかもしれない。
 そして、最後に、告白するチャンスを与えてくれたのかもしれない。
『お願いします。心当たりがある人は、返してください。直接、返すのが気まずかったら、俺の机に入れておくなり、先生に預けるなりどんな方法でも構わないので、お願いします』
 俺はマイクに向かって頭を下げた。重力に負けるように、涙が零れそうになった。
『どうか、お願いします』
 声が震えて、しっかり伝わったのか、分からなかった。
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