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3章 合唱コンクール

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 慈美子は城之内から嫌がらせを受けながらも健気に学校生活を過ごすのだった。そんな慈美子の学校は合唱コンクールに突入しようとしていた。慈美子のクラス・E組も合唱コンクールに向けた準備を始めた。
 学級委員の城之内が合唱コンクールの議論を取り仕切っている。

「わたくしたちの歌う曲目はBiSの『Are you ready?』に決定いたしました」
「おおおおおおお!!!」

パチパチパチパチ!!!

「ではピアノを弾きたい人は立候補して下さいまし!他薦でも構いませんわ!」
「はい!」
「はい、尾立さん!」
「私は城之内さんが良いと思います!」

 取り巻きの1人が城之内を推薦した。他には誰も立候補も推薦も無かった。教室はシーンとしている。これも城之内の計算通りだった。

「では、ピアノ担当はわたくし、城之内めに決定いたしました!」

 城之内は思惑通りピアノ担当に就任した。そして、さらに自分の思い通りの流れにしようと、てきぱきと司会を勧めた。

「では、次はソロパートを決めたいと思いますの!サビの部分はソロになりますので、ソロを歌いたい人は立候補して下さいまし!他薦でも結構ですわ!」
「はい!」
「はい、五魔寿里さん!」
「私は城之内さんが良いと思います」

 城之内は髪の毛をさらりと掻き揚げながら、思わずニヤリとしてしまった。ここまで全て計算通りである。しかし、それを聞いた先生が口をはさんだ。

「城之内さんはピアノも担当していますけれど、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですの!弾きながら歌ってはいけないというルールはございませんわ!」

 城之内は自信満々に言い張った。取り巻き達に自分を推薦するように仕向けたのは他ならぬ城之内本人である。全ては自己顕示欲が強い城之内が仕込んだ脚本通りに事が進んでいた。
 城之内は自慢の髪の毛を指にクルクル巻きにしながら進行を進める。

「他に誰もいらっしゃらないのでしたら、ソロパートもわたくしめが担当という事で決定いたしますわ!」
「はい!」
「!」

 手を挙げたのは関都だった。意外な出来事に城之内はハトが豆鉄砲を喰らったような顔をした。しかし、冷静さを取り戻し、関都を指した。

「……。はい、関都さん」
「僕は慈美子さんが良いと思います」
「え?」
「何ですって!?」

 慈美子と城之内はどっちも仰天して、2人とも目を丸くした。その意外な人選に、クラスも一斉にざわついた。先生がクラスを鎮めた。

「皆さんお静かに!」
「この間カラオケに行ったら、慈美子は歌が超上手かったからな。慈美子なら適任だ」
「そんな…私は別に…」
「やってみろよ!ものは試しだ!せっかくの歌声を隠しておくのは勿体ない!いい機会だと思うぜ!」
「…そうね…そこまで言うなら、やってみようかしら!」

 最初は戸惑っていた慈美子だったが、関都に勧められすっかりその気になっていた。慈美子は自慢の長い三つ編みを掻き揚げ大きく頷いた。
 そのやり取りを聞いていて頭に血が上ったのは城之内である。

(まぁ!!関都さんと一緒にカラオケに行ったなんて許せませんわ!わたくしでさえも1回も行った事がありませんのにぃ!)

「じゃあ、城之内さんはピアノも担当しているから、ここは慈美子さんにしましょうか?」

 先生が話をまとめようとした。慈美子はやる気十分である。これで話が決まるかに思えたが、城之内は我に返り慌てて割り込んだ!

「いいえ!ここは公平に多数決で決めましょう!いいですわね?慈美子さん!」
「え?ええ…」

 クラスでは多数決が取られた。結果は城之内の圧勝である。クラスの女子は皆城之内の傘下であり、また男子の大半も城之内に買収されていた。つまり、出来レースである。

「投票の結果!見事このわたくしめに決定いたしました!」

パチパチパチパチ!!!!

クラスは盛大な拍手喝采に包まれた。城之内は安堵した表情で、長い後ろ髪を両手の甲で持ち上げるようにかき揚げた。一時はどうなるかと思ったが、結局、城之内の手のひらで事は運ばれたのである。
城之内は後ろ髪を左肩から垂らし、司会の進行を勧めた。

「では、最後に、指揮者を決めたいと思います…」
「はい!」
「!?」

 城之内が言いかけると、慈美子が挙手をした。城之内は内心不満だったが、表情にでないように堪え、慈美子を指した。

「はい、地味子さん…」
「私は関都くんが良いと思います」
「!!」

 その言葉に城之内は驚く。まるで「アンビリーバボー!」という声が聞こえてきそうなくらいの驚きである。一方で、関都は驚いた様子がない。堂々としている。

「僕か?いいぞやっても」

 関都はのらりくらりとしている。まるで家でくつろいでいるかのように落ち着いている。しかし、城之内には誤算だった。城之内はポリゴンショックを受けたかのようによろめいた。

(くぅ~!わたくしが関都さんを推薦する予定でしたのにぃ~!先を越されましたわ~!)

