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初日
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僕が目を覚ますと、見たこともない知らない場所にいた。慌てて体を起こすと、頭痛が走り、頭を抱えて丸くなった。痛みが薄れると、顔だけを動かし、周囲の様子を伺った。どこかの部屋のようだ。そして、僕はその部屋の一角に設置されている檻の中にいる。四方と天井が鉄の柵で囲まれた檻だ。鉄に触れてみると、ひんやりと冷たかった。
どうして、僕はこんな所にいるんだ?
何も思い出せない。混乱した頭で考えても、何も答えは降ってこなかった。パニックを起こすギリギリにいる事は分かる。深呼吸を繰り返し、なんとか冷静を保っている。すると、目の前にある扉が静かに開いていく。僕は、反射的に身構えた。目を凝らして、扉を見つめている。
扉の隙間から黒い顔が覗き、部屋の中の様子を探っているようだ。逆光になって、顔が確認できない。扉を全開にし、人が歩み寄ってくる。僕は警戒心を強め、檻の端へと後退った。
「あ! 目を覚ましたんですね? 良かったーもう丸一日も眠ったままだったんですよ!」
無邪気な声を上げている人物は、声から女性であることだけは、理解できた。女は頭上へ手を伸ばし、垂れた紐を引っ張った。チカチカと小さな音を立てて、電球に明かりが灯る。僕は突然浴びた光に目がくらみ、目元を押さえて座り込んだ。
「だ、誰だ?」
「もーやだ、先輩ったら、前くらい隠して下さいよ」
笑いを含んだ女性の声に、脊髄反射で顎を引くと、僕は全裸でいる事に気が付いた。僕は慌てて、床の毛布を拾い上げ、下半身にあてがった。目のくらみが落ち着き、人物の顔を凝視する。
「あ! 君は、確か・・・総務部の花村さん?」
「あー覚えててくれたんですねー! 嬉しいなあ! 愛を感じちゃう!」
彼女は、嬉しそうに、明るい声を上げる。
「こ、これは、どういう事なんだ?」
「もう、大変だったんですよ! 酔いつぶれちゃった先輩をここまで運んでくるの」
酔いつぶれた? 僕が? 何も思い出せない。まだ現状を把握できない。
「まあ、お酒の中にちょこっとだけ、薬を入れたんですけどね。効果てきめんですね! ビックリしちゃった!」
親指と人差し指の間に微かに隙間をあけて、彼女は微笑んだ。薬って・・・僕は背筋に悪寒が走り、息を飲んだ。
「君がどうして、そんな事を?」
「えー? だってー私、夏樹先輩に告白したじゃないですかあ?」
「それなら、断ったじゃないか。僕には、彼女がいるからって」
「だから、悪い女に騙されてる夏樹先輩を助けて上げようと思って。洗脳って怖いですよね? でも、安心して下さい! 私が、守ってあげますからね」
彼女の言っている意味が、まるで理解できない。僕は恋人と上手くやっているし、そもそも花村さんとプライベートな話をした事は一度もない。確か、昨日は、会社の飲み会があって、それから・・・少しずつ記憶が戻ってきた。
「ちょっと待って! 別に騙されていないし、君可笑しいんじゃないか? 確かに告白されたけど、そもそも僕とはあまり接点ないだろ? これは、明らかな犯罪だぞ!」
「もう、キャンキャン吠えないで下さいよ! 可笑しいのは、先輩の方です。先輩が、悪い女に騙されてるって警察に言ったんですよ! でも、警察が取り合ってくれないから、私が先輩を守るしかないじゃないですか? いつも優しい笑顔で挨拶してくれる先輩を守らなきゃ! 新入社員の時、私が困っていた時に、助けてくれた先輩を救いたいだけです。先輩の愛情は、しっかり受け止めましたから。だから、もう安心して下さいね。あの悪い女もここまでは、追ってこないでしょうから」
つらつらと意味不明な事を並べる彼女に、僕は開いた口が塞がらなかった。少し冷静さを取り戻しつつあった思考回路が、複雑に絡まっていく。
「でも、洗脳を解くのって、時間がかかりそうですね。きっと、一から・・・いや、この際、しっかり躾をしていかないとダメですね。分かりました。今日から、夏樹先輩は、私の犬です」
彼女は、気味の悪い笑みを顔面に張り付けて、檻を掴んだ。僕は寒気を感じ、毛布を体に巻き付ける。
「君は、今日からナツ。私がしっかり面倒を見てあげるからね」
神経を逆なでする甲高い笑い声を上げた彼女は、部屋から出て行った。
目の前が真っ暗になり、僕は座り込んだ。
どうして、僕はこんな所にいるんだ?
