推理小説

日本のスターリン

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後編

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「犯人は…

 …………

 …………

 …………

 …………

 …………

 …………

 私ですよ!」

「なんですって!?」
「正気か?」
「もちろんです。
 隠し通路の事を知っているのはこの館の持ち主である下呂とその古くからの友人である私だけです。リモコンを押すと本棚が動いて隠し扉が開くのです。隠し通路は和室に繋がっています。そして、隠し通路から和室に出た後、再びリモコンを押せば隠し扉は閉まり本棚は元に戻るため密室完成と言うわけです。下呂がなんのためにこの隠し部屋を作ったのかは定かではありませんが、それを利用させてもらいました」

 なんと犯人はトーマスだったのである!そして密室トリックを作り上げた張本人は被害者の下呂だったのだ。そう、この館は下呂の子どもの時のアイディアで作られたものである。下呂の子どもの時のアイディアの中に秘密の隠し通路があったのだ。
 下呂は冷蔵庫のマグネットにネオジム磁石を使っていたり、変わった思考の持ち主だったのだ。
 下呂が用意していたサプライズは、このひみつ通路を使って和室まで皆を案内すると言う物だったのである。実はこのサプライズを下呂に持ち掛けたのもトーマスであった。
 そう、下呂がこの館をパーティー会場に選んだのも、書庫を自分の部屋に改装したのも、全てトーマスのこの提案が決め手だったのだ。

「では復讐劇って言うのは?」
「あなたの妹さんの?」

 遊勝と伊集院がトーマスの動機に気が付いた。

「そうです。酔いつぶれた下呂が火災の真相を語ってくれましたよ
 あのビルを買い取った下呂は多額の火災保険をかけていました。そして多額の火災保険を掛けた後で、あのビルが欠陥建築である事に気が付いたのです。その欠陥ビルは修繕不能なほどのお粗末な作りでした。そのままでは取り壊すしかありません。どうせ解体するなら、火事で全焼させてしまい保険金を受け取ろう。下呂はそう思い立った」

 下呂はまたしても酔った勢いでベラベラと本当の事を喋ってしまっていたのだった。
 トーマス以外全員の顔が青ざめる。

「しかし、事故で全焼するほどの火災が起こったように見せかける偽装工作をバレないようにするには人手が必要だった。そこで下呂はドナルドに相談し、ドナルドが君たち三人に協力を呼び掛けた訳です。それを裏付ける資料やファイルがドナルドのパソコンからも見つかりましたよ。そうして5人は保険金詐欺計画を企てた…
 僕にその話が入ってこなかったのは、僕がだいぶ前から誕生パーティーに行けないから代わりに妹を行かせると言っていたからです
 君たち5人は妹には内緒で計画を実行に移しました。しかし、予想外の事が起こったのです。あまりに火の周りが早すぎて、逃げ道まで燃え上がってしまった
あとは僕も知っての通りです。妹はジャンケンに負け一人取り残されてしまいました」

 そう。トーマスの妹が火災に巻き込まれたのは、5人が巻き起こした保険金詐欺計画のせいだったのである!

「つまり、全てはその保険金詐欺事件に巻き込まれた妹の敵討ちだったという事か?」
「そうさ。俺はその、復讐の使者だ!」
「それで最初に計画を企てた主犯格である下呂とドナルドを殺害したのね?」
「その通りです」

 トーマスは遊勝と伊集院の質問に興奮した様子で返答した。
 黙って聴いていた利井二がさらに質問する。

「ではお前は自首するために推理ショーで犯行を自白したのか?」
「それは違います。トリックを明かしたのは……
ここで全員に死んでもらうからだ!恐怖に怯えながら死にゆくさまのその地獄を味わわせるために、犯人だとあえて告白したのさ」

 そう言うとトーマスは部屋から飛び出し爆弾のスイッチを押した。その部屋の出入り口はたちまち爆風に包まれた。

「捜査する振りをして館中に爆弾を仕掛けておいたのさ」

 トーマスが背負っていたリュックの中身は探偵の七つ道具なんかではない。超小型爆弾だったのである。トーマスは一目散に外へ向かった。
 一方、三人は燃え盛る炎に閉じ込められて身動きがとれない。伊集院の燃えるような真っ赤な髪に炎が燃え移った。
 その頃、トーマスは館から飛び出し、館中に仕掛けた爆弾で館を爆破した。館は粉々に崩れさり、その破片は業火に飲まれた。

「これで遺体も回収・判別不能。容疑者全員死亡で事件は迷宮入りさ。僕は裏の世界でひっそりと暮らしていく」

 トーマスはあらかじめ用意していた脱出用のゴムボートで島を後にした。
それからトーマスは人目を避けながらひっそりと余生を過ごすのだった。こうしてトーマスの復讐劇は幕を閉じた。
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2020.08.19 ユーザー名の登録がありません

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