 かくして指揮者は関都に決定した。そうして、E組は一致団結して合唱練習に励むのだった。
 合唱練習の休憩中、城之内は凄むように慈美子に話しに来た。

「関都さんを指揮者に推薦して下さったのには感謝致しますわ…。おかげで、わたくしは関都さんからわたくしだけのコンタクトを頂く事ができるんですもの!あなたが受けるコンタクトは飽くまでも全員に向けられたもの。関都さんが、あなただけに向けるコンタクトは1つもありませんわ!」

(まぁ!なんて嫌味な女なのかしら!)

 慈美子は最初はそんなことを気にもとめていなかったが、言われてみると改めて悔しくなった。
 合唱の練習中、確かに、関都は城之内だけへの合図を送っていた。城之内はそれに嬉しそうに反応する。しかし、自分への合図は、自分だけではなくみんなへの合図なのだ。慈美子は、関都から合図を貰う城之内を羨んだ。

「関都くんと城之内さん息ピッタリよね~」
「まるで恋人同士みたい」
「いいえ、むしろ夫婦だわ!関都くんの合図とそれをしっかり受け取る城之内さんはまさに以心伝心・相思相愛って感じ!」

 城之内の取り巻き達が慈美子にも聞こえるように2人を持てはやした。慈美子はすっかりしょぼくれてしまった。
 放課後、慈美子が落ち込んでいると、関都が話しかけてきた。

「よう慈美子!暗そうな顔してどうしたんだ?」
「関都くん…ううん。何でもないの」
「落ち込んでいるなら、またカラオケに行かないか?思いっきり歌うとパーッとなってスッキリするぞ」
「う~ん…」
「歌唱の練習にもなるし行こう行こう!」
「うん!そうね!」

 2人は学校の帰りにまたカラオケに行った。慈美子は思う存分カラオケでストレスを発散した。さらに、合唱コンクールの歌も歌った。

「サビの部分は練習しても意味はないのだけれど…」
「そんな事無いよ。お前の綺麗な歌声を聴かせてくれよ」

 慈美子は関都のその要望に応え、サビの部分も一生懸命に熱唱した。慈美子は何度も何度も合唱コンクールの歌を歌った。慈美子は、それを楽しそうに聞いている関都を気遣う声を掛けた。

「関都くんは歌わなくていいの?」
「いいよ、僕は。僕は指揮者だし、歌の練習をする必要がない。好きなだけ歌ってくれ」

 慈美子は一生懸命練習した。こうして合唱コンクールまでの月日が流れていった…。そして合唱コンクールの当日がついにやってきた。

「皆様…がんばりましょうね…」

 暗い顔をした城之内が小さいかすり声でそう呟いた。その声にクラスの皆は驚いて慌てふためく。
 取り巻きの1人が「ケホケホ」と言っている城之内に問いかけた。

「城之内さん、どうしたのその声!?」
「歌の練習のし過ぎで声が枯れちゃったみたい…ですわ…」
「その声では歌うのは無理ですね…」

 先生は城之内の今にも死にそうなその声を聴いてドクターストップをかけた。
 クラスは突然の城之内欠場に大パニックになった。ソロを歌う人が居なければ合唱コンクールに出られない。そんなクラスのパニックを鎮める1人の人物が声を上げた

「なら、私が代役を引き受けます!」

 名乗りを上げたのは、勿論、慈美子だった。クラスの皆も異存はなかった…と言うよりも、もうそれしかないと思ったのだ。しかし、城之内にとってそれは許しがたい事であった。

「大丈夫…ですわ…わたくしが歌いますの…」
「城之内はピアノに専念した方が良い!そんな声じゃ歌うのはとても無理だ!」

 関都が城之内を窘めた。城之内は嫌々、慈美子に代役を頼むことに納得した。
 こうして合唱コンクールが始まった。いよいよE組の番である。城之内はピアノに専念した。そして、いよいよ慈美子のソロである。関都は慈美子に合図を送った。

(関都くんの私だけへの合図…しっかり、受け取ったわ!)

 慈美子は見事な歌声を披露した。慈美子の天使のような歌声は会場を魅了する。E組の合唱が終わると、会場ではスタンディングオベーションが行われた。E組は勿論優勝であった。
 関都は早速慈美子に祝福の声を上げた。

「よくやったな!慈美子!」
「関都くんの指揮が良かったからよ!」

 クラスの皆も優勝できたことに大喜びしていた。その様は、まるで宴会会場の様である。
だが、せっかくの優勝を喜んでいないのが1人だけいた。城之内である。せっかく優勝しても嬉しくないのだ。

(いぃ~!わたくしの役目を横取りしてわたくしより目立つなんて!許せませんわ~!!)

 慈美子は本コンクールのMVPにも選ばれた。慈美子は賞状を手にし、無事自宅に着いた。そして、日課の日記をしたためた。やはり、関都への慕情も書かれている。

「今日はとっても楽しかったね!明日はも~っと楽しくなるよね!」

 慈美子はハムスターのぬいぐるみに話しかけて歓喜の舞を踊った。
 慈美子はそれからも1人カラオケで歌の練習を続け、綺麗な歌声を精錬させ続けるのであった。
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