何も思い出せない。混乱した頭で考えても、何も答えは降ってこなかった。パニックを起こすギリギリにいる事は分かる。深呼吸を繰り返し、なんとか冷静を保っている。すると、目の前にある扉が静かに開いていく。僕は、反射的に身構えた。目を凝らして、扉を見つめている。
扉の隙間から黒い顔が覗き、部屋の中の様子を探っているようだ。逆光になって、顔が確認できない。扉を全開にし、人が歩み寄ってくる。僕は警戒心を強め、檻の端へと後退った。
「あ! 目を覚ましたんですね? 良かったーもう丸一日も眠ったままだったんですよ!」
無邪気な声を上げている人物は、声から女性であることだけは、理解できた。女は頭上へ手を伸ばし、垂れた紐を引っ張った。チカチカと小さな音を立てて、電球に明かりが灯る。僕は突然浴びた光に目がくらみ、目元を押さえて座り込んだ。
「だ、誰だ?」
「もーやだ、先輩ったら、前くらい隠して下さいよ」
笑いを含んだ女性の声に、脊髄反射で顎を引くと、僕は全裸でいる事に気が付いた。僕は慌てて、床の毛布を拾い上げ、下半身にあてがった。目のくらみが落ち着き、人物の顔を凝視する。
「あ! 君は、確か・・・総務部の花村さん?」
「あー覚えててくれたんですねー! 嬉しいなあ! 愛を感じちゃう!」
彼女は、嬉しそうに、明るい声を上げる。
「こ、これは、どういう事なんだ?」
「もう、大変だったんですよ! 酔いつぶれちゃった先輩をここまで運んでくるの」
酔いつぶれた? 僕が? 何も思い出せない。まだ現状を把握できない。
「まあ、お酒の中にちょこっとだけ、薬を入れたんですけどね。効果てきめんですね! ビックリしちゃった!」
親指と人差し指の間に微かに隙間をあけて、彼女は微笑んだ。薬って・・・僕は背筋に悪寒が走り、息を飲んだ。
「君がどうして、そんな事を?」
「えー? だってー私、夏樹先輩に告白したじゃないですかあ?」
「それなら、断ったじゃないか。僕には、彼女がいるからって」
「だから、悪い女に騙されてる夏樹先輩を助けて上げようと思って。洗脳って怖いですよね? でも、安心して下さい! 私が、守ってあげますからね」
彼女の言っている意味が、まるで理解できない。僕は恋人と上手くやっているし、そもそも花村さんとプライベートな話をした事は一度もない。確か、昨日は、会社の飲み会があって、それから・・・少しずつ記憶が戻ってきた。
「ちょっと待って! 別に騙されていないし、君可笑しいんじゃないか? 確かに告白されたけど、そもそも僕とはあまり接点ないだろ? これは、明らかな犯罪だぞ!」
「もう、キャンキャン吠えないで下さいよ! 可笑しいのは、先輩の方です。先輩が、悪い女に騙されてるって警察に言ったんですよ! でも、警察が取り合ってくれないから、私が先輩を守るしかないじゃないですか? いつも優しい笑顔で挨拶してくれる先輩を守らなきゃ! 新入社員の時、私が困っていた時に、助けてくれた先輩を救いたいだけです。先輩の愛情は、しっかり受け止めましたから。だから、もう安心して下さいね。あの悪い女もここまでは、追ってこないでしょうから」
つらつらと意味不明な事を並べる彼女に、僕は開いた口が塞がらなかった。少し冷静さを取り戻しつつあった思考回路が、複雑に絡まっていく。
「でも、洗脳を解くのって、時間がかかりそうですね。きっと、一から・・・いや、この際、しっかり躾をしていかないとダメですね。分かりました。今日から、夏樹先輩は、私の犬です」
彼女は、気味の悪い笑みを顔面に張り付けて、檻を掴んだ。僕は寒気を感じ、毛布を体に巻き付ける。
「君は、今日からナツ。私がしっかり面倒を見てあげるからね」
神経を逆なでする甲高い笑い声を上げた彼女は、部屋から出て行った。
目の前が真っ暗になり、僕は座り込んだ。
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