上 下
2 / 14

ハッピーエンド(ゲルダ)

しおりを挟む



 あの女も転生者だったなんて!
 道理で嫌がらせをしてこなかったわけだ。死ぬエンドを避けて必死に逃げていたってわけじゃない!
 なんて嫌らしい、イヤな女!


「ゲルダ、顔色が良くないね」
 ボニファツ王子がわたしを抱き寄せて言った。
 ハイデマリーを王宮から追い出した後、わたしは王子と一緒に自分の部屋に下がった。もうすっかり住み慣れた王宮でのわたしの部屋だけど、ここはまだ客間だ。

 正式に婚約者として認められたから、今夜からは王太子妃の部屋に移ることになってる。結婚式は準備があるから少し先だけど、実質的には王太子妃として扱われるってこと。

 今までずっと、ハイデマリーが邪魔だった。

「ボニファツ様、わたし、こ、怖くて、……っ」
 わたしはボニファツ王子の胸に飛び込み、背中を丸くして小さくなった。華奢で可憐なわたしを抱きしめた王子の熱い吐息が耳にかかる。

「ハイデマリーは極寒の地に行った。もう帰ってくることはないよ」
「でも……でもっ……」

 あの女がまだ生きているってことが絶対にイヤなのよ!

 とは、さすがに王子には言いにくいから心の中でだけ叫んだ。

 エンディングでハイデマリーは死ぬ。死に方はゲルダが誰と結ばれるかで変わるけど、死ぬことだけは間違いない。生きてるのがおかしい。
 あの女も転生していたとしても、ヒロインはわたしだ。悪役令嬢は添え物、引き立て役なんだから、ちゃんと動いて貰わないと。ハッピーエンドに生き残っている悪役令嬢なんて、ひどい出来損ない。

「かわいそうなゲルダ。今まで酷い目に遭わされてきたんだね。でももう大丈夫だよ。君は王太子妃になるんだ。あの女は君に手出しなんかできない。私が必ず守るよ」
「ボニファツさまぁ……」
 わたしはぎゅっと、恋人にしがみついて泣き真似を続けた。ボニファツ王子が耳にキスしてくるのを受け入れる。

 二十歳前の男の子なんて、女の匂いで理性がふっとぶものらしい。さすがに王子様だけあって乱暴なことはされたことはないけど、胸やお尻に触りたがってるのはわかる。

 もう妻も同然という状況になったら、多少はって思うよね。
 いいよ。
 だってわたしはヒロインで、王子はヒーローだし。


 わたしはこの人と幸せになるの。
 将来は王様になるかっこいい王子様。たくさんのお金、敬ってくれる人たち。とびきりの贅沢をしたいわけじゃないけど、何不自由ない暮らしは送れるよね。
 政治とかそういうのは王様の仕事だからしっかり頑張って稼いでほしい。わたしはそばでニコニコしていてあげる。

 わたしはハッピーエンドのお姫様。みんなが羨んで、眩しそうに見つめてくるの。
 神殿で愛を誓った後、わたしたちは白い豪華なドレスで王都をパレードするんだ。特別につくられる王家の凱旋馬車に王子とわたしが乗り込むの。
 花びらが舞い散って、みんなが口々にお祝いの言葉を叫ぶわ。

 おめでとうございます、ゲルダ様! ボニファツ様! ってね。
 わたしたちは輝くような笑顔で手を振って応えてあげる。

 みんな幸せ。
 それがボニファツ王子とヒロイン・ゲルダのハッピーエンドだ。



 だから悪役令嬢なんて本当に邪魔なの。
 ちゃんと死んで貰わなくちゃ。
 
 すぐにお父様にお願いしよう。早馬を出したら間に合うかしら。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】慈愛の聖女様は、告げました。

BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう? 2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は? 3.私は誓い、祈りましょう。 ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。 しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。 後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。

私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!

杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。 彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。 さあ、私どうしよう?  とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。 小説家になろう、カクヨムにも投稿中。

【完結済み】当主代理ですが、実父に会った記憶がありません。

BBやっこ
恋愛
貴族の家に生まれたからには、その責務を全うしなければならない。そう子供心に誓ったセリュートは、実の父が戻らない中“当主代理”として仕事をしていた。6歳にやれることなど微々たるものだったが、会ったことのない実父より、家の者を護りたいという気持ちで仕事に臨む。せめて、当主が戻るまで。 そうして何年も誤魔化して過ごしたが、自分の成長に変化をせざるおえなくなっていく。 1〜5 赤子から幼少 6、7 成長し、貴族の義務としての結婚を意識。 8〜10 貴族の子息として認識され 11〜14 真実がバレるのは時間の問題。 あとがき 強かに成長し、セリとしての生活を望むも セリュートであることも捨てられない。 当主不在のままでは、家は断絶。使用人たちもバラバラになる。 当主を探して欲しいと『竜の翼』に依頼を出したいが? 穏やかで、好意を向けられる冒険者たちとの生活。 セリとして生きられる道はあるのか? <注意>幼い頃から話が始まるので、10歳ごろまで愛情を求めない感じで。 恋愛要素は11〜の登場人物からの予定です。 「もう貴族の子息としていらないみたいだ」疲れ切った子供が、ある冒険者と出会うまで。 ※『番と言われましたが…』のセリュート、ロード他『竜の翼』が後半で出てきます。 平行世界として読んでいただけると良いかもと思い、不遇なセリュートの成長を書いていきます。 『[R18] オレ達と番の女は、巣篭もりで愛欲に溺れる。』短編完結済み 『番と言われましたが、冒険者として精進してます。』 完結済み 『[R18]運命の相手とベッドの上で体を重ねる』 完結 『俺たちと番の女のハネムーン[R18]』 ぼちぼち投稿中

【完結済み】王子への断罪 〜ヒロインよりも酷いんだけど!〜

BBやっこ
恋愛
悪役令嬢もので王子の立ち位置ってワンパターンだよなあ。ひねりを加えられないかな?とショートショートで書こうとしたら、短編に。他の人物目線でも投稿できたらいいかな。ハッピーエンド希望。 断罪の舞台に立った令嬢、王子とともにいる女。そんなよくありそうで、変な方向に行く話。 ※ 【完結済み】

ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?

ラララキヲ
恋愛
 乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。  学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。  でも、ねぇ……?  何故それをわたくしが待たなきゃいけないの? ※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。 ◇テンプレ乙女ゲームモノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

悪役令嬢・お助けキャラ・隠しヒロインって、役割過多だと思います。

章槻雅希
ファンタジー
皇国の重鎮セーヴェル公爵令嬢アレクサンドラは学院の卒業記念舞踏会で突然第9皇子から婚約破棄を告げられる。皇子の傍らには見知らぬ少女が寄り添ってこちらを嘲笑うかのような表情で見ていた。 しかし、皇子とは初対面。アレクサンドラには婚約者などいない。いったいこの皇子は何をどう勘違いしているのか。 テンプレな乙女ゲームに転生したアレクサンドラ。どうやらヒロインも転生者らしい。でも、どうやらヒロインは隠しルートには到達できなかったようだ。 だって、出来ていれば断罪イベントなんて起こすはずがないのだから。 今更ながらに悪役令嬢ものにハマり、衝動の余り書き上げたものです。テンプレ設定にテンプレな流れ。n番煎じもいいところな、恐らくどこかで見たような流れになっていると思います。 以前なろうに投稿していたものの修正版。 全8話。『小説家になろう』『Pixiv(別名義)』にも投稿。